第50話 月夜を裂く迅雷 アプールレオパード
最初の一撃と違い、雷撃は四方に放たれた。
周囲を飛ぶ蝶の反射により、跳弾した雷撃は無造作に辺りへ飛んでいく。
接近しようしたが、雷撃の跳弾がライラに飛び、横に転がるように避けた。
「くそっ!これじゃあ近づけねぇ。」
ライラは靴を整えるかのように爪先で地面を小突いた。
「・・・根付いてやがる。」
砂地ではあったが、周辺は草や花が繁っている。地中に伸びる根により固くなったそれは、潜るのに適していなかった。
ライラは雷撃のタイミングを見て駆け出す。
ひとつ、ふたつと跳弾を掻い潜った時、そこに目掛けてアプール本体から雷撃が飛ぶ。
「ぐはぁ!」
直撃を受けたライラが吹き飛ぶ。
身体から煙を上げながら立ち上がるライラに向け、もう一度アプールが雷撃を放つ。
ライラに草の生える地面に手を突っ込み、無理矢理振り上げた。
通常より小さくはあったが、草が絡まった砂の爪が飛び出し、雷撃を相殺した。
アプールは再び雷撃を放出し、辺りに反射させる。
「ちくしょう。面倒くせぇ野郎だな。」
ライラは毒づくと駆け出す。
雷撃を避けることに集中しながら、草の生えてないアプールの後ろ側へ回り込むように移動した。
そのタイミングで戻ってきたディケンズが光弾を放ったが、アプールを囲む檻のように反射する雷撃に当たり、爆発した。
「くそっ!あれじゃあ無理か。」
「蝶を爆発に巻き込めねぇか!」
「爆発に・・・なるほど。」
ライラがアプールに近づき囮になる隙に、ディケンズはアプールの左上辺りを飛んでいる蝶の近くを狙い、雷撃のタイミングに合わせて光弾を放った。
タイミングは良かったが、光弾を避ける為に蝶たちが散らばり、ただ爆発が起きただけだった。
「そりゃあ避けるよな。」
ディケンズは溢したが、蝶が散らばったことにより雷撃の檻が消え、アプールへの道が開けた。
それを見てライラが走り出す。
思い切り剣で横切りを繰り出すも、アプールはバックステップで躱して、雷を纏わせた爪で切りかかる。
ライラは籠手でそれを受け、剣を首元に突き刺そうとしたが、そのままアプールが噛み付いてきたので、身体を退き、腹を蹴り上げると同時に砂の中へ潜った。
ライラが消えると同時にディケンズが光弾を放つ。
しかし、アプールは後ろを向いたまま、跳んでそれを躱した。
砂から出てきたライラは、ディケンズが光弾を撃つことを予想していたのか驚いた。
「避けられたのか?」
「ああ。」
「昼にやった時より強くなってねぇか?」
「夜が本領ってことだろうな。」
「ついでに蝶のおまけ付きか・・・まぁでも、奴さんの雷撃のお陰でだいぶ砂が使いやすくなったな。」
雷撃で周囲の草地は燃やされ、砂が剥き出しの場所が多くなってきた。
「ここらでの草取りは当分出来ないけどな。」
「いっそ、ソールオングルでここらの地面を吹き飛ばせねぇか?」
「夜は弾を補充出来ないんだ。そんな事で無駄撃ち出来るか。」
ソールオングルの光弾は、太陽光を蓄積することで補充する。故に夜は弾切れすれば、それきりとなる。
「無駄撃ちしたくない割りには当てれてねぇけどな。」
「うるせぇよ。」
再び、周囲に蝶を纏わせたアプールが咆哮を上げた。
「第2ラウンドと行きますか。」
「手はあるのか?」
「砂が使えるなら考えはある。」
言うと同時にライラは真正面から走り出す。
雷の檻で接近の心配はないと踏んだアプールは動かず、そのままライラに向け、雷撃を放った。
飛んでくる雷撃を横へ跳ねるように避けたライラは、地面に手を付き魔力を込めた。
すると幾つか砂が盛り上がった。更に魔力を込めると、盛り砂が弾けて周囲が砂煙に包まれた。
