義勇軍
新たなシュナイダーが出てきます。
アジア連邦に建造されたガルヴァス軍の軍事基地。
その内部にある一角に位置し、周囲をモニターで確認できるブリッジにてレーダー担当を務めるオペレーターは、注視していたレーダーに北上から四つの反応が入ったのを知るとすぐにその上司である基地長へ報告を行なった。
「レーダーに反応! 識別は不明ですが、おそらくレイヴンイエーガーズかと!」
「! よし、今すぐ迎撃の準備を!」
ルーヴェ達が来るのを待っていた基地長は基地の演習場で現在行っている軍事演習を中止し、アルティメスの迎撃の指示を入れようとしたその時、それを阻む通信がブリッジへ繋がった。基地長の目の前にあるスクリーンに、その通信を繋げたとされる相手の顔が映し出される。
『基地長。聞こえるか』
「! あなたは……ヴェルジュ皇女殿下!」
その相手こそ彼らが仕える皇族の一人であるヴェルジュであった。思いがけない相手に基地長は呆気にとられると共に、後ずさってしまう。
「我々も、その迎撃に加えさせてもらうぞ。奴らの実力を少し見ておきたくてな」
「で、ですが、殿下にお手を煩わせるようなことを……」
彼女は自分に付き従う義勇軍と共に、今配置されている戦列に加わると通信を入れてきたのだ。しかし、基地長はその指示に従うことができないと恐れを抱きながら意見を述べる。
そもそもガルヴァス帝国は血統を重んじる貴族制度を導入しているため、序列が存在する。
序列は主に皇族、貴族、平民の順序で構成されており、帝国を治める皇帝はもちろんのこと、その血を受け継ぐ皇族を帝国の人間は付き従っているのだ。これは軍に所属している時も変わらない。
基本的に一般の兵士が貴族や皇族の指示を断るなどできず、彼らを束ねる立場にいる基地長も同じなのだが、あくまでそれを聞き入れたり、意見を伝えるなど最小限の対応をするだけである。
もちろん皇族に逆らっているわけではなく、もしも逆らうとなれば、もはや帝国への反逆行為となり、処罰されることもある。それだけの相手であり、敵に回すなど以ての外なのだ。
「異論は聞かん。これは命令だ!!」
「イ……イエス ハイネス!」
ヴェルジュは聞き入れることもせず、ただ目の前のことしか考えていなかった。言外に、お前達は役立たずだ!と伝えるようなものである。基地長もその意味を理解し、逆らうわけにはいかないとひとまず聞き入れた。彼だって死にたくないが、それ以上に部下が死ぬことも嫌なのだ。
立場が下の者は、それより上の立場にいる者のワガママを聞き続けるようなものであり、ヴェルジュとの通信が切れたことを知ると基地長は、外で吹き荒れていた嵐が遠ざかったのかと思わず深い息を吐いたのは言うまでもなかった。
「まったく……殿下のワガママは……」
「今に始まったことではないぞ……」
「聞こえているぞ」
「「……申し訳ありません」」
ヴェルジュは自分に仕える騎士であるヴェリオットとグランディの二人を従えて格納庫へと足を踏み入れていた。その途中にはディルオスとは異なる色と姿を持つシュナイダーが立ち並んでいた。それは彼女と共に戦う、巨大なる強き騎士達――すなわち義勇軍である。
その騎士達の中でただ一人、いや一体だけそれとは異なるのがいた。その騎士は同じ騎士達の中でも特別な存在であり、騎士を統べる王に相応しい。その王は他の騎士とは異なる姿を持ち、その存在を一際目立たせる。その異形の王にヴェルジュが近づく。
「コイツの出番が早くも来るとはな……フッ、運命というべきか」
「我々も先に準備を進めます。準備が整ったら号令を」
「ああ。では行くぞ!」
「「イエス ハイネス!」」
ヴェルジュは真っ先に異形の王に乗り込み、ヴェリオットとグランディもシュナイダーに乗り込んだ。その後、彼女に仕える兵士達もシュナイダーに乗り込み、起動を開始した。そして、
「ヴェルトルーパー、出るぞ!」
異形の王は主である女傑と共に、自分達を困らせるカラス達が現れるであろう、その場所へ歩み始める。その手には唯一の武器である自身の大きさに近しい槍を持ち、それを携えたまま格納庫の外を出る。そして、同胞達がいる戦場へと大地を蹴り出した。
続けて彼女に仕える騎士達も歩みを進める。格納庫から出ると脚部から熱のようなものが噴射し始め、重力を無視するように滑走し始め、先に駆け出した騎士の後を追う。
異形の王を従える女傑と腐敗を喰らうカラス達との邂逅は、もうすぐ迫っていた。
「目標地点へと到着したわ。準備はいい? 三人共」
「もちろん」
「こちらも万端だ」
「いつでも行ける」
