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レイヴンイエーガーズ 漆黒の反逆者  作者: 北畑 一矢
第2章 動き出す者達
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帰らずの海

新たなる展開が始まります。

 とある曇りの空、辺り一面の海上に風景を覆い尽くさんとする程の大量の霧が充満していた。島の形すら見えない程の濃さを持ち、空を羽ばたく鳥でもうっかり迷ってしまったら二度と帰ることすら困難にも思え、突き進もうとする者を阻ませていた。

 仮に霧の中に引きずり込まれても助けを求める者はどこにもいないどころか、まず見つけることはない。ただ命が削られていくだけである。いつしかそこは"帰らずの海"と呼ばれるようになった。

 ただ、その霧は何かを隠すにもちょうど良く、まるでそこに見られたくないものがあることを示唆できる。噂ではその中心に島が存在するとも言われており、異様な雰囲気を常にまとっていた。

 そこに低い音を立てながら二匹もの鳥がやってきた。その二匹のうち一匹は黒い鳥、もう一匹は赤い鳥であった。その二匹の鳥は深い霧を見ると迷いや躊躇いすら見せずに中へと突入する。傍から見れば自殺行為にも等しい行動ではあるが、なぜなら彼らにとってそこは"巣"同然であったのだ。

 もっとも、その鳥達は鳥ではない。鳥ならば鳴き声を出すし、バサッと翼を動かすこともある。しかし、その鳥モドキは鳴き声ではなく、どこか機械的な音を出すし、翼もピクリとも動かしていないのだ。それだけでも鳥ではないと判断できるだろう。

 確実に判断できるとしたら、姿であろう。遠くから見ても鳥に見えなくはない。仮に近くから見ればそれは、鳥ではなく人。それも大きい人。人間から言わせればそれは巨人である。しかも翼を生やした巨人。

 人間が進化したものか、鳥が進化したものかは知らない。だが間近で見た場合は、その可能性は真っ先に否定される。なぜならば生命を持った存在ではなく、人の手で造られし存在であるのだから。

 巨人達はなぜこの"帰らずの海"にやってくるのか?その秘密は巨人達とその海の向こう側に存在する何かにあるのは間違いないだろう。

 その巨人――アルティメス・クロウとアルティメス・クリムゾンが阻むものがない霧の中を進んでいく。彼らの目先にはある断崖絶壁が見えた。その絶壁はアルティメスをも凌ぐほどの面積を持っており、行く手を阻むかのように立ち塞がっていた。ここで行き止まりかと思われた。しかし、

「クロウおよびクリムゾンの存在を確認。ゲートを解放します」

 その状況を確認していたのは男性オペレーターであるカイネ・ケイティと同じく女性オペレーターであるエリカ・ラブレッサが二機を通すためのプログラムをキーボードで打ち込んでいく。その後ろにいたハルディ・アクティーンがニヤリと笑う。

 するとその絶壁に変化が起きる。それは岩肌の一部が、クロウすら素通りできるほどの長方形にも似た大きさでせり出し、上部へと展開されると目の前には奥行きを感じさせる道が現れた。

「ゲート開放を確認。そのまま通ってきてください」

『『了解』』

 エリカの応答にルーヴェ・アッシュと龍堂茜が返事する。その行く先が何につながっているかは理解できない。もしこれを初めて見た者には驚きが隠せないことは容易に想像できる。まるで入って来いと誘いにも似た意図を感じさせるような造りではあるが、二人にとっては当然のことであった。

 クロウ達が岩肌の先を通り、ヘリポートにも似た足場に立つといきなりガコンッ、と足場が動き出す。クリムゾンも同様に足場に立つとクロウの後を追うように動き出し、せり出していた岩肌が元の場所に戻り、何事もなかったように断崖絶壁となっていった。まさか絶壁にこんな機能が隠されていたとは夢にも思わなかったのだろう。

 クロウとクリムゾンを乗せた足場はカタパルトにも似た構造となっており、しばらく進むとその左脇に作業服を着た男が両腕に持っている赤い警棒を振っていた。年齢はおそらくルーヴェよりも年上にも見える。さらに安全のためのヘルメットを被っており、右手で回し、左手で先を促している。しかも「オーライ、オーライ」と叫びながら危険を呼びかけていた。

 よく見ると男の先にもまた同じ格好をした男がおり、同様に安全の確認をしていた。それを見てルーヴェ達は右手の指先を右のこめかみに添えるように敬礼する。その仕事ぶりに感心したといってもいい。

 ようやく足場が止まると今度はクロウが足を動かした。その先には大きな扉のようなものが立ちはだかっていた。クロウが近づくと扉が左右に開き、そのまま進むとそこは巨大な機械が並ぶ空間が広がっていた。単純に言えば、絶壁に隠されたカタパルトは広い空間――格納庫につながっていたのだ。

