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救出

 最初は四人で庭の仕掛けを見に来ただけのはずだった。

 その中でウィットが見つかり、致し方なくプランツ夫人と立ち話の形となった。

 そして納屋に辿り着いて仕掛けを確認すると、グラムが勝手に仕掛けを動かしたのだ。

 さらには勝手に着火。


 納屋にいるグラム、ジウ、ティゼの三人の目の前で、庭は一瞬で火の海と化していた。


「…………大変だ! 二人を助けないと!?」

「お前がやったんだろうが!?」

「何この刑事さん!? 実はこの人、何処か病んでるの!?」


 ティゼが悲鳴染みた声を上げるけれど、グラムからは本気しか感じ取れない。


 その間にも炎に巻かれたウィットとプランツ夫人に火の手が迫っていた。

 助けなければ庭ごと燃え尽きるのは誰の目にも明らかだ。


「キャー! キャー!?」


 突然の爆発と炎に、プランツ夫人は錯乱してしまう。

 何をされたかはわかっているものの、状況を飲み込み切れないウィットはひたすら目の前の女性を助けようとしていた。


「落ち着いて、落ち着いてくだ…………! え?」


 混乱して暴れるプランツ夫人を宥めるウィットは、足元の揺れに顔を上げた。


 重い物が移動するような微かだけれど確かな震動と音。

 ウィットはその元凶を探して振り返る。


 燃料のせいで炎の勢いが衰えることなく、立ち上がる陽炎の向こうに黒い影が動いていた。

 それは人間ではありえない大きさ。

 なのに意思を持って動いている様子が見てわかる。


「き、木!? いや、あっちにあったのは…………トーテムポールか!?」


 ウィットは炎の向こうに動く樹木のような怪物を目撃する。

 現実を受け入れたくない思いはあるものの、書斎でトーテムポールの正体について知っていたウィットはなんとか持ちこたえる。


 その間に、遅れて納屋にいた三人も動きだした怪物の姿に気づいた。


「本当に生きてたのか。宇宙人か何か知らないが、友好的ではなさそうだな」


 ジウが吐き捨てるように言うと、グラムは銃をのグリップを握る。


「庭が燃えたことで逃げようとしてるのかな? 火が効くなら倒せるんじゃないか?」

「ねぇ? 私の見間違いかしら? なんだかこっちに向かってきてる気がするわ」


 あまり速くはない。

 けれど着実に火に巻かれながらも、怪物は納屋を目指している。


「ふむ、夜中にあの妻と話してたなら知能はあるんだろうな」

「ということは、俺たちが火をつけたことに気づいてる?」

「訂正させて。いきなり庭に火を放ったのはあなたよ、刑事さん」


 ティゼの非難もグラムは気にせず、納屋から出る。


「ウィット! こっちに逃げて来られないのかい!?」

「グラム、奥さんが暴れて手を放したら火に突っ込みかねない! 頼む、手を貸してくれ! 火を消さないと、何処にも行けないんだ!」


 納屋は仕かけの始点のためか比較的燃えていない。

 ただ燃料を浴びて燃える木々はそう簡単には消えず、納屋から庭のほうへと向かうには火への対処をする必要があった。


 その間、ティゼはグラムの言動にびっくりして動けず納屋に残る。

 ジウはグラムの身勝手を知っているのでウィットへと声をかけた。


「燃えてる草を根元から掘り返したりできないのか? 植物ごとどかせば火は避けられる」

「えーと…………あ! 奥さんの園芸道具の中に草刈鎌があった!」

「よし、こっちからは上着を炎に被せて道を作ろう!」


 元気に声を上げたグラムだったものの、脱げる上着を着ていない。


 ジウは大きく溜め息を吐いて自らのジャケットを脱いだ。


「くそ、片手だと上手く…………よし、切れた! そっち側に草踏み倒すから気をつけろ!」


 ウィットが草を刈って、低木の幹を折って道を拓く。

