第89話 賢者の石①
手負いのアルドギドスが周囲を警戒しながら砂漠を進む。
尻尾は切断され、身体には幾つもの傷がある。
そのアルドギドスに向けて、遠くからソールオングルを構えるディケンズの姿がある。
ルーゼスに話した2日後、ライラとディケンズは鍛練とソールオングルの強化費用の為に狩りに出ていた。
申し訳程度のカムフラージュに身体を布で覆い、ゆっくり狙いを定める。
アルドギドスが大きな岩の前に通り掛かった時。
「頼むぜ、ライラ。」
そう呟くと、引き金を引いた。
発射音と共に光弾が放たれ、アルドギドスへと伸びるその瞬間。
アルドギドスの後ろの地面からライラが飛び出す。
「ディケンズ!今だっ!」
急に現れたライラに驚き、アルドギドスが大きく前進した。
その結果、本来の位置からズレて、ライラとアルドギドスの間を光弾が抜け、奥の岩に当たる。
「なっ!」
爆発が起こり、ライラは咄嗟に砂に潜った。
アルドギドスは上がった砂煙に乗じて逃走していく。
「くそっ!」
ディケンズは急いでもう1発放つも、砂煙の中で爆発は起こらず、砂煙が晴れた時には、もうアルドギドスの姿は無かった。
岩の前の地面からライラが再び這い出てきた。
近寄ってきたディケンズに対し、文句を言う。
「おいおい。アタシが飛び出してビビらしたところに撃ち込むって言ってたろっ!」
「いや、俺が撃って怯ませたところに止めを差すって話だったはずだっ!」
「それは最初の話だっただろ?」
「いや、違う。」
暫く口論が続いたが、次第に不毛だと分かり、2人は溜め息を付いた。
「まぁ、仕方ないな。依頼の肉は尻尾から取れる。」
「だな。あそこまで手負いにさせたなら、終わらせたかったけどな。」
言いながらライラが何の気なく目の前の岩を殴りつけた。
すると岩の表面にヒビが入る。
「何だぁ?」驚いたライラが岩の表面を改めて触る。
次の瞬間、岩の表面がボロボロと崩れ落ちていく。そして、岩の中から明らかに人為的な岩壁で作られた建造物が現れた。
2人は呆気に取られながら、それを眺めた。
正方形の壁で囲まれた縦、横、奥行きが3m程の立方体で不思議な装飾が施された建造物。正面に両開きの扉があり、上部には紋章のような物が刻まれている。
「こいつは・・・」ライラが呟く。
「ダンジョンってやつか?」
「つーことは・・・」
お互いに目を合わす。
「お宝が眠ってるってことだ。」
ディケンズがニヤリと笑う。
ライラは手を拳でパンッと叩いた。
「こいつは依頼をしてる場合じゃねぇな!んじゃ早速。」
そう言って扉に手を掛けようとする。
「待て待て。」
「何だよ?」
「ダンジョンなんてもんは罠がつきもんなんだ。慎重に行け。」
「いや、大丈夫だろ。」
ライラが扉に手を掛け、思い切り押すも扉はビクともしなかった。
「何だこれ。開かねぇぞ。」
ライラがあれこれ試行錯誤をしている中、ディケンズは壁に掘られた装飾を調べる。
そこには不思議な形に掘られている模様とは別に文字のようなものが描かれていた。
「こいつは・・・ルークス文字か。」
「ルークス文字?なんだそりゃあ?」
「南の大陸で古代に使われていた文字だ。」
「ほ~ん。何でそんなもん知ってんだよ?」
「昔、付き合いのあったエルフに教えてもらった事があってな。」
「なるほど・・・んで読めるのか?」
「ちょっと待ってくれ。」
「ほいよ。んじゃアタシはその間に。」
そう言うとライラはモウズに乗り、何処かへ向かう。
「おい!どこ行くんだ?」
「すぐ戻るさ。その間に解読しといてくれ。」
