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書斎の隠し扉

 行方不明事件の起こる屋敷の中、密かに事態を把握していたティゼと合流し、二階へ向かった。


「奥さま、夜中に起き出してまで庭に行くの。それが疑い出したはじめ」


 ティゼは屋敷を探る経緯を話しながら階段を上る。


「何度か夜中に抜け出したのをついて行って様子を窺ってたんだけど、そういうことをしているのコックの子には勘づかれちゃって。あまり信用してもらえてないのよね」

「そう言えば君を怪しんでたかもね」


 率直なグラムにティゼは笑う。


「私には気づくのに、夜中地下に降りて何かしようとする奥さまに気づかないんだもの、あの子」

「そう言えば自衛をしていたと言ったよね? 具体的には何を? もしかして昨日の夜、俺たちのところ来た?」


 ウィットが探りを入れるとティゼはすぐさま肯定する。


「えぇ、奥さまが二階に行ったのを見て追い駆けたの。もしかしたら毒を盛った刑事さんの様子を見に行ったのかも知れないと思って」

「なんだ、ウィットが盛られたのは知ってたが、グラムもか。となると初日の昼食と夕食、そして今日の朝食と全員狙われてたわけか」


 ジウは他人ごとのように自分も毒を盛られていたことを自覚した。

 グラムとウィットは顔を見合わせて今さらながら危機的状況に驚いたようだ。


「あとは地下に降りる階段に踏むと必ず軋む仕掛けをしたわ。それを踏むと奥さま驚いて地下まで来ずに戻るのよ。昨夜もあなたたちの起きている気配を察して襲撃はやめたようよ」

「襲撃って、あんな小柄なプランツ夫人が眠っているとは言え大の男をどうするって言うんだい?」


 グラムの問いにティゼは溜め息を吐いた。


「ここにいるのは奥さまだけではないともう知ってるはずでしょう?」

「つまり、庭の奴が何か手助けをするってことか。この屋敷の中も完全に安全ってわけじゃないんだね」


 ウィットは二階の廊下の左右に視線を走らせる。

 プランツ夫人の部屋の前を通り過ぎる時、ティゼは不穏なことを教えた。


「奥さまは病んでいらっしゃって、植物の手入れ以外はあやふやなの。それを補うために寝室にはやるべきこと、言うべき台詞を書きなぐったメモが大量にあるわ」

「鍵かけてあるのにそこも入ってるのか。随分丁寧な掃除屋だ」

「メイドよ。そうそう、奥さまは夜になるとトーテムポールのような木に向かって何をするべきか、何を言うべきかを相談しているのを見たの。あれには近づかないほうがいいわ」