 ジウはジャケットで燃える地面の草を覆い、火を消した。

 そうしている間に叫んでいたプランツ夫人が静かになっている。


「…………行かないと」


 突然呟いたプランツ夫人は猛然と駆け出した。

 退路の確保で気の緩んだウィットの手は簡単に振りほどかれてしまう。


 行く先は燃え盛る庭の奥。

 その動きに対応できたのは消火に加わっていなかったティゼだけだった。


「嘘でしょ!? ちょっと通して!」


 行く先にはグラム、ウィット、ジウ。

 ティゼは拓いた道を使って燃え盛る庭に踏み込んだ。

 大きな踏み込みで距離を縮め、プランツ夫人を掴もうと手を伸ばすものの、あと一歩届かない。


「プランツ夫人! 待つんだ! そっちは危険だよ!」


 ティゼの行動でグラムも状況を把握し、燃える庭の奥へと追い駆ける。


「おい! お前も危険だグラム!」

「あ、くそ! あの木の宇宙人は思ったより頭いいみたいだな。グラム! お前が狙われてるぞ!」


 炎の向こうから迫る木の影が行く先を変更していることに気づいてウィットが叫んだ。

 その動きは明らかに意思を持ってグラムを狙うもの。


 ティゼは木の怪物の動きを確認し、グラムを追った。


「こっちは任せて!」

「俺も!」

「待て、ウィット。こっちも燃えてるんだ。逃げ道を失くすことはできない」

「あ、うぅ。グラム! 急げ!」


 追おうとするウィットをジウが止める。


 ジウはジャケットで炎の燃え広がりを防ぎながら、冷静に木の怪物の動きを目で追った。

 ウィットは新たに燃える木々を草刈鎌で薙ぎ払い、グラムたちの逃げ道が塞がらないよう苦心する。


「刑事さん! 奥さまはお体が弱いの! 力尽くで締めあげるなんて真似したら許さないわよ!」


 ティゼはグラムの予想外すぎる行動を警戒してそう叫んだ。

 身軽なプランツ夫人に追いつけないグラムは、肩越しにティゼを振り返った。


「足を打ち抜くのは?」

「駄目に決まってるでしょ!?」

「組み伏せるのも駄目なんだろう?」

「あなたの体格にのしかかられたら、確実に奥さまは潰れるでしょ!」

「うーん、面倒だな」


 グラムはティゼと言い合いながら走り続ける。

 炎の向こうで地響きを立てながら近づく影も確認して、また唸る。


 ウィットの言うとおりグラムの動きに合わせて追ってきているのは誰の目にも明らかだった。


「ねぇ、この先に他の人間はいないんだよね?」

「いないわ! 食料の調達や管理は私たちの仕事だもの。奥さまの動きもずっと見てた。他の人間が生活している様子はない!」


 ティゼの言葉にグラムはプランツ夫人の背中を見据えた。


「よし。だったらプランツ夫人をさっさと捕まえてまず、この炎の海から逃げ出そう!」

「あなたが炎の海にした自覚は!?」


 ティゼの声にグラムは答えず、聞かないふりで足を動かす。


「燃える、燃える…………助けないと…………あぁ」


 その間もプランツ夫人はうわ言を繰り返して瞬きさえしていなかった。

 けれど足は真っ直ぐに庭の奥へと走り、止まる様子もない。


 そう思った時、焼け落ちた枝がプランツ夫人の目の前に落下する。

 さすがに腕をあげて足を止めるプランツ夫人は、降りかかる火の粉に怯んだ。


「今だ!」


 追いつけなかったグラムが距離を縮める。


 プランツ夫人の背後を取った瞬間宣言した。


「ノックアウトする!」

「はい!?」


 宣言したグラムはプランツ夫人に拳を見舞う。


 グラムの体で見えなかったティゼは、追いつくと同時にグラムを押しのけるようにして前に出た。


「し、死んで…………」

「生きてるよ。ちゃんと気絶させるって言っただろ」

「そんなの、信じられるわけないじゃない」

「俺は市民を守るのが仕事なんだぞ。生きてるってば。背負うから手を貸してくれよ」


 状況からこれ以上の言い合いは無駄だ。

