日本軍
新キャラが多数出てきます。
ルーヴェ達がエルマとすれ違った頃、東京から大きく離れた大地のとある場所にて身を潜み続けている集団が、自分達の国を支配する存在に一矢報いるため反攻の機を伺おうと力を蓄えていた。
その者達はかつてこの国のために武器を取り、大地を踏みにじる輩から人々を守ろうと兵士として戦い続けていた。彼らが集まる組織の名は、日本軍。ガルヴァス帝国に侵略された日本の唯一の軍隊だ。
五年前の侵攻で祖国が敗北を受け入れた後、日本軍は東京に構えていた軍事基地を明け渡すこととなり、軍隊は解体されてしまう。それを受け入れられない彼らは、密かに資材を別の場所に移し、その最中にバラバラになりながらも各地で祖国を奪還するために活動を続けていた。
しかし、戦力の差は依然と変わらず、戦況をただ一定に維持させることしか彼らの手段は指の数よりも残されていなかった。その上、ギャリアウイルスの感染が彼らにも襲いかかり、発症後に亡くなる者もおり、さらに戦闘による死傷で人員は少なくなっていった。
組織の分散、縮小によって日本軍はジリジリと追い詰められていた。
明かりが見当たらない、薄暗い空間。影すら飲み込む真っ黒な空間は何も見えない闇を幻想させていた。そこに一人の男が吸い込まれるようにカツカツと歩を進める。
「…………」
黒宮天路は彼が、いや彼らが待ち焦がれていた代物と対面しようと一足先に向かっていた。
黒宮はその空間の明かりを点けると明かりが奥まで広がり、何もない場所が一転、空間を支配する何かがそこに置かれてあった。黒宮は一旦、歩みを止めた後、見上げるように視線を傾けると大きく目を開かせた。
「‼」
見上げたその先には、逆に男を見下ろすような、立ちはだかる壁に見違えるほどの大きさを持った灰色の巨人がいた。
しかもそれが複数体、辺り一面に敷き詰めるように並ばれており、その数が十にも満たない程だ。そして明かりが点いた今、それらを囲んでいるこの空間は、鉄で造られた格納庫であった。
その格納庫に隠れていた巨人は全容だけでもガルヴァス帝国が開発したディルオスとは明らかに形状が異なっており、一瞬別物だと思った。ただ、男にとっては馴染みのあるものであり、どこか親近感を覚える造形だった。
これを見た黒宮は思わず表情が緩み、自然な笑みを浮かべた。表面だけでも歓喜に奮えているのが分かる。
「フッ……見事な造形だ。和を重んじる我々にとって、これ以上のものはない……」
どこか懐かしさを思わせる……そんな意味が含まれた言葉を、黒宮は目の前の巨人に感謝するように漏らした。
黒宮が静かに喜びを表していたその時、後ろから彼と同じ服装をした人間が数人、男がいる地点に集まってきた。彼らも巨人を目にすると一斉に「オォ!」と声を上げた。
「これが俺達の……」
「ようやくこの時が……」
「これでガルヴァスの連中に立ち向かえる……!」
それぞれが喜びを爆発させ、その内の一人がそれを目に見える形になるように、左の手のひらに右の拳をパン! とぶつける。
欲しかったオモチャが手に入ったことに彼らが騒ぐ中、黒宮の肩にポン、と軽く叩かれる。黒宮はその手が続いている方向へ顔を向けると彼よりも歳を重ねた初老の男が立っていた。
「神原将軍!」
黒宮はその名を挙げるとすぐさま日本古来の敬礼の姿勢をとる。彼の周囲にいた人間達も同様に敬礼した。
神原禅。現在の、五年よりも前から日本軍を率いる将軍の地位を持つ司令官である。黒宮は、その日本軍をまとめる隊長。そして彼らの周囲にいる人間は皆、日本軍の兵士。
なぜなら彼らが今ここにいる場所は、独自に秘匿されている日本軍の基地であった。
「黒宮君、よく我慢してくれた! そして君達も!」
「いえ、この時を五年も待っていたのですから……」
彼らはずっと待っていた。祖国を踏みにじられ、支配される立場になったとしてもいつの日か自分達の手で取り戻そうと反撃の刃を研ぎ続けていたのだ。
そして今、それを示すための武器である巨人――シュナイダーを手に入れたのだ。
「だが、待った甲斐があったものだ!我々に協力してくれる者がいたのだからな」
神原は自身の背後にいる一人の人物に顔を肩越しに向ける。そこにいたのは、日本軍に所属してもいない、レジスタンスのリーダーこと日下部直人だった。
