カリアナの町
~前回のあらすじ~
団子を食べたい。
団子といえば三色団子で花見と洒落込みたかったが、出てきたのは白い団子だった。
「コーマ様、中に入っているこの黒いものは何ですか?」
「こりゃ餡子だな。小豆もとれるのか、このあたりは」
俺が呟くと、お茶を運んできてくれたお姉さんは感心したような表情を浮かべ、
「お兄さん、もしかして同郷の人かい?」
「同郷か……そうかもしれないな」
俺は微笑み、お茶を受け取るとゆっくり飲んだ。
濃い抹茶は、俺が好んで飲んでいたハッカ茶よりも遥かに旨かった。
「お勘定、ここに置いておくね」
本来なら小判でも置いていきたかったが、生憎と持ち合わせは銅貨、銀貨、金貨しかなかったので、銀貨を置いていった。
「お客さん、お釣りお釣り!」
「いいよ、久しぶりにいいものが食べられた」
俺は笑顔でそう言うと、やっぱり日本も好きなんだなぁと思った。
「ところで、町まであとどのくらいかな?」
「町なら、ここから歩いて8時間ほどだよ。途中で宿があるから、今日はそこで休んだ方がいいと思うよ」
歩いて8時間……40キロほどか。
太陽はもう真南から僅かに西へと傾いている。
たしかにフルマラソンにも匹敵するようなその距離を今から歩いて移動するなら、一度休んだ方がいいだろう。
――俺達以外……ならな!
結局、歩いて20分後には宿の前を通過し、1時間後には俺達はカリアナの町にたどり着いた。
「ここがカリアナですか」
メディナが笑って言う。
そこにあったのは、白鷺城、熊本城に匹敵するような名城、木造建築に障子の貼られた家の扉、砂の道には飛脚が走り、篭屋がお偉いさんを運び、ちょんまげを結った武士が日本刀を帯刀して歩いている――そんな景色は広がっていなかった。
家屋はほとんどが木造ではあるが、おしゃれなペンションのような西洋風の建物だった。垣根で区分けされているような家もない。
着物を着ている人こそたまに見かけるが、これまで俺が見て来たこの世界の町と何ら変わることはない。
ちょんまげなんて髪型も当然ない。
「……あぁ、日本に旅行に来た、時代劇が好きな外国人ってこんな気分なんだろうな」
カリアナができたのは数百年も前のことだしな。シグレだって普段着は見慣れた服だった。
期待し過ぎたってことか。
その代わり、町を行き交う人はほぼ全員が黒髪でその瞳もモンゴロイドだった。
「こりゃ、商品にはあまり期待できそうにないな」
と思い、俺はとりあえずは八百屋に向かった。
あるのは見慣れた野菜ばかりだ。
「こりゃハズレだな……」
カリアナに過度な期待をしすぎたか。
そう思った時――俺の目に別の店がうつった。
「……あれは」
俺は思わずその店を見つけ、走り出した。
そこにあったのは……米屋だった。
麻袋に詰められた米を見て、俺は息を飲んだ。
「おっちゃん、米を見せてもらっていいか?」
黄ばんだ前掛けをしている、頭頂部が禿た50歳くらいの店主に声を掛けた。
「おう、いいよ!」
麻袋の中の米を手で掬い、俺は確信した。
これまでこの世界で、俺は何種類かの米を見てきた。
この世界には米はある。時にはそれを使って炒飯を作ったり、時にはルシルにこっそり持ちだされて、牛乳粥の化け物と生まれ変わったりもした。
ただ、純粋のご飯として楽しむことはない。
なぜなら、米の味が違うのだ。例え料理スキルを使ってご飯を炊いても、美味しい外国産の米の味しかしない。
俺の慣れ親しんだ米の味ではないのだ。
だが、この米はどうだ?
見た目は――そう、見た目は日本の米のように思える。
問題は味がどうなのか?
試してみるか。
「おっちゃん、試しに金貨100枚で買えるだけの米を俺に譲ってくれ!」
「おいおい、店中の米を買い占めるつもりか! 勘弁してくれ、ここにあるものだけにしろよ」
やばい、興奮しすぎた。
でも、これは普通の米ではないのは確かだ。
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カリアナ米【素材】 レア:★★
カリアナで作られた米。
独特な甘みを持ち、根強いファンも多い。
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とりあえず、金貨1枚で1トンの米を買い占め、今夜はご飯パーティーをしよう。
「いやぁ、カリアナに来てよかったな。そうだ、小豆も買って帰らないとな。絶対ルシルの奴、餡子も気に入るぞ」
『コーマ様、ここに来た目的を忘れていませんか?』
後ろからマユが思念を送ってくる。
俺はマユの方を向き、忘れてないよ、と微笑みかけた。
だから、俺は町の中心に向かっている。
一番人の多そうな場所に。
「じゃあ、マユにメディナ、ちょっと荒事になるかもしれないけど、準備はいいな!」
俺が言うと、ふたりは黙って頷いた。
そして、俺は少し息を吸い込み、
「サクヤとシグレが姉妹だと知ってるやつ、こっこまっでおっいでぇぇぇっ!」
俺が叫ぶと、視線が集まる。
さて、この視線の中、ただの好奇心ではない、敵意や警戒心を持っている人間はいるかな?
逆に気配を消して、ここから去ろうとする人間はいるかな?
俺は周囲を観察し……そして、苦笑した。
ひとりやふたり見つかればいいと思った。
せめてひとりやふたり、忍者っぽいやつが紛れていればいいと思った。
だが――
「おいおい、まさか全員がそうなのか?」
周囲にいたカリアナの住民全員から――冷たい殺気が浴びせられた。
ここにいる全員が忍の一族だって言うのか?




