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砂上の狩人  作者: eight
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第49話 月下に咲く花

陽が落ち、二人は宿泊所を出た。


エドゥリアから受け取った身体を暖める丸薬を取り出す。

「こんなもんで効くのか?」

「エドゥリアのだからな、効果は間違いないだろう。」

「あいつ、変なもん混ぜてねぇよな?」

「ライラのには入ってるかもな。」

「交換しようぜ。」

「冗談だぞ。」

ディケンズが少し戸惑いながら返した。

「いや、あいつならやりかねん。念には念をだ。」

「言ってたろ。それぞれに合わせて調整してあるって。」

「ああ。」

ライラは諦めて丸薬を飲んだ。



「どうなんだ?」ライラが訊く。

「正直分からんな。効果がすぐ出るもんでも無いんじゃないか?」

「まぁ、そのうち出るか。」

「とりあえず、花を探しちまおう。」

「だな。確か、もうちょい向こうだったよな。」


二人は夜の砂漠を進む。独特の静けさが辺りに漂っていた。

暫くすると、前方の砂の中から何かが現れた。

それは小さなサソリの魔物だった。

「ウィーグテイル?」

「まだ子供だな。」

ライラがモウズから飛び降りるとウィーグテイルは鋏を上げて威嚇する。

「殺るのか?」

「いや、追い払うだけだ。」

ライラは剣を抜いてウィーグテイルに向ける。

体長はライラの腰辺り、それでも一般人からすれば脅威だが、成体と戦った事のあるライラたちには可愛いものだった。

「おら、危ねぇぞ。帰りな。」

剣を向けたまま、砂の玉をぶつけた。

怒ったウィーグテイルが素早く尻尾の毒針を飛ばすが、それを剣で軽く往なして、額を小突いた。

「止めとけ。勝てやしねぇよ。」

ウィーグテイルは少し後退すると、暫く動きを止め、砂の中へ潜って行った。


ライラは再びモウズに跨がる。

「夜っつっても昼に見る奴がほとんどだな。」

「まぁ昼と夜とは言え、同じ場所だからな。完全夜行性なんて、そんなにいないんじゃねぇか?」

「なるほどねぇ。」


更に進むとひび割れたような模様の甲殻を持つ中型の草食恐竜の群れが身体を寄せ合うように眠っているが見える。

「ヨグロトスか。」

「ああ固まってられると大型も狙いづらいもんなのかね。」

「いや、そうでも無さそうだぞ。」

ディケンズの示す先には豹型の魔物が少し離れた所から様子を伺っていた。


「アプールレオパードか。そういや、あいつと戦ったのはこの辺だったな。」

「あいつは如何にも夜行性って感じだな。」

砂色の体色と後頭部から伸びる二本の触手を持つ獣は、ライラたちの存在に気付き、体勢を低くしてこちらを凝視している。


「どうする?」ディケンズが尋ねた。

「昼に狩ったことある奴とやってもな・・・」

「確かに。」

「そもそも、ここらでやるより、さっさと花だけ回収して、戻りながら相手を探しゃあ良いんじゃねぇか?」

「ここらで手負いになると危険か。」


二人は無視して通り過ぎる。アプールレオパードも戦意が無いと分かったのか、再びヨグロトスの方へ注意を向けた。




雲の少ない夜空に浮かぶ、満月に近い月に照らされた砂漠は遠くまでよく見えた。

時折、遠くから魔物の遠吠えのような声が聞こえてくる。

少し強めの風が吹いた時、ライラが呟いた。

「薬が効いてきたのか分かんねぇが、あんまり寒くねぇな。」

「確かに。」ディケンズはマントを外し、袋へ仕舞う。


「そういや、殺し屋の連中はどうなったんだろうな。あのミリオンとか言うガキは別として。」

「ミゼットとバアルが返り討ちしたって話は聞いたぞ。」

バアルはギルニア砂漠の北、国境の町ベールズを拠点に動く狩人である。