「まあ、自分達を受け入れてくれたことは感謝します。こちらも戦える武器が少なくて、ギリギリだったもので……」
「本来、こういうのは若い君達ではなく我々の役目なのだが、戦力も心許ないのは事実だからな……お互い様ということだ」
「仰る通りです」
日下部を初めとするレジスタンスは、あれから日本軍と無事接触することができた。最初はディルオスを引き連れていたためガルヴァス軍と間違えられ、一時身柄を拘束されたのだが、日下部がこれまでの経緯を話したところ誤解は解け、仲間入りを果たすことに成功した。
今では日下部達は日本軍の補充用員として日本軍の基地に匿ってもらっていたのだ。
ちなみに彼らが持ってきたディルオスは、ある人物に引き渡されたらしく、ここには存在していないのである。その代わりとして用意されたのが日本軍のために造られたシュナイダーだった。
「もし奴らが来ても、追い返すことができるぜ」
「待て。簡単に決め付けるな」
兵士の一人がガルヴァスと対等に渡り合えることに興奮するような発言を出す。しかし、もう一人の兵士が早とちりに思えるその言葉を冷静に咎めた。
「何で……」
「その通りだ。安心するのはまだ早い。あくまで奴らと同じ武器を手に入れただけにすぎないんだ。大変なのは、これからだぞ」
「す、すいません……」
さらに黒宮が重ねるように答える。彼の言う通り、シュナイダーを手に入れたことでようやくガルヴァスと同じ土俵に立てただけなのだ。保有する数もあちらが上で、アドヴェンダーとしての連度も戦略も豊富。それでも勝ち目は紙のように薄い。
そのような結論を出せるのは、黒宮がいかに戦い方を知り尽くしているからこそなのだ。経験が裏打ちされた言葉に兵士達は思わず萎縮し、さっきまで騒いでいた空気が一瞬で静かなものとなる。
「君の気持ちは理解できる。だが彼らも気を張っていたんだ。これくらい許してもいいだろ?」
「はい」
確かに黒宮の言葉は一理ある。そのことを察した神原は黒宮に兵士達の心情を理解するようにと優しく諭した。実際、長年の戦闘を繰り返していたことで軍内部は極度の緊張感に包まれ、空気はピリピリしていた。
ところが、さっきまでの歓喜に溢れたものと比べれば、一目瞭然。まさにその抑圧から解放されたといっていいだろう。それを察した黒宮はすんなりと受け入れた。
そこに懸念を抱いた発言が基地の中で明瞭に響いた。
「お言葉ですが、仮に戦力を集めるとしたらどうするつもりでしょうか?」
「それは……」
日下部だ。彼のこれからを決定づける言葉は、まっすぐに神原と黒宮に突き刺さり、表情を曇らせるには十分な内容である。
二人だけでなく兵士達もそれぞれ意見を言い合う。このまま留まるべきか、それともこちらから攻め込むべきか、どちらも未来へ続く道は険しいものだと頭で分かっていながらも選択しなければならない現実に、深く双方が納得するまで語り合った。
その中で神原はある決意をする。
「よし……各地にいる部隊に連絡しろ。近くに廃棄された軍事基地があるはずだ!」
「それって、もしかして……」
神原が出した指示の内容は意外なものだった。兵士達もそのことに誰もピンと来ていない。だが日下部はその意図を即座に見抜く。
「レイヴンイエーガーズが潰した基地……!」
そう、自分達よりもガルヴァスに対抗できる勢力が関わった場所だ。襲撃で手薄になっている可能性もなくはないだろう。その意図に気づいたのは黒宮も同じだった。
「当面、隠れ蓑として使えるはずだ。元々、我が国の土地だから不備な点は無いはず……」
「ですが、彼らの襲撃で機能出来なくなった所も……。だとすると一から作らないといけないのでは……」
神原の口から主にその理由が伝えられるが、日下部はその理由の、懸念すべき不安を口にする。だが、その不安を神原はある一言で吹き飛ばす。
「分かっている。しかし、状況が動いている今ならガルヴァスの目を欺けられる。またとない好機には違いない……リスクを負わなければ出来ないことだ。君達もそうだったのではないか?」
「…………!」
神原の言葉に誰もが口を閉ざした。特に日下部の心に直接響き、彼は押し黙るしかできなかった。日下部達もリスクを負ってここまで来たのだ。リスクを負わずに前には進めない……それは彼自身、その身をもって知ったことなのだ。黙るのも至極当然である。