 ティゼの言葉にグラムとウィットは震え上がる。

 二人はトーテムポール近くで不穏な音がした理由に思い至ったのだ。


「『あの木は木であって木じゃなかった。庭は駄目だ。奴の縄張りと化してしまっている』か。つまり、宇宙人はあのトーテムポールなのか」


 庭で異変を感じなかったジウは、プランツ氏の日記の一文を口にした。

 ティゼは書斎の前で足を止めると三人を振り返る。


「いいえ。あれは奥さまが話しかけない限り動かない。もっととんでもないものがたぶん、庭の奥の壁の中にいる」

「君はそこに何があるのか知ってるのかい?」


 真剣な表情で問い質すグラムに、ティゼは首を横に振った。


「あそこの鍵は奥さまが肌身離さず持っているの。塀を越えようかと思ったこともあったけど、なんだか、嫌な予感がして」

「あー、俺たちも覗こうとしてなんか気分悪くなったんだよね。なんだろう、あそこ」


 ウィットが言う間にグラムが書斎の鍵を回す。

 扉を開いたところでジウが床に屈みこんだ。


「ふん、これはお前の仕込みか?」


 ティゼに向かって掲げるのは一枚のしおり。

 蝶番に挟んで開けばわかるようにしてあった物だ。


 ティゼは笑顔で肩を竦めて見せる。


「私が開けた時からあったの。きっと亡くなった旦那さまの仕かけよ」


 ティゼが書斎にプランツ夫人が入っていないと言った根拠だった。


 電気をつけると誰かにばれるかもしれないため、四人は暗い書斎に入る。


「私は夜しか動けなかったから実は本棚よく見てないのよね」


 ティゼが書斎の本棚を見る間、初見の三人は部屋を見回す。


 するとグラムが本棚の横の箱に詰められた物を見つけた。


「これ、男物の靴が片方、女物のカーディガン、使い古された移植鏝って、被害者の遺留品かい?」

「本棚はざっと見た感じ、オカルト本の類が並んでるな。イギリスの伝承とかもあるみたいだ」


 ウィットは本棚の蔵書をあらかた確認する。


 ジウはティゼのほうへ行って声を落とした。


「ここに日記のような記録はないのか? もしくは、オカルト本にしても聞き慣れない言語の本」

「…………見あたらないみたいね。あなた、いったいどんな面倒ごとに巻き込まれて来たの?」


 ティゼが冗談めかして聞いた時、グラムとウィットが同時に声を上げた。


「「ん!?」」

「どうした?」

「いや、この床の部分が他と音が違うんだよね」


 ジウに答えるウィットは、その場から退いて足元を指差す。

 グラムは屈み込んで床を叩いた。


 床からは反響音があり、下に空間があることがわかる。


「気づかなかったわ。あ、そこに鍵穴があるけど暗いわね。道具があればこじ開けられるんだけど」

「これ使うか?」


 準備良くペンライトを片手にしたティゼに、ジウが店から持ってきた鍵開け道具を渡す。


「いい物持ってるじゃない。…………よし、開いた」


 もの言いたげなグラムをウィットが押し留める中、ティゼは手慣れた様子で開錠してしまう。


 床の隠し扉の中身をジウとティゼが覗き込んだ。


「ち、こういうのがやっぱり出て来るか」

「えー? 私、こういう系は初めてー」


 顔を顰めるジウと、戸惑うティゼ。


「何が出たって言うの?お、手書きが多いな? 言語もいくつかある。あ、けど添えられたノートにドニーの字で訳が書いてあるな」

「えーと、どれどれ? 『頭から出て来た虫、加虐趣味の異常殺人鬼製造機。寄生虫。どれだけ残虐なことができるか、どれだけ凄惨なことができるかを追求する生き物。あれに脳を乗っ取られた末にあの凄惨な七日間が実現したのだろう。今もイギリスにはあの虫がいる』」


 ウィットの手から取り上げたノートを音読したグラムは、後悔と共に口を閉じる。

 他の誰も何も言わない。


「…………『一見樹木にしか見えないが』」

「え? まだ読むの?」


 音読を再開するグラムにウィットが突っ込んだ。


「だってこれ、たぶんあのトーテムポールだ。知っておかなきゃ。『上部に口があり、全てを丸のみにする。あの虫に奴隷のように使役されていたと妻は言っていたが、確かに生き物としてみれば、体には被虐の痕と思える傷がある』って、もしかしてトーテムポールに見えたあの模様、傷跡?」