 その右脇にアルティメス・トワイライトとアルティメス・ヴェルデが直立していた。おそらくそれらに乗っていた二人も先に戻っていたであろう。ルーヴェ達も左脇にある機械が置かれてある一画に足を進め、トワイライトに向かい合う形で足を止めた。

 クリムゾンもクロウの左隣――ヴェルデに向かい合うように立ち止まる。彼らが今いる島――そこはレイヴンイエーガーズが保有する本拠地であった。

 そして、二機を囲むように作業着を着た男女がダダダダッと駆けつける。その近くには高い場所でも作業が行える高所作業車が置かれていた。

 クロウの胸部にあるコクピットがハッチが開き、そこから機体と同じ色のパイロットスーツを着たルーヴェが出てきた。さらに胸部から射出された補助昇降設備であるワイヤーに手と足をかけつつ袋を持ったまま降りてきて、地面に足をつける。

 すると黒い制服をまとった十数名の男女――メカの整備を担当する整備班を務める作業員が声をかけてきた。当然、その制服にはハルディ達と同様に水色と桃色のラインが通っている。彼らもその《同胞》であることが伺えるが、ただ違和感があった。

 それは彼らの年齢がなぜかバラバラであり、そこにはルーヴェと年が変わらない者もいくつかいた。

「お疲れさん!」

「見たぜ、アレ!」

「カッコよかったです!」

 クロウと年齢が変わらない少年達が何やら興奮して話をかけてくる様子にルーヴェは無表情ながらも心底「面倒だな……」と思っていた。実際、クリムゾンから降りていた茜も同様に声をかけられている。おそらく、リンドとアレンも同様だったかもしれない。しかし、その空気を一変させる存在が声を散らす。

「ハイ、ハイ、そこまで!!」

「「「「「「!!」」」」」」

「ここからは俺達メカニックの仕事だ! トワイライトとヴェルデの作業が終わったからって、いつまでも浮かれてるんじゃない! お前ら、気合入れ直せ!」

「「「「「「ハイ!!」」」」」」

 とても甲高い声が格納庫内に響き、ヒートアップする作業員達はハッと我に返り、声が響いた先へと視線を変えた。そこには額にゴーグルをかけた中年の男が軍手をつけたままの手を叩きながら作業員達を静止した。

作業員達もすぐにビシッと姿勢を正し、整備の準備に取り掛かった。

 作業員達を黙らせた張本人、その男の名は車田くるまだ武男たけお

 なかなか渋い声の持ち主であり、それだけでも威厳のある風格を醸し出していた。日本人らしい無骨な面構えと顔の濃さもあって、見た目でも作業員達のトップと言っても過言ではない。制服も腕まくりをしており、左腕には青いバンダナのようなものを巻いていた。もちろん、この男は実際にアルティメスの整備長を務めていた。

 その車田がルーヴェ達に近寄りつつ声をかけてきた。

「お前さん達、そろそろ着替えて来い。ボスがお待ちかねだぞ。この場は俺達に任せてくれ」

「分かりました」

「じゃ、行くわよ」

 ルーヴェと茜は車田に感謝の言葉をかけて、そのまま格納庫を後にした。

「感謝は好きじゃねえだがな……。さてと、やるか!」

 若干、車田は照れていた。そして、額にあるゴーグルを目の位置に動かし、目の前にいる作業員達と共に自分の仕事に取り掛かった。



 ルーヴェと茜はそれぞれ男女に分かれた着替え室に入り、ロッカーに置いてある自身の制服を身に通す。彼らが着る制服もここにいる者達と同じ制服ではあるものの、異なる点が一つだけあった。それは制服に刻まれたラインの色である。

 ルーヴェは黒の生地に灰色のライン、茜は赤のラインが刻まれていた。これは彼らが乗る機体、そしてコクピットに乗り込む時に身にまとっているパイロットスーツと同じ色である。これは専用機を持つ者だけに許された特権であった。

 ただ、ルーヴェだけ灰色なのは単純に言えば、元々レイヴンイエーガーズに採用されている色は黒であり、クロウも同じ黒のカラーリングであるため、どうしても被ってしまうのだ。これを差別するためルーヴェだけ灰色が採用されたのが主な理由である。

 上下の服が黒一色の時点で明らかにカラスの色を誇張しているのが分かる。それは自分達が"カラス"であることを意識しているのだ。なぜそこまで拘るのかというと、彼らの体にある"共通点"が存在し、なおかつ宣言にもあったように"世界から弾かれた"という言葉にも関わっている。ただ、それらを知るのはまた別の話となる。



 ルーヴェと茜は着替え室を後にし、ある部屋へと移動を進める。横に並んだ状態でカツカツと歩き、白っぽい空間に包まれた廊下を歩いていく。右側に一つだけ異なる一画を目にするとそれはルーヴェ達の身長を軽く越す二枚の長方形が並んでいた。