「これ以上異論はないのであれば、すぐに実行してくれたまえ。これは命令だ!」
神原は自分が申した指示を命令として黒宮達に下した。その命令を聞き入れた兵士達は敬礼のあと駆け足で行き、遠くにいる仲間達に命令の内容を伝え始めた。
動き回る兵士達とは逆に彼らを見つめる日下部に片桐が近付く。そして片桐の手が日下部の肩に乗っかると日下部はそれに気づいて片桐がいる方へ振り替える。
「いよいよ奴らに攻め込む時が近づいているってことだな……」
「まあ、先手を打たないよりはマシだけど」
熱を直に感じ取れる程の周囲の温度とは真逆に、冷めた目で見る日下部は呆れた様子で呟く。
「だけど、頼れないわけじゃないだろ。それにシュナイダーを知っているなら俺達にもチャンスがあるってことだぜ」
「確かに……あの時、シュナイダーの整備をしただけだから簡単なことぐらいだろ。経験を積めれば、な」
「相変わらずネガティブだな。ま、お前がそう言うならそうかもな」
片桐は日下部の言葉に不満ながらも納得した様子でどこかへと去っていった。続く日下部もその反対方向へ歩み始めた。
黒宮はあれからずっと目の前にある巨人をただ一心に見つめていた。その巨人の奥から白衣を着た女性が黒宮の前に現れる。
「気に入ってくれて光栄ですね。私達も作りがいがあったというものです」
「あなた方が協力してくれたことには感謝する。だが……なぜ我々にこういうものを?」
その女性は白衣を着ていること、横にある巨人を造ったとあることからその開発者の一人だろう。
黒宮は自分達に手を貸すことに疑問だったのかとその真意を尋ねた。
すると、
「あなた達がここで終わってしまうのは、私達にとっても不都合なのです。もしこの戦争を終わらせた後、誰がこの国を守るのですか?」
「…………」
彼女の的を射た返答に黙ってしまった。まさしくその通りである。
黒宮達の目的は、あくまで日本を取り戻すことであり、それ以上求める必要はない。だからこそガルヴァスに立ち向かえる力が欲しいわけであり、何故か自分達に素性を明かそうとしない白衣の女性にシュナイダーの開発を依頼していたのだ。
「ならば、あなたの目的を今一度聞きたい。何がしたい?何の目的で近づいてきた?」」
「……あの時に言ったはずよ。あなた達と同じように取り戻したいがあると」
彼女が日本軍に最初のコンタクトをを取ってきた頃の会話と同じ内容だ。二度も聞いたであろう、彼女の言葉は本物だと黒宮は改めて知る。それは決意、覚悟ともに自分よりも上なのだと思い知らされた。
素性を明かさないのは、彼女にとっても良くないのではと想像できるのは難しくなく、敢えて踏み込まなかった。
「そろそろ私、ここを発たせてもらうわ。どうやらあの子達から要請があったみたいだし」
「!?どういうことだ!」
「言葉通りよ。あなた達もここを発つんでしょ?」
まさかさっきまでの会話を聞かれていたのかと疑い、この基地を去る理由を黒宮は問いただすが、持ち前の冷静さを発揮させ、その言葉の意味を予想する。
「レイヴンイエーガーズの所か……?」
「‼」
推測の域でしかないその予想は、彼女の体を反射するように震わせた。意外にも的中してしまったのだが、これには的確な根拠が隠されていた。
「図星か……。これだけのものを用意できるのがガルヴァス以外なら、当然あそこしかないだろ? プロフェッサー・ラヴェリア」
プロフェッサー・ラヴェリア。黒宮の言う通り、彼女はレイヴンイエーガーズに関わる人間である。しかし、それ以上のことまでは気づかれなかったようだ。
「……それ以上の詮索はしない方がいいわよ。まだ死にたくないでしょ?」
「ならさっさと行け。仲間が待ってるんだろ?」
確信を深めた黒宮はラヴェリアに仲間の元に向かうように促す。彼女が立ち去るとすぐに彼もその意思に従うようにその場を後にした。
(プロフェッサー・ラヴェリア……まさかな……)
格納庫から遠ざかる黒宮は彼女の名前に、どこか気聞き覚えがあった。しかし、それを気のせいだと切って捨てた。
そして格納庫に残されたのは、言葉すら出さない、ただ立っているだけで未だに眠りについている複数の巨人達だけであった。
新たなシュナイダーも出ていますが、活躍するのはまだこの先です。楽しみにしてください。




