天使修行中のアマツキ
あのときに失ったものが、こうして形になったのだとしたら、この天使は悪魔であるほうがラクであったんじゃないかな。
そう思う。
もうだいぶ天使のお仕事にも慣れたようだし、話してみる。
「アマツキいい?」
「うん」
「魔力って、もうあとは異界に住む者に渡すだけだし、ときどきわたしたちにも分けられるけれど、そんなに丁寧に大切そうにしなくてもいいのだと思うわ」
「そうかな。でも、ほら。なんだか魔力にも優しい魔力のと、とげとげしてて、気分が悪いのもあるよ」
「そんなの天使気にしたことないと思うけど」
「えぇぇ……ヒイロもネネもなんだかそうしていたよ。それに異界に住む竜にもなんだかこうしたほうが選ぶのに苦労しないし」
「そ、そうかな」
人の住む世界がいまの担当エリアなため、リストから選びわたしたちが回収していく。
そうはいっても余り者だ。
良い簡単なまとまりやすいものは、リーダーやグループでも上の天使がもらっていくため、修行中のアマツキやそれについていくわたしみたいなのは、余り者を手に取る。
だから、話しも厄介だ。
例えば、自殺した者たち。
なにかしらでも、自分たちの生に対して縛られていて、そこから動けずにいたり生きている者たちからなにかを奪おうとしたり、反対に自身の魔力をすべて分けようとしたりしてしまい、天使たちは後回しにする。
そのまま捕まえればいいのだけど、抵抗されたり睨まれたり、時に攻撃的なことをされて怪我もする。
いい意味で不安定なのだ。
どんな理由でも死んだのだから、それがいい。
けれど、それが天使たちにとっては面倒らしい。
だから、後回し。
いまの回収した者も、それだった。
いくら可愛らしい天使でも、憎たらしい嫌なものをみるように睨み、自身の持つ最後に備わる魔力を使い、アマツキの腕に傷をつくる。
それでもアマツキは、少し痛そうにしたあと、すぐにまた笑いかけ異界についてとそれのお仕事について、最後まで話しかけた。
納得したのではなくて、放出し過ぎて失くなる手前まで説明をしていて、もう消えてしまいそうな小さい魔力を回収した。
基本的に総ての魔力を回収するのが原則でいて、それを持って仕事終わりには、異界の竜にそれを差し出す。
選定し、時には食べて分けていく。
名前は怖くて聞いたこともないけれど、あと二件できたら、異界にいくことになる。
ほかのグループの早い者は、もう去ったあとだ。
「回収した魔力が強いほど、分けてくれるし、昇給にも近道なのよ」
「アヤが昇給していきたいなら、そうするよ。でも、アヤはもっとしたいようにすればっていうから」
「それは、アマツキのしたいことでいいんだけどね」
ギャル天使として、わたしはしばらく前までは、えへへとか、そうだよねとかそう言って同僚天使たちの機嫌を気にしていたのに、いまじゃアマツキの素直さがまぶしい。
でも、アマツキが損ばかりしていて、いまも傷をつけられたりすると、ズキッとみていてしてしまう。
だからといって他の天使たちのように、上手くしなよとかは、言いたくない。
上手くしていく、ということは、魔力を効率よく回収し、大した話しも聞かず、例え情で訴えられても、あなたのしていることはなにも意味などないと、そう言い切るようなことだ。
アマツキがそうしたい、ただ回収する、だけの天使でいいというなら反対はしない。
でも、わたしからそれを言うことは違う。
まだ見習いであったとしても、わたしが全ての方向を決めるのでは、意味などない気がするのだ。
本天使のアマツキがそうしたいという方向をわたしが手助けしたい。
それが、わたしがすることだ。
その代わり間違いは指摘する。
次の一件はそれほどには、手間がかからなかったのに、さらにその次でまた少し時間をかけることになった。
アマツキが降りていったあと、まだ人の中学生くらいだろう女の子は自分が死んでしまったことに、なにも興味がないようだった。
それならとすぐに回収できるかと思ったのに、アマツキは話ししようと言いだしたのだ。
「ねぇ少しお話し聞かせてよ」