ルーヴェ達は日本を通り過ぎ、アジア連邦に入って、その中にある軍事基地が目の先にあることを視認するとそれぞれが別方向へと趣く。右側がトワイライト、左側がクロウ、中心がクリムゾンとヴェルデの布陣に展開したまま、三方向からの奇襲を行おうとしていた。
一方、地上ではガルヴァス軍の量産機であるディルオスが多数展開されており、迎撃の準備を整えている。ルーヴェ達が別方向に分かれても動じない。そして、アルティメスが一定の距離へ到達するとガルヴァス軍は攻撃を開始した。
銃弾の礫が四体のアルティメスに襲いかかるが、ルーヴェ達はそれを難なくと柳のように躱し、それぞれ自身が乗る機体の射撃武装で合間から反撃を開始する。
右側に展開するトワイライトはすぐに飛行形態を解除し、右手のゼクトロン・アサルトライフルで地上にいるディルオスのマシンガンを破壊する。その反対側にいるクロウもゼクトロンライフルでディルオスの頭部を破壊し、迎撃の手段を潰していく。
中央のクリムゾンは右腕にある四連装ビームガンで弾幕を張りつつ、地上への降下を始める。その後ろにいたヴェルデは空中に漂ったままゼクトロン・スナイパーライフルで敵機を貫きつつ、降下する茜を援護した。
茜はそのまま地上に降りるとクリムゾンの両腰にあるヒートソードを展開、そのままスラスターを噴射させ、敵機への攻撃を開始した。茜は機体を浮かしたままホバー移動を行い、ヒートソードで敵機を一撃で仕留めていく。
一方、ルーヴェ達は空中に漂ったまま茜の援護を行いつつ、敵の戦力を無力化する。そして、ディルオスの屍を築きながらその波を広げていった。
敵からすれば空中というアドバンテージを取られ、理不尽に踏み潰されていくように見えるだろう。今までは自分達が優位に立っていたにも関わらず、そう簡単には覆されることはないと思っていたのだが、かつて自分達が行っていた所業を、今度はその身で受ける羽目となっていた。
これらを目にして、彼らの頭には理不尽という言葉が過るのだが、人のことは言えない。彼らはこの戦力差、いや性能差で覆されている以上、撤退することしか手は残されていなかった。その本能に従ったまま実行しようとしたその時、彼らに一つの希望と言うに相応しい通信が届く。彼らは聞かされたその内容に反対することもせず、ただ頷くしかなかった。
茜がディルオス相手に無双していた時、ルーヴェは地上にいるディルオスが一斉に後退し始めるのを目にした。同じくそれを見ていた茜もスピードを落とし、足を地面につける。彼らの突然の行動にルーヴェ達は疑問符だけが頭に浮かび上がった。
「アイツ等、怖気ついたのかしら。……いや」
「ああ。これからが」
「本番って所か……!」
茜、アレン、リンドが三者三様に言葉をつなぐ。嵐の前の静けさにも近しい気配に四人は気を引き締め、集中力を高めていく。リンドの言う通り、これからが本番である。それは現在の戦闘状況を確認していたハルディも同じである。
そして、その嵐がやってきた。砂埃を巻き上げながら多数の人影が近づいてきた。その姿はおそらくシュナイダーであることは間違いない。レーダーの反応も裏付けている。
その中心にいたのは彼らも見たことのない異形の騎士、ヴェルトルーパーだ。その後ろには先頭に遅れまいと付き従っている騎士も多数いる。だが、いやでも彼らの目に引くのはその異形の騎士。それは両足を動かし、音を立てながら疾走してくること、そして、下半身が一部の動物と同じ四脚であることだ。
「な……何あれ!? 四本足って……!?」
「あんなのあったんすか? 帝国に……!」
「「…………!!」」
その異形に四人は思わず驚きを隠せなかった。後部に伸びる四本足というのがいやでも目に引いてしまう。もちろん味方でもそれに驚愕するのは間違いないだろう。
上半身が人、下半身が馬という人馬――伝承に出てくるケンタウロスが現実に顕現されたと錯覚してしまう。上半身は身を守るような鎧をまとい、臀部に尻尾という造形も見事に再現されていて、ルーヴェ達は何一つ言葉が出てこなかった。
ヴァルトルーパーが纏う赤紫の鎧はそれに乗り込む主が好む色であり、まるで返り血を浴びたままのような恐ろしさを醸し出していた。また、兜から伸びる一本角と目の位置にある二つの黄色の瞳は、真っ先に目立つような外観であり、開発者の趣味もにじみ出ていた。
歴史でも騎士が馬に乗って戦場を駆け抜けることは珍しくない。また、この方が援軍に駆けつける時や伝令を届ける時の移動役として使えるからだ。だが今はそんな時代ではなく、馬など役に立たない。その古い時代を逆行するような造りは実に野心的だ。