「待て待て、つまりなんだ? あの妻は殺人狂の虫のところから奴隷にされていた木の怪物を連れ出したのか?」


 ジウが不快そうに言うと、ティゼは一つ頷く。


「これで、奥さまの目的はわかったわね。覚えてる? あなたたちが昨日の夕食でトーテムポールについて聞いたでしょ? あの時弱っていてと言ったじゃない」


 三人は、弱った樹木をプランツ夫人がどうしようとしていたのかを思い出して震え上がる。


「あ、あのトーテムポール、全て丸飲みってまさか、今まで死体が見つからなかったのは」

「そ、それどころか車さえないのもま、丸飲みに? 嘘だろ…………」


 ジウの推測にウィットは信じられない様子で首を横に振る。


「丸飲みに、嘘だろ…………」


 ティゼは扉のほうを見て、眉を顰めた。


「予想以上にまずいわね。あのトーテムポール、庭の中でも屋敷に近いわ。その上屋敷の出入り口が見える範囲に立ってる」

「範囲に、立ってる…………」


 それぞれが恐怖を飲み下す中、ジウがようやく異変に気づいた。


「おい、グラム。こっち見ろ」

「こっち見ろ…………」

「え? お前どうしちゃったの? おい、グラム?」

「おい、グラム…………」

「何? 刑事さんどうしたの?」

「刑事さんどうしたの…………」


 全員の言葉を繰り返すだけで空中を見据えているグラムは、明らかにおかしかった。


「こりゃ頭がオーバーヒートしたな。もしくは心が逃避しやがった。こっちは私が相手しておく。そっちは庭の奥に何があるか探しておけ」


 ジウはそう指示を出すと、グラムを部屋の端に引っ張って行って話し出す。

 ウィットとティゼは頷き合って訳のされたノートを捲った。


「あ、これかな? ティゼちゃん、俺たちここに来る前に行方不明になった庭師が、奥さんから花を見せてもらえるって呼び出されたことを聞いたんだ」

「死の植物? 『これを咲かせればあの虫さえ逃げ出し、憐れな木々は救われると妻は妄信している』? 殺人狂が逃げ出すなんて、まるで悪魔を追い出すために魔王を呼ぶようなものね」


 ティゼもウィットの推測を支持して頷く。


 その頃にはグラムも正気に戻っていた。


「うぅ、もう、何がなんだか…………」

「ったく、まだまだ若ぇな。普段人の話聞かないんだ。こういう時も自分が信じることだけ見てろ」


 叱責したジウは視線に気づいて問いかける。


「そっちは?」

「たぶん正体わかったよ」


 ウィットが情報を共有する間、ティゼが書斎の机の引き出しを開ける。


「これが庭の仕掛けを動かす鍵。配線盤の鍵よ。納屋を詳しく調べたらわかることだったんだけど、旦那さまは庭を炎上させる仕掛けを施していたの」

「よし、よぉし! 訳のわからない化け物なんか、全部倒してやる!」


 グラムは汚名返上のため、拳を握って奮起した。


毎週土曜日更新




*ダイス目抜粋

1)書斎探索

  グラム:聞き耳を立てる70(51)成功

  ウィット:聞き耳を立てる75(08)成功

  ジウ:図書を調べる55(24)成功

  ティゼ:図書を調べる65(65)成功


2)冒涜的な生き物に対する調査記録を発見

  グラム:正気を保つ65(92)失敗→正気を失う(5)追い詰められる

                 →想像してしまう(60)成功

                 →逃避(狂気表からダイスで選択)

                 →オウム返しで行動不能

  ウィット:正気を保つ43(49)失敗→正気を失う(3)

  ジウ:正気を保つ67(76)失敗→正気を失う(2)

  ティゼ:正気を保つ68(88)失敗→正気を失う(4)


*使わなかった設定

4)花屋敷での宿泊

 屋敷に泊まると誰かの部屋にプランツ夫人が忍び込む。

 夫とは別にマスターキーを持っているので侵入を防ぐことはできない。

 ただし筋力も素早さもないので、気づかれたと思えば引き下がる。

 複数人で一緒にいるか、聞き耳を立てて気づいて様子を見に出ればプランツ夫人は退散する。

 もし一人で寝ており、聞き耳にも失敗するとプランツ夫人は侵入して部屋の内側から窓を開ける。

 するとトーテムポールが枝を巻きつけて捕獲。窓から連れ出し一階のサンルームに隠す。

 この時抵抗は不可能。人外なので素手では勝負にならない。

 血を絞るという行程があるため、一日は殺されずに済む。

 また、聞き耳で起きた上で窓を見るか目星をつける技能を使うと、窓の外でスタンバイしているトーテムポールに気づいて正気を失う判定が入る。


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