着火
四人は書斎を出てベランダから庭を確認する。
「見える? 夫人、あの庭に入ると何処にいるかわからなくなるのよ。出入りは必ずサンルーム、ここの下からだからわかるんだけど」
ティゼが言うとおり、木々が生い茂った庭に小柄なプランツ夫人の姿を探すのは難しい。
そして書斎の前の廊下からはサンルームのガラス天井が見えるので、中が丸見えだった。
「庭の手入れ道具がないからまだ戻ってないわ。どうする? 奥さまが戻られてから納屋へ行く?」
「夕食になったらまた食事に毒を盛られるんだろう? 待ってられるか」
ジウの言葉にグラムとウィットも頷く。
「わかったわ。行くわよ」
ティゼも覚悟を決めて階段へ向かった。
コックも戻っておらず屋敷内は静まり返っている。
玄関から出てもまだプランツ夫人の姿は見えない。
「私が先導するわ。静かにね」
「うわー、頼りになるぅ」
納屋に向かって身を低くして庭に入るティゼに、後ろに続くウィットは苦笑いだ。
「よし、必ずこの事件は俺が解決するんだ。うん、そう言えば納屋に四人も入れるのかい?」
やる気に満ちたグラムは、納屋を見て疑問を投げかける。
一番身長の低いジウは、一番身長の高いグラムを見上げて溜め息を吐いた。
「でか物は外で待ってろ。ウィットもだ」
「それはいいけど、ちょっと待って。あれ? あ、枝が引っかかってる」
ティゼを先頭に納屋へ向かう中、ウィットが動きを止めた。
ジウは置いて行くつもりでちらりと見ただけ。
グラムも気にせず、ジウの指示さえ聞いていないのか一直線に納屋に向かった。
そのため、ウィットだけが取り残される。
「ひどいな、もう。あ、取れ…………あ」
一人奮闘していたウィットは、文句を言いながらも引っかかっていた枝をはずことができた。
けれど跳ね返った枝が、盛大な音を立てて身を隠した茂みを揺らす。
同時に軽い足音が近づいた。
「まぁ、どなたかいらっしゃるの?」
プランツ夫人の声にウィットは息を殺す。
けれどすでにプランツ夫人からは屈みこんだウィットが見えていた。
「あら、ウィットさん。そんなところに屈んでどうなさったの?」
「あ、やぁ。ちょっと枝が引っかかってしまって、今取れたところですよ」
ウィットは諦めて立ちあがる。
先行した三人はウィットを囮にする形で気づかれず、納屋に到着した。
すぐさま納屋の中に身を隠すと、中からウィットとプランツ夫人の様子を窺う。
「どうなる、ウィットは? ここでいきなり襲われる可能性は?」
危険度を問うジウにティゼは冷静に答えた。
「奥さま一人じゃ毒を盛るのがせいぜいよ。興奮させないように逃げられればあるいは」
「いっそ、プランツ夫人を屋敷に誘導してくれないかな?」
グラムはウィットの心配よりもプランツ夫人排除を願う。
そうしてる間に、愛想のいいウィットは何げない様子を繕って立ち話を始めていた。
「お一人? 他の方々は何処かしら?」
「いやぁ、他の二人は屋敷の中を探してまして。俺は、えっと、二階の窓から見えたこの庭の奥深さに誘われてちょっと降りて来たんです」
「まぁ! 庭の良さがお分かりに? ウィットさんは植物がお好きかしら?」
「は、はい、嫌いでは、ないです」
食いつくプランツ夫人に、ウィットはたじたじだ。
明らかに話題選びを間違った。
「あ、これって夕食の時と同じだ。このままプランツ夫人はウィットの話聞かずに延々喋るじゃないかい?」
「だろうな。メモがどうのと言っていたから記憶障害があるのかと思ったが、もしかしたら変質的なまでに植物に対して好意を寄せていて、他のことを忘れるのかもな」
一度経験したグラムが呆れる。
ジウの推測にティゼは頷いた。
「あぁ、なるほど。トーテムポールや庭の奥の物を隠すために植物好きを演じているのかと思っていたけれど。植物だからこそ、宇宙人も受け入れたと考えれば、いえ、今はそんなことじゃないわね」
三人は顔を見合わせる。
「それで? あのお友達はどうするの?」
「友達ではないね。放っておいてもお喋りするだけだろ?」
「右に同じく友達ではない。即座の命の危険もなさそうだし放置でいいだろ」
プランツ夫人の話につき合わされるウィットは、気づかれないように納屋に視線を送る。
もちろん助けを求めるためだ。