 ティゼは気持ちを切り替えてグラムに手を貸した。


 けれど想定外の背負い方に手間取る。

 グラムは首に巻くようにプランツ夫人を背負い、片手で腕と足を掴んでもう片方の手を空けたのだ。


「…………もう、何も言わないわ。行きましょう」


 諦めを覚えたティゼは先導して燃える庭をまた走る。

 動く木の影はやはりグラムの動きに合わせて向きを変えていた。


 戻って来た姿にウィットが手を振る。


「早く! これ以上はさすがに無理だって!」


 草刈鎌で払える植物は全て払った。

 ジウは穴の空いたジャケットを諦めてグラムたちに叫んだ。


「急げ! どうやらあの化け物、ちょっと焼いたくらいじゃ諦めないぞ!」


 木の怪物は確実に燃料を浴びて燃えていた。

 燃え盛る庭の中を移動するのだからさらに炎にその身は苛まれる。

 だというのに一向に歩みを止めない。


 同時に煩わしそうに足元の植物を枝のようなもので薙ぎ払っている。

 その一撃を食らった庭木が不穏な音を上げて倒れる姿に、全員が息を呑んだ。


「走れ走れ走れ走れ!」

「お前が一番足遅いからな、グラム!」

「自分を置いて行けっていう刑事の自己犠牲だろ、ウィット!」


 無闇に叫ぶグラムにウィットが文句を言うと、ジウはジャケットを残して庭の端に移動を始める。

 ジャケットを踏んで走り抜けるティゼは無駄口を叩かず屋敷の玄関を目指す。


 そうして四人は炎に巻かれて火傷を負いながらも庭から走り出した。


毎週土曜日更新




*ダイス目抜粋

1)樹木の怪物の動き

  行動選択:1)攻撃 2)身を守る 3)逃げる 4)庭の奥へ向かう→1)

  攻撃対象:1)グラム 2)ウィット 3)ジウ 4)ティゼ 5)周囲 6)自傷による消火

       →1)


2)走るプランツ夫人

  ティゼ:捕まえる(DEX対抗)80(86)失敗

  グラム:追跡する60(28)成功


*使わなかった設定

 庭の奥の花。

 サイズ15以上で道具を使えば塀を無理矢理超えることはできた。(該当グラム)

 ただし一度覗くと正気度を削られる。(0/1d4)

 覗くだけなら跳躍技能か幸運で可能。ただし覗いただけでは内部の様子は観察できない。

 本能的な逃避で何か見ても何を見たかを認識せず、仲間が消えて探さなければいけないなどの理由付けがない限り一度覗いた者はその後近づこうと言う気は起きない。

 覗き二度目も正気度が削られる。(1/1d6)

 聞き耳技能を嗅覚に転用してダイスを振らせ、成功すると吐き気を催す血の匂いを知覚して強すぎる花の匂いでなければ落ち着かなくなり、花屋敷周辺から離れて探索ができなくなる。

 何を見たかは結局覚えてはいない。

 サイズ15以上で道具を用意するか跳躍技能成功で壁の向こうへ侵入できる。

 血の池に浮かぶ巨大な花のつぼみを見た者は正気度を削られる。(1/2d3)

 血を流すような怪我をしていた場合、強制戦闘。逃げる以外に生き残るすべはない。

 怪我を負っていなければ攻撃行動をしない限り動かないが、もしプランツ夫人に拉致された末に放り込まれていた時には血を流す怪我を負わされているので強制戦闘。

 同時に縛られているので逃げることはできない。

 火を放てば逃げることなく10ターン後に燃え尽きる。

 庭の奥だけを燃やした場合、消火を試みるプランツ夫人、もしくは花を助けようとする樹木の怪物との戦闘となる。

 花が燃え尽きると樹木の怪物は手近な人間を食べて力を得て逃走する。

 手近な人間にはプランツ夫人も含み、この攻撃をプランツ夫人は回避しない。

 目の前で怪物に人間が捕食される光景を目の当たりにした者は正気度を削られる。(1/1d10)


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