目覚め
…?
ここ、は…どこだ?
目が覚めると、見知らぬ部屋にいた。
内装は石造りで、まるでどこかの遺跡のようだ。一面が壁に囲まれており、窓もなければ扉すらない。
「イテテ……」
背中に鈍い痛みが走る。
どうやら石造りのベッドらしき物の上で寝ていたらしい。よくこんな場所で眠れたものだ。
しかし、一体どうなっている。
昨日はたしか、自分の家で眠りについたはずだ。それが、目が覚めたらこれか。
「……すみませーん!」
返事はない。
「誰かいませんかー!!」
やはり返事はない。しんと静まり返った部屋に自分の声が反響し、じわじわと不安がこみ上げてくる。
まさか、ここから出られないなんてことはないよな…?
ドクン、と鼓動が早まり、嫌な汗が流れ落ちる。
落ち着け。まずは冷静になるんだ。
…とりあえず部屋の中を調べてみよう。どこかに隠し通路があるかもしれない。
見渡す限り、部屋にあるのは3つ。
石のベッド、大きな箱、そして一冊だけ本が差さったボロボロの本棚だ。
まずは本棚からだ。
この裏に入り口が隠されているのは、フィクションでは定番のギミックだ。
「グッ……く、くっ……! ……はぁ、駄目だ」
全力で押してみたが、ビクともしない。
ボルトで固定されている様子もないのに、まるで地面と一体化しているような重さだ。
壊すのは最終手段として、次だ。
今度は大きな箱。
大人が一人すっぽり入りそうなサイズで、期待が高まる。
「……ナイフ?」
開けてみると、中に入っていたのは一本のサバイバルナイフだけだった。
意味がわからない。
混乱する頭を抱え、最後に石のベッドを調べる。
ベッドといっても、長方形に削り出されただけのただの石塊だ。
一応押してみるが、案の定ピクリとも動かなかった。
「…クソ、マジで詰んだか?」
いや待て、まだ壁がある。叩けば音が違う場所があるかもしれない。
――無かった。
……こうなったら強行突破だ。本棚をぶっ壊してやる。
未調査なのは本棚の裏だけだ。器物破損は本意ではないが、背に腹は代えられない。
現在進行形で拉致監禁されているんだ。これは正当防衛だか緊急避難だかで認められるはず……だよな?
「オラッ!」
気合とともに蹴りを入れる。
だが、微動だにしない。壊れるどころか、古い木の破片すら飛ばない。
こんなにボロボロなのに、どうしてだ。
俺は別に、格闘家ではないがひ弱な方でもないはずなのに。
二発、三発と蹴り続けるが、本棚は無傷のままだ。
「流石におかしいだろ……」
呆然としていると、本棚から唯一の本がバサリと落ちた。
表紙には、似つかわしくないタイトルが踊っている
――『チュートリアル』。
俺は思わずそれを手に取り、ページをめくった。
―――――――――――――――――――――――――――
ダンジョン・ブートキャンプへようこそ!
そして、参加してくれてありがとう!
10層からなるこのダンジョンを攻略して、君も超人を目指そう!
※ダンジョンを踏破するまでは地上に出られないから注意してね。
1.探索者への第一歩
この部屋へ来た時、君たちには『ジョブ』が与えられているよ。
ジョブは本人の性格やこれまでの経験を考慮して選ばれるから、きっと君にぴったりのもののはずさ。
ジョブごとに獲得できる『初期スキル』があるから、ステータスを呼び出して確認してみよう!
―――――――――――――――――――――――――――
これ以外は何も書かれていない。
ページをめくっても、先は真っ白だ。
「なんだこれ……書きかけのライトノベルか?」
にしては、あまりにも状況に即している。
だが、ダンジョン・ブートキャンプなんて得体の知れないものに参加した覚えはない。ジョブだのステータスだの、正気か?
……いや、まさか本当なのか?
もしここがファンタジー映画のような「ダンジョン」だというなら、壊れない本棚も、扉のない密室も、一応の理屈は通る。納得はしたくないが。
ステータス、か。試すだけならタダだ。
「ス、ステータス……」
……。
…………。
「出ないのかよ!」
クソ、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。
その瞬間、白紙だったはずのページに新たな文字が浮かび上がる。
―――――――――――――――――――――――――――
ステータスを開くには、右手の人差し指と中指を揃えて、空中で振り下ろしてね
…このキャンプに参加しているのに、開き方を知らない人がいるとは思わなかったよ。ごめんね
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な、なんだこの煽りスキルの高い本は。
てか、知るわけないだろ。
しかもこの開き方、ログアウトできない系のアニメで見たことあるぞ。
…とりあえず、やってみるか。
半信半疑で二本指を振り下ろすと、突如として目の前に半透明のウィンドウが現れた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
【名前】ヤマナカ ユウト
【ジョブ】罠師
【スキル】罠作成、罠鑑定
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「マジか……」
本当に出た。
ということは、あの本に書いてあることは全て事実なのか?
ここはダンジョンで、攻略するまでは出られない…。
…。
……ふざけるな。
「俺は今、有給消化中なんだぞ!!」
ブラック企業で三年間、泥をすするように働いて、ようやくホワイト企業への内定を勝ち取った。
必死の思いでもぎ取った、一ヶ月間のパラダイス。あんなことやこんなことをして羽を伸ばすはずだったのに…!
もし入社予定日までに帰れなければ、内定取り消しなんてこともあり得る。
それだけは、それだけは絶対に阻止しなければならない!
見てろよ。
一ヶ月以内に、意地でもこのダンジョンを攻略してやる!!
俺の今後の人生を左右する、決死の攻略劇が幕を開けた。