けれどそれに答える仲間はいない。
「じゃ、放置で。こっちに来て。これが配電盤よ」
「あれ? 君がランプを置いておくと言ったけど?」
「グラム。この気化した燃料の臭いの中で火をつける気か」
「えぇ、あれは冗談よ。気づいていて茶化されたのだと思っていたけれど」
「私は気づいていた。ウィットもそうじゃないか? こいつは興味のないことはないも同じと見なす」
「刑事さんがそれでいいのかしら?」
ティゼは肩を竦めて持っていたペンライトつける。
「開くと中に電源を入れるための鍵穴があるわ。車のエンジンと同じね。そっちの床の収納にガソリンとエンジンが直してあるの」
「夫が死んでからあの妻はここに出入りしてないんだろう? 燃料は使えるのか?」
「大丈夫。私が確認して入れ替えてある」
「その割にはここに人が侵入した形跡見あたらなかったけど。君、本当に僕たちがいなくてもその内自分で解決してたんじゃないかい?」
肩を竦めるグラムにティゼは少し考える様子を見せた。
「亡き旦那さまが仕掛けたと明示できる状況と、事故に見せかける仕掛けを思いつけばやっていたかもね」
犯罪とわかっていて、その罪を擦りつける先があれば実行していたと言う。
そのティゼの判断を指示するようにジウも頷く。
ただ法を守る側のグラムは不満げだ。
「文句なら今は飲み込んでちょうだい。説明を続けるわ」
ティゼは暗くては見つけられない床の収納を開く。
「あれ? 別のタンクがあるね?」
「これもガソリン入ってるな」
グラムが覗き込む下で、ジウが臭いで判別する。
「えぇ、奥さまに聞いたところ、庭の配管は旦那さまが庭の水やりの為と言って作ったそうよ。けれど一度も使わず壊れたそうなの」
そのためプランツ夫人は近づかず、仕掛けにも気づかずにいたらしい。
「一度も使われなかった配管。そこに配管の中に液体を送り込むためのエンジン。そして配管の先には燃料の入ったタンク」
「なるほど、これが仕掛けかい。配管は庭全体に行き渡っていたし、あのトーテムポールのすぐ側にもあった」
「で、本人はこれを使う前に血を死の植物とかいうものに取られて死体だけ放置と」
手はずを理解した三人は頷き合う。
ジウが燃料の状態を確認し、ティゼは配管に繋がっていることを確認する。
体が大きく狭い納屋では動きにくいグラムは配電盤の前に立った。
「じゃ、動かすよ」
「「え!?」」
二人の手が止まったのを見計らって、グラムが電源を入れる。
途端にエンジンが轟音を上げた。
「な、なんですか!?」
「これは!」
庭のウィットたちにももちろんエンジン音は聞こえる。
何をしているのかを知るウィットは、配管が大きく震えるのを見た。
「と、ともかく奥さん! こっちに!」
「きゃ!? 何をなさるの!」
抱き込むようにするウィットに、プランツ夫人は状況が飲み込めず抵抗する。
その間に配管の中に燃料が送り込まれ庭の至る所からガソリンの嫌な臭いが立ち昇った。
「何してるの、刑事さん!?」
「このままじゃ向こうに気づかれる!」
「じゃあ、もう着火だ!」
「「そうじゃない!」」
二人に怒られグラムは即決する。
ジウとティゼの制止も遅く、グラムの指が着火ボタンを押した。
瞬間、火花を散らす配管の留め具が一斉に鳴る。
そして瞬く間に爆炎が広がった。
「う、うわー!? あいつら!」
「きゃー、きゃー!?」
配管から離れていたとはいえ、爆発的に広がる炎はウィットとプランツ夫人を襲う。
熱風と目を焼くような赤。
文句も悲鳴も燃え上がる風に吹き攫われる。
瞬く間に燃え上がった庭の中、プランツ夫人を庇ったウィットは一瞬で炎に囲まれてしまっていた。
毎週土曜日更新
*ダイス目抜粋
1)プランツ夫人に見つかるウィット
ウィット:幸運に頼る45(81)失敗→音を立てる
プランツ夫人:聞き耳を立てる75(21)成功→音に気付く
ウィット:隠れる70(93)失敗→見つかる
2)見つかったウィットをどうする?
1:助ける
◎2:見捨てる→合流までグラム、ジウ、ティゼのみ行動可能
3:笑う
3)プランツ氏の残した仕掛けを見つける
◎1:着火→誰が? ◎1:グラム
2:ジウ
3:ティゼ
2:プランツ夫人を問い詰める
3:ウィットに警告
4:庭園奥を確かめる




