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14話 フローネのギフト

 ◆祈りの残響◆


 アランがふと尋ねた。


「……フローネは教会のシスター候補だったの?」


 フローネはわずかに微笑んだ。けれど、その笑みの奥には、拭いきれない影が差していた。


「自分で言うのも恥ずかしいですが……私は将来を嘱望されていました。なにより、女神さまの声をみんなに届けられること――それは、私にとって何にも代えがたい誇りだったんです」


 その表情は、かつて本当に女神の言葉を伝えることを喜びとしていた少女のものだった。 けれど、その笑みはすぐに影を落とし、静かに絶望へと沈んでいく。


「……でも、その誇りも、夢も……全部、終わってしまいました」


 その声には、深い絶望が滲んでいた。


「まだ幼い頃でした。ギルという男の子に、綺麗な紫色の果実を手渡されたんです。後になってそれが”紫粒玉という”猛毒を含んでいる果実だと分かりました。 私は……愚かにも、それを口にしてしまったんです」


 フローネの口から“紫粒玉”という名が出た瞬間、僕は胸の奥が冷たく跳ねた。

 紫粒玉は、あのフレイムベアすら殺せるほどの猛毒の果実だ。それを「手渡した」という行為が意味するのは、ただの嫌がらせではない。相手を確実に殺そうとするための、明確な殺意──そうとしか思えない現実が、じわりと背筋を締め上げていった。


 フローネの瞳が遠くを見つめる。記憶の中の痛みが、今もなお彼女を締めつけているようだった。


「三日三晩、生死の境を彷徨いました。女神さまへの信心のおかげか命だけは助かりましたが……その代償に――それ以降女神さまの声が、聞こえなくなったんです」


 唇を噛みしめるようにして、彼女は続けた。


「私は“欠陥品”と呼ばれ、下働きに回されました。 そして……その私を、ギルが“自分専用の下働き”にしようとしたんです」


 フローネの口から語られた言葉は淡々としていたが、その奥に隠された痛みは隠しきれていなかった。


「私がそれを拒むと、彼は激しく怒って……私を、あの森へ連れて行きました。魔物のいる森に置き去りにすれば、私が泣きついて言うことを聞くとでも思ったんでしょう」


 声は震えていないのに、どこか壊れそうな静けさがあった。 フローネは目を伏せ、指先をぎゅっと握りしめる。


「……でも、本当につらかったのは、森に置き去りにされたことじゃなくて……女神さまの声が聞こえなくなったことなんです」


 その言葉には、恐怖より深い喪失が滲んでいた。 彼女は女神像の前にひざまずき、祈るように手を合わせる。


「もう、女神さまがなにをおっしゃりたいのか、私にはわかりません。けれど……」

 その瞬間、フローネの身体が淡く光を放ち、女神像の胸元に埋め込まれた水晶が鈍く輝いた。


「ね? 声は、頭の中で確かに響くんです。でも……何を伝えようとしているのか、もうわからないんです」

 彼女の瞳は揺れ、必死に何かを求めていた。 失われた“導き”を取り戻したいという、切実な願いがそこにあった。



 ◆壊れたギフト◆


 フローネは自嘲気味に笑った。けれど、その笑顔はどこか寂しげだった。

 そんな彼女とは対照的に、アランは難しい顔をしていた。


「……どうしたんですか?」

 フローネが首をかしげると、アランは少し間を置いてから、ぽつりと口を開いた。


「いや……フローネの“女神さまの声を聞く力”って、ギフトなんじゃないかなって思ったんだ」

「えっ……ギフト?」


 フローネは目を見開いた。


「女神さまの声を聞く力が……ギフト?」


 アランはうなずき、さらに言葉を重ねた。

「壊れたなら、直せばいいんじゃないかな?」


 その一言に、フローネの心が大きく揺れた。


「……本当に、直せるんですか?」

「やったことはないけど、作り変えるのと同じだし……やれると思うよ」


 アランの瞳には、確信の光が宿っていた。

 フローネは、しばし迷った末に――意を決して、深く頭を下げた。


「おっ……お願いします!」


 そのとき、ラピスが何かに気づき、慌てて声を上げた。


「坊ちゃま、まっ――!」


 だが、その制止の声は一歩遅かった。



 ◆再起動の光◆


 アランがギフト【魔力視】を発動し、フローネのギフトに干渉を始めてしまったのだ。

 フローネの身体がふわりと浮かび、淡い光に包まれる。


「――っ!」


 彼女の口から、思わず小さな声が漏れた。


 魔力が神経をなぞるように流れ込み、全身を駆け巡る。

 その感覚は、痛みでも快楽でもなく、ただただ圧倒的で――


「ひゃん!」


 フローラが変な声を出した。さらになまめかしい声を出す


「あああん、いっいや…ダメ…」


「もっもう…あっあああ…」


「……あ、ああ……っ」


 息が荒くなり、フローネはぐったりと膝をついた。

 けれど、その頬はほんのりと紅潮していた。


「魔力の流れが途中で切れていたから、繋げてみたよ。」


 アランはそう言って、軽く手を振った。彼の指先からは淡い光が揺らめき、まるで空気の中に見えない糸を縫い合わせるように、静かに魔力が流れていくのが感じられた。


 フローラはその様子をじっと見つめていた。彼の魔力は、まるで澄んだ水が静かに満ちていくようで、見ているだけで心が落ち着く。けれど、その言葉の意味を理解した瞬間、彼女の胸に小さな緊張が走った。


「試しにやってみて」とアランが優しく促す。


 フローラは一瞬だけ目を伏せ、深く息を吸い込んだ。胸の奥で、何かが静かに波打つ。


「……分かりました。」


 彼女は顔を上げ、まっすぐにアランを見つめてそう答えた。声は小さくとも、確かな決意が込められていた。その瞳には、ほんの少しの不安と、それを乗り越えようとする強さが宿っていた。

 女神像にむけてフローラが祈りをささげる。体が光る、すると「え?」 と戸惑うフローラ

 頭に女神さまの言葉が響いた。「うそ…」


「これで……これでまた、女神さまの声を聞くことができます……!」


 胸に手を当てたフローネの瞳には涙が滲み、こらえきれないほどの感動が揺れている。

 まるで、ずっと閉ざされていた扉が再び開き、女神の温もりが彼女の中へ流れ込んできたかのように。

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