 二人はその前に立つと二枚の長方形は左右に開かれる。これは自動ドアであり、その先には空間が広がっていることは明らかであった。

 二人がその空間に入るとその左横に先に着いていたリンドとアレンがいた。リンドは二人を迎えるように笑顔のまま左手を振っており、アレンは腕組みをしている。二人もレイヴンイエーガーズの制服をまとっていて、制服にはそれぞれ黄色と緑のラインが刻まれていた。当然彼らが乗る機体の色だ。

 その二人から少し離れた場所に立つ者が一人。ルーヴェ達と同じ制服を身にまとっているが一つだけ違うのは白のラインが刻まれていることと、帽子を被っていることである。その正体は彼らの頭領ボスと呼べる存在――ハルディ・アクティーンであった。彼女の背後には巨大なスクリーンパネルがある。

「全員、揃ったわね。じゃあ、状況を整理しましょうか」

 ハルディが足を進めるとそれに応じてルーヴェを含めた四人も歩みを進める。そして、円の形となって足を止めた。

「私達が動き出したことでガルヴァス帝国も何かしらの行動も起きているはずよ。なにか報告は?」

「先の軍事基地を襲撃した時に白いシュナイダーを確認した。おそらく、皇帝騎士に配属された騎士の可能性がある」

「ホント? それ」

「間違いないわ、私も見た。それに載っていたシュナイダーは明らかに他とは違うもの」

「…………」

 先にルーヴェが"白いシュナイダー"、――ヴィルギルトのことを報告する。リンドが疑問を抱くが、茜がフォローする。アレンは無言のままだ。

「あなた達が言っていた騎士についてはすぐに調べがつくわ。あなた達も釘を打たれることは間違いないはずよ」

「了解っす。……そうそう、負けるわけにはいかないすけど」

「当たり前だ。でなければ俺達が出てきた意味がない。それに皇帝騎士だけではないはずだが……どうなんだ?」

「ええ。皇女殿下も動き出しているって噂よ……。おそらく、見たことがないシュナイダーを抱えているはず……」

「皇女殿下って……まさか!?」

 ハルディは右手を自身の顎につけたまま考えている様子でリンドとアレンに警戒の言葉をかける。リンドは何とも気の抜ける言葉を口にするが、続く言葉には打って変わって真剣な表情をとる。ハルディの言葉には捨て置けない様子だ。そこにアレンもまだ何かいることをハルディに問い正す。

 ハルディがある懸念を口にする中、茜が"皇女殿下"という言葉の意味を思い出す。それを感じ取ったハルディはその言葉の意味を解いた。

「ヴェルジュ・クルディア・ガルヴァス――ガルヴァス帝国第一皇女殿下。アジア連邦を支配する女傑。それが今動き出すってことは……」

「戦いが厳しくなるってことか……」

 ハルディの言葉にアレンが続けた。第二皇女の存在は、ルーヴェ達にとっても看破できない問題らしく、重々しい空気となる。だが、不敵な笑みと共に不気味な声が空間内に響く。

「フフフッ……。望むところじゃない。相手が雑魚じゃ意味ないしね……」

「何度も言うが、遊びじゃないぞ。俺達がやっているのは……」

「ゴミ掃除、でしょ? もっともゴミを散らしているのはあちらだしね……。それに、このままやられるわけがないとも思っていたし……」

「ならいい……」

 茜の不遜極まりない言葉にアレンは辟易とする。アレンはなかなか苦労を重ねていることがよくわかる。アレンが不満そうな顔をする中、リンドは「ヤレヤレ」と心の中でため息をつく。両手も掌が天井へ向けたまま。ルーヴェは不思議そうな表情のまま、出来事を見つめている。

「ここからの作戦なんだけど……言いたいことは?」

「「ない」」「ないわ」「ないよ」

 四人は声を揃える。それを聞いたハルディは背後にあるスクリーンパネルを動かし、世界の情勢を知ることが出来る地図が表示された。そして、これからについて言葉をかける。

「これからは一人での作戦は厳しいものになるわ。最低でも二人での作戦に務めてちょうだい。もちろん作戦はこちらから伝えることは変わらないわ――以上、と言いたいけど異論は?」

「ない」「ないよ」「……ない」「…………」

「? どうしたの、ルーヴェ?」

 ルーヴェが反応ないことにハルディは首をかしげる。答えた三人もルーヴェに顔を向けた。

「……もしも何ですけど失敗した場合や、捕まった場合はどうするんですか?」

「それは……その時しかないわ」

「ちょっと答えになってないよ」

「失敗した時は、また改めてっていうことでいいんだし……もし捕まった場合は、助け出せばいいんだって、な?」

「……はい」

 ルーヴェの予想外の質問にハルディも口篭ってしまう。茜は注意し、リンドはルーヴェを心配させないように声をかけた。ルーヴェも納得したようだ。そして、五人による会議はここで終わった。


今回の話はレイヴンイエーガーズの拠点について描きました。あの島はなぜここにあるのか?という点は後々明らかにします。

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