『GSV-02 VALTROOPER』――ヴィルギルトと同時期に開発されたこの機体は、地上での戦闘を重点に置いた設計がなされている。その設計とは当然、下半身が四本足であることであり、それに携わったのがキール・アスガータだ。
ディルオスよりも高性能であることを実現させるために、あえて下半身を四脚の馬のようなものにした実験機がこの機体の実情である。ただそれを可能にするためにギャリアエンジンを胸部、および臀部に二基載せることが必要であり、多大な欠陥を持っている。
その分、強大なパワーを有し、四本足を動かすことで高い機動力を獲得することができたのだが、操作性にも問題があり、適性というよりも実力の高いアドヴェンダーしか動かすことができないのだ。文字通り、ジャジャ馬である。
キールもさすがに失敗作と断じていたのだが、それを見かけたとある人物が気に入ったらしく、彼女は操縦したところ見事に操ってみせたのだ。キールも驚き、これをその人物に預けることになったのだ。
しかし、これを披露する機会が現れず、このまま御蔵入りするかと思われたがそのジャジャ馬が思う存分暴れる機会が訪れ、今ここに至ったのである。
そのじゃじゃ馬を操る主は、コクピット内のモニターに映るアルティメスを視認するとレバーを動かし、疾走を続けていた四本足を緩め、徐々に止めていく。後ろについていた赤紫の装甲をまとうシュナイダーも隣に立つように近づき、足を地面に下ろした。
そのシュナイダーは先程まで相手をしていたディルオスとは明らかに違っていた。
身にまとう装甲の形状はディルオスよりも太く、頑丈なまでのマッシブな体型だ。それだけだけじゃない。頭部のメインカメラはディルオスと同じ赤目だが、頭部を形成する兜が異なっている。
ディルオスが訓練を受けた平民の兵士なら、そのシュナイダーはそれよりも位の高い騎士と言った所か。そのこだわりが随所見られ、それらが並ぶ姿はまさに圧倒そのものである。
『この地を荒らすカラス達よ! 我は、ガルヴァス帝国第二皇女、ヴェルジュ・クルディア・ガルヴァス! 貴様らの蛮行、ここで食い止めてもらう!』
赤紫のシュナイダー達の中心に立つヴァルトルーパーから直接、女の声が戦場に響いた。オープンチャンネルで外に聞こえるようにしているのだろう。これは警告であることを示すため、槍を持っている右手を高々に掲げた。
その警告をバッチリと耳に聞こえていた茜は、あの四本足のシュナイダーに乗っているのが誰なのか、すぐに察し、眉を吊り上げていく。
「「ヴェルジュ・クルディア・ガルヴァス……」」
それはハルディも同じだった。茜の瞳には激情という名の炎が灯っていたが、ハルディの瞳には反対に、深海のような暗闇が浮かび上がっていた。モニターに映るヴァルトルーパーを見て、乗っているのがかつての友であることを知ったのだ。
ヴェルジュが義勇軍と専用のシュナイダーを保有していることは既に掴んでいたのだが、まさかあんな奇怪なモノに乗り込んでくることまでは知らなかったようだ。ハルディは思わず呆れてしまう。
もちろん目の前にある現実に対してのことだろうが、あのシュナイダーに乗っていることではなく、彼女と敵対することが一番の理由だ。
ハルディは右の拳を強く握り締め、表情を凍貼らせていく。それは覚悟の表情であり、瞳には深い闇から輝きの光へと変わる。そして、戦場で同じくヴァルトルーパーを凝視する四人に指示を伝えた。
「皆、相手はこれまでとは違うことは作戦前に伝えてたけど……殺すつもりで行きなさい。じゃないと先に墜とされるわよ。いい?」
「「「「了解!」」」」
いつもより鋭さを持った指示に命じられた四人も、映像の先にいるハルディの意志を肌で感じたのかそれぞれ覚悟を決め、高い集中力を維持する。それは抗戦の姿勢であり、後を退くなど出来るはずがなかった。
「どうやら退くつもりはありませんね」
「まさにカラスというわけか」
「フッ……そうでなければ意味がない。思う存分、コイツの力を見せてくれる!」
ルーヴェ達の強い意志は相対しているヴェルジュ達にも伝わっていた。ヴェルジュは目の前の敵に実力を思い知らせるかのように息巻き、ヴェリオット達も自身が操縦するシュナイダーの武装を展開、即座に戦闘態勢に入る。
両者は態勢を整えた状態で一泊置いた後、
『かかれぇえええーーーー!!』
ヴェルジュの掛け声と共に、打ち合わせのないまま合図を合わせたように両者は一斉に前へ飛び出した。
その時、誰もが思った。"本当の"開戦の始まりだ、と。
次の話に続く展開となりましたが、激しい描写として描きたいと思います。
活動報告にありますが、パソコンを変えたおかげで復帰することができました。