銀色の短髪で端正な顔立ちをしており、ライラの直剣より少し長いロングソードと火の魔法で扱う27歳の男。

ただの狩人ではなく、その実力から国に依頼され、国境警備隊の副隊長も務めている。


「山脈を越えてきたら話は変わるが、マディオンからハーラルに入ってくるなら俺たちより先に、バアルやミゼットの相手をするんだろ?」

「まぁ、あの二人ならちょっとやそこらじゃやられねぇか。」

「そう言うことだ。それに王都にも報告は上がってる。流石に警備を強化するだろうから、暫くは落ち着くんじゃねぇか?」

「警備っつっても大軍で来るわけじゃねぇからな。1人ならすり抜けられる気もするけどな。」

「まぁ、用心しとくしかねぇさ。」




「お、ここらだな。」

辺りに草花が見える。

砂漠の中に点在する緑の多い地帯。開花の時期には虫が集まり、それを狙う小動物が集まってくるが、今は夜の為か、虫の音が小さく鳴っているだけだった。

二人はモウズを降りて辺りを見渡した。


「青い花か・・・結構あるな。」ライラが呟く。

辺りには色とりどりの花が、月明かりに照らされて美しく咲いている。ここだけ見れば、砂漠とは思えないほどであった。

「茶色い草は抜くなよ。」

ディケンズが忠告する。

「あぁ、こないだの根っこの化けもんか。」

「マンドラゴラだ。叫ばれると魔物が寄ってくるかもしれん。」

「了解。とりあえず、青い花を手当たり次第採っときゃあいいんだろ。」

「まぁ、そうだな。違う花でも薬か鑑賞用で売れんことは無いだろう。」


暫くの間、二人は手分けして青い花の採取を行う。

ふと、ライラが何かに気付いた。

「おい、ディケンズ。おかしいぞ。」

「何がだ?」

「・・・虫の声が聞こえない。」

いつの間にか辺りが静まり返っていた。

「・・・俺たちが荒らしたから逃げたんじゃねぇか?」

「そんな簡単に逃げ・・・っ!」

気配に気付いたライラが振り向くと少し離れた所にアプールレオパードが鎮座し、こちらを見つめていた。

「アプール?」

「あの野郎、ヨグロトスを狙ってたんじゃねぇのか?」

「つけられたか。」

「やるか?」

「仕方ねぇ。向こうさんがその気になら、やるしかねぇな。」

二人が立ち上がった時、背後からフワフワと何かが舞う。

「ん?」

「・・・こいつは。」

それは黄色い羽根を持つ蝶であった。それも一羽や二羽ではない。二十羽は越える蝶の群れが空を舞う。

月明かりに照らされた黄色い羽根の群れは、夜の砂漠の静けさと相まって、幻想的な景色を作り出していた。


「反鏡蝶・・・」

特定の属性魔法を反射する特殊な羽根を持つ蝶である。

「花に寄せられた・・・いや、アイツが呼び寄せてやがる。」

「この匂いが原因か。」

アプールレオパードの身体から独特な匂いが発せられており、反鏡蝶たちは散らばりながらも、ゆっくりとアプールレオパードへと近づいてゆく。


「黄色ってことは・・・そう言うことだよな。」

「こいつはまずいな。」


呟くや否やアプールレオパードが雷撃を放つ。

数羽の蝶に反射した雷撃がライラに襲い掛かる。

ライラは咄嗟に飛んで、それを躱した。

ライラのいた場所に着弾した雷撃は地面の草を燃やす。

「ソールオングルを取りに行くか?」

「ああ。」

ライラは花を入れた袋をディケンズに投げた。

「そいつを頼む。」

「任せろ。」

ディケンズがモウズの元へ行こうとするのを見て、アプールが再び雷撃を放とうと構える。

ライラはそれを阻止すべく、素早くデザイルを投げた。

アプールは雷撃を中断し、横っ飛びで回避する。


「来な。相手してやるよ。」


ライラの言葉を理解したのか、呼応するように咆哮を上げ、アプールは雷撃を撒き散らした。



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