視界を消されたアプールは接近を警戒し、更に雷撃を放つ。
砂煙の中で何本もの黄色い筋が瞬き、バチバチと音を立てる。
ライラは近付かず、砂煙に向けて手を翳す。
次第に砂煙が集まり、空中に拳大の砂の玉が無数に形成された。
ライラが力を入れると砂の玉は、一斉に飛んでいく。それはまるで散弾のようだった。
警戒してバックステップをしたアプールだったが、狙いはアプールでは無く、蝶であった。
砂の玉はただの塊で、攻撃に転じるほどの硬さはない。それでも蝶を倒すには充分の威力だった。
玉が当たった蝶は力無く落ち、無力化された。
直ぐさま、ライラはアプールに向けて走る。
放たれた雷撃を飛び込むように躱し、剣を逆手に持つとアプールの横を走り抜けるように切り裂いた。
剣はアプールの前脚を捉え、血が吹き出す。
そのまま後方へ回り込もうとしたライラだったが、アプールの後頭部から伸びる触手がその足を捉えた。
足を引かれ、その場に倒れたライラに、触手を伝い雷撃が走る。
電撃が全身を駆け、ライラが叫び声を上げた。
「ライラっ!」
ディケンズは直ぐ様、光弾を撃つ。
放たれた光弾は再び雷撃を放とうとしたアプールの腹部に当たって爆発し、アプールを吹き飛ばした。
触手から離れたライラも転がる。
「大丈夫か!」
ライラは手を上げて答えるとゆっくり立ち上がった。
「流石に堪えるな。」
身体のあちこちが黒くくすんで、傷も付いていた。
「退くか?」
「いや、まだいける。」
ライラが身体に付いた煤と砂を払いながら言った。
「でも蝶が復帰しちまったぞ。」
被弾し、体勢を立て直したアプールの周りに再び蝶が集まってきていた。
「大丈夫だ。砂が使えるなら同じことをすりゃあいい。アイツが学習しようと、蝶たちは同じ手で落ちるさ。」
「それもそうか・・・」
アプールは鎮座し、咆哮と共に周囲へ雷撃を放つ。
ライラは手を翳すともう一度、砂煙を巻き上げた。ディケンズもついでとばかりに尻尾を振り回し、砂を舞わせる。
視界が遮られ、ライラが魔力を込めようとした時、ディケンズが気付いた。
「おい。アイツ雷撃を止めたぞ。」
「あ?」
先程は砂煙の中でも、アプールを守るように雷の筋が瞬いていたが、今はそれが見えなかった。
「何だ?」
二人は砂煙の中からの一撃を注意して身構える。
視界が晴れた時、アプールはまだ動くこと無くその場に座っていた。しかし、その姿には変化があった。
後頭部から伸びている二本の触手が、まるでマフラーの様に首から頭に向けて、ぐるぐると巻かれてた。
「・・・何してんだありゃ?」
「さ、さぁ?」
「降参の証か?」
「このタイミングでそんなことしねぇ・・・っ!」
その瞬間、再びあの独特な匂いが周囲に漂う。
周りを飛んでいた蝶たちがゆっくりとアプールに近づき、触手へと取りついていく。
頭部から首にかけて、大量の蝶を宿したその姿は、金色のたてがみを持つ獅子のように見えた。
「な、なんかヤバそうだぞ・・・」
ディケンズが少し後退りながら言う。
「きょ、今日はこのくらいにしといてやるか。」
ライラもゆっくり一歩下がった。
アプールの身体が帯電し、四脚を力強く踏みしめると空に向かい、大きく咆哮を上げた。
蝶たちの羽根も帯電し、蒼白く光る。
「飛べっ!」ディケンズが叫ぶ。
二人が左右に大きく飛んだ時、今までの倍の太さはある強力な雷撃が走り、二人のいた場所に着弾すると大きな爆発を起こした。
「・・・バカかよ。」
二人の間に出来た、大きく抉られた地面を見てライラが言う。
「あそこだ!あの岩場まで走るぞ!」
ディケンズの指差し方へ二人は全力で走る。
その跡を稲光を纏ったアプールが追いかけていく。