「話し? なんの。わたし死んでるんだよね。誰だか知らないけど、どこかに連れていくなり、消すなりすればいいじゃん」
アマツキがその当日に配られるグループに渡された担当レポートに目を通す。
リストの最後の方に載っていて、女性で中学生、不登校、駅で死亡したと略歴が書いてある。
ザッとその時の様子が記されているのは、天使たちの上級者たちがあるスキルで、それらを記録してから、リストにするからだ。
天使クイーンの持っているいくつかのなかから、上級者となるとそれを借りることができる。
「時間はまだみたいだから、お話しはできると思う。ぼくにはそう視えるから」
「時間? 死んだのにまだ時間気にするの? おかしいよね」
意味は通じていないだろう。
アマツキがいうのは、魔力の残りだ。
いずれ消えてしまうけれど、基本的にはそれをこちらが回収しなければいけない。
だけど、それは担当のお仕事の内容であって、実は放置する天使も多くいる。
仕事の終わりで強制的に回収するか、回収できない場合には、回収不可と理由を提出すれば放置できる。
しかし、一度不可がつくと、天使担当が次に回ることはなく、つけた本天使かリストを持つ天使が来ないと、本当に放置されてしまう。
「おかしいかな。おかしくないと思うよ。生きていても死んでいても、例え妖精のように何百って生きても時間はあってないんだよ」
「妖精? そんなのいるんだ。わたしは悪魔のほうがよかったのに。そしたらあいつら全員始末してって頼むのに」
「悪魔はいるよ。けれど、あなたのところには来ない。ぼくが来たから。それに悪魔はあなたが思うような誰かをやっつけろみたいなことは、ほとんどの場合してくれないな」
「偉そうに言わないでよ! なにがわかるの!!」
やっぱり人は身勝手だ。
時間などもうないと言い、死んでいると認めるのに、さらに他にも相手を死なせたいらしい。
けれど、次の瞬間わたしも目の前にいる彼女も驚いてしまう。
アマツキが、怒られたあととは思えないくらいに微笑しているからだ。
綺麗過ぎて、見惚れてしまう。
いや少し寒くなるくらいかもしれない。
ぞくりとアマツキが恐くなる。
「ほら……やっぱり話しはしよう。ぼくにはなんの力もないけど、まだわかって欲しい気持ちが欠片あるなら、話していいんだよ」
「あなたみたいな天使にわかるわけないよ。学校で誰にも味方されなくなって、一人でどこにも行けもしなかったわたしみたいなやつのことなんて……」
そう言いながら彼女は少しずつ話してくれるようになった。
アマツキは頷き、手を繋ぐ。
その手にはもう体温なんてないはずなのに、アマツキは大切そうにそれを扱う。
最後まで聴き終えても、アマツキの言ったことのほとんどは、理解されていないだろう。
それでも、ひとこと「あなたに話せてよかった」と言ってくれた。
アマツキが魔力を回収すると、またそれを丁寧にしまう。
「みんなにそれするの? アマツキ」
思わず聞いてしまった。
これから先、何年続くかもしれないヒトや悪魔やときに天使たちの残り魔力をこうやってお仕事のなかで回収するみたいだ。
「ぼくは信じてるから。ヒイロもスズネもそんな悪魔ではないってこともわかってる。その分寂しいけどね」
アマツキは異界でお仕事をしているヒイロのこと、悪魔でいまはずっと監視されて過ごすスズネのことを言っている。
きっとあの事があったから、ここに来てくれたのだと思う。
悪魔スズネが悪魔界であった事件に関わっていたとされて、取り調べられ解放されたはずなのに、それからも監視生活を送るようになってから三年が過ぎる。
わたしがずっと手紙などで報告しているけれど、そのほとんどは返事がなく、ときにきてもアマツキ宛は来ない。
理由はわかっている。
灰鐘鳥からくる手紙や通信手段で送る内容さえ、監視の対象でみられているのだろう。
アマツキがそれを寂しく思っているのは、わたしにはよくわかる。
異界にいく準備をしなくてはいけない。
けれど、その前にアマツキは、渡されているお仕事のレポートを綺麗にたたむ。
今回の分の回収すべき魔力は済んだ。
天使ノートに、アマツキはこれらの出来事をなんと書くのだろうか。