「どうだ?分かったか?」
戻ってきたライラが尋ねる。
「ああ。全部は読めないが、一種の謎かけだな。」
「謎かけ?」
「そこに受け皿みたいなのがあるだろ?」
ディケンズが示す方を見ると1箇所だけ壁から飛び出している部分があった。
「あそこに命の根源を捧げろだってよ。」
「命の根源?心臓でも置けってか?」
「いや、砂漠の命の根源ってのは・・・」
ディケンズは水筒を取り出し、受け皿に水を流し込む。
「ああ。なるほどな。」
暫く待つと受け皿から壁の溝に伝って壁の模様へ染み込むと、青白く光り出す。
「おお。これで開くってことか?」
「恐らくな。ところでお前はどこに行ってたんだ?」
「ん?ああ、忘れてた。手を出しでくれ。」
ディケンズが手を出すと、ライラは持っていた筆で腕に円を描く。
「お前それ、こないだの。使っちまったのか?」
「ああ。ダンジョンからの脱出用にな。」
「あれはムロイス戦用だろ。」
「そんなこと言ったって、ここで死んじまったら意味ねぇじゃねぇか。」
「それはそうだが。」
「それに何が出てくる分からない方がリスキーだからな。」
納得しかねてるディケンズを他所に、筆を手渡したライラは扉に手を掛ける。
力を込めるとゆっくりと扉が開いていく。
中には石レンガで作られた通路があり、扉が開くと同時に壁面にある松明に青白い炎が灯った。
「こいつは本格的だな・・・」
通路の奥には別の扉が見える。
「気を付けろよ。」
「わーてるよ。」
ライラが一歩踏み入れた瞬間。踏み込んだ石床が沈み、カチッと音がした。
「ん?」
次の瞬間、左右の壁から矢が放たれる。
「おわぁ!」
ライラは咄嗟に前へ避ける。しかし、その先の床も沈む。
「嘘だろ!」
再び壁から矢が飛ぶ。
「大丈夫か!」
「大丈夫とは言い難ぇ!」
避ける先々で罠を踏み抜き、大量の矢を躱しながら、奥へとどんどん進んでいく。
扉が前まで来た瞬間、今度は矢ではなく、床が左右に開いて抜ける。
「おぉ!」
ライラは落下する先の床には鋭いトゲがびっしりと設置されている。
「このくそっ!」
ライラはトゲに当たる寸前で剣を抜き、両壁に突っ張って何とか持ちこたえた。
ディケンズが上から覗き込む。
「だから罠に気をつけろって言っただろ。」
「気をつけたから何とか生きてんだよ。」
「全部踏み抜くことを気をつけたとは言わねぇんだよ。」
「いいから、早く助けろよ。」
すると上からディケンズが放った鎖が降りてきた。
床に寝そべり息を整えているライラを他所に、ディケンズが壁にあったレバーを上げる。
すると開いていた床が閉じた。
「なるほど、これでいいわけか。」
立ち上がったライラが奥の扉に手を伸ばす。
「流石に扉に罠はねぇよな?」
「どうだろうな・・・そもそもこの通路、おかしいと思わねぇか?」そう言いながらディケンズは通路を見渡す。
ライラも通路を見て、違和感を口にした。
「広すぎるな・・・」
「ああ、入口のあった石の建物は疎か、カモフラージュにしてた岩でさえ、この通路より小さかったはずだ。」
ディケンズは前を向き直す。
「おまけにまだ奥への扉がある・・・」
「魔法で作られたダンジョンってことか?」
「そんなもんがあるなんて聞いたことはないが、兎に角、普通じゃないことは確かだな。」
ライラはそっと扉に手を掛け、ディケンズを見る。
ディケンズも頷き、ライラはそっと扉に力を入れる。
開かれた扉の先を見たライラは、目を見開き呟いた。
「なんだよこれ・・・」
そこには通路を遥かに越える大きさの部屋が広がっていた。




