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レイヴンイエーガーズ 漆黒の反逆者  作者: 北畑 一矢
第1章 羽ばたく鴉
19/41

変化

宣戦布告があった後の数少ない日常と、主役を担当する四人の心情を描きました。それぞれの戦う理由など述べることもできて嬉しいです。ポロッと重要なことも描きましたが、この先どう影響するのか見物ということで楽しみにしてください。

 世界へ宣戦布告が行われていた頃、一人の青年が黄色のスーツを着たまま、山奥で見かける、いくつもの石が撒かれてできた浜に放置された大きな岩に腰をかけつつ、左手に持つ携帯の液晶画面から宣戦布告が行われている番組を見ていた。青年の表情はやけに嬉しそうで画面を見つめている。

「ようやく始まったか……」

 青年の名はリンド・トゥーガルア。先程までEU軍とガルヴァス軍の戦闘に参加していたアルティメス・トワイライトのアドヴェンダーである。彼の左斜めから少し離れている場所には彼が搭乗していたトワイライトが右膝をついていた。コクピットが収められている胸部にはカバーが開いており、その先端からは鋼鉄製のロープが垂れ下がっている。

 今彼らがいる場所は先ほどの戦闘が行われた地点から大きく離れている山奥であり、その近くには川が流れている。その周辺には大きな木々で囲まれているため、見つかることはまずない。絶好の隠れ家である。

「これから忙しくなるね。トワイライト」

 リンドはトワイライトがいる方向へ顔を向け、改めて喜びに溢れた表情をする。彼の瞳には野望にも似た決意を宿していた。



 一方、ガルヴァス軍との戦闘を終えていたアレンは、日が沈んで黒に染まった空間の中、ヴェルデの左肩の上で腰をかけながら顔を上にあげ、夜空を見ていた。その夜空にはいくつもの星が小さく光っており、美しく見えなくもないだろう。ただ、彼の顔つきは未だに険しいものであった。

「…………」

 彼は戦闘を終わらせた後、廃棄された軍事基地にそのまま残っていた。その周辺には未だにディルオスの残骸が多く取り残されている。

 彼が未だ基地に残り続けているのは、不用意に動き回るのは得策ではないというアレン独自の理論であった。確かに、占領された基地をまた奪い返すためにガルヴァス軍が確かめに来ることもあるのだが、その戦力を作るためにはどうしても時間が必要となる。そうなると、このまま残ることも選択の内であり、ほんの少しだが、隠れ家としても利用できるため彼の判断はどこか理がかなっていた。それは彼の経験によるものであり、直感に委ねた結果というものだろうが、その直感が功を奏した。

「もう既に始まっている頃だな……」

 アレンは夜空に向かって呟く。彼は今、テレビやラジオからニュースを見ておらず、夜空の星を見ることに耽っている。なぜなら、テレビは既に全世界への宣戦布告がなされている頃であることを分かりきっていたからだ。

 基地の右方向からヒューッ、と優しい風が吹き、アレンの髪をその反対側になびかせる。アレンはそれに構わず、未だに夜空を見続けている。その表情には、なにか思うことがあるかのように。でもそれは後悔していないという一種の逃避かもしれない。



 夕陽に染まる中、未だにアジア連邦の中央から離れた場所には自然の名残と呼べる山脈がある。そこに隠れていた龍堂 茜はアルティメス・クリムゾンと共にアジア連邦に留まっていた。茜はリンドと同様に赤のスーツを着たまま、クリムゾンのコクピットの中でモニターの中央に映るニュースを見ていた。その映像にはある組織のトレードマークが映っていたのだ。

「これで後戻りはできない……」

 茜は思いつめた表情で映像を見ていた。まるで犯罪の計画を立案した、まだ犯罪者になる前の人間のような表情である。だが彼女の言うとおり、後戻りはできない。それは彼女の決意、覚悟を示している。ここで手を抜いては今までの決意が揺らいでしまう。そんな意思がヒシヒシと伝わっているのが分かる。

「……パパ、あなたの娘はこれより普通ではない修羅の道を進むよ。例え、これが許されないことなのはわかっているけど――止まることは、できないから……!」

 それは自身への懺悔なのか、愛する父への許しなのか――彼女の今の胸中は未だに深い闇の底であった。



 日が落ち、夜という黒が静寂と共に支配する中、日本のある地区にガルヴァス軍の軍事基地が存在している。いや、軍事基地だった建物の中に人影があった。それは人ではなく機械でできた巨人であった。巨人の名はアルティメス・クロウ。世界で一番最初に出現したアルティメスである。そのアルティメス・クロウは今、人形のように直立不動の態勢を取っていた。もちろん微動だにしない。

 なぜこんなものがここにいるのかと言うと、最初はケヴィルの報告通り、基地が白旗を掲げた後、撤退していった。

 しかし、時間が経った後にまた戻ってきたのだ。そこに所属していた士官らは既に脱出していたらしく、基地は資材をいくつかを残したまま、もぬけの殻となっていた。なので、当分の隠れ家にもちょうどいいと思ったのだ。単純に言えば、アレンと同じ判断を下すことになったが、偶然のものなのかはクロウに乗る本人もよく分かっていない。

 そこに一人の少年がクロウに近づく。その少年はクロウのアドヴェンダーであるルーヴェ・アッシュ。彼は今、格納庫の中から出てきた。その理由はまだ使える資材がないか生身で探していたのだが、どうやら収穫がなかったようで手ぶらでできたのだ。左手に持つ携帯を除いて。

「…………」

 ルーヴェは今一度、左手にある携帯を顔を前に持って行き、携帯の画面を見やる。その画面にはとあるマークが映っている。それはある組織の宣戦布告によって映し出された画像であった。宣戦布告が終わったにも関わらず、未だに流している番組があるようだ。ルーヴェは携帯の画面から目を離し、下からクロウの横顔を見る。

「……きっと、僕の"記憶"も……!」

 ルーヴェは無垢なる瞳と共に改めて決意を固める。そこに不自然の言葉を放ちながら。

 その言葉は彼自身を表していた。そう、彼は今までの記憶を無くしていたのだ。自身の記憶も、感情も、全てを無くして……。彼の今までの言動も、感情も、そこから要因していたのだ。

 だからこそ彼は全てを取り戻すために、戦うことを決意したのだと――。



「これでようやく始まったわ」

「ですね」

 ハルディ・アクティーンがいる場所は、もちろんオペレーターが集まる空間である。彼女たちが今、視線を集中させていたのはその先にある大きなパネルに映るカラスのマークだった。それはハルディが着ている制服の真後ろにある刻印そのものであった。もちろん、オペレーター達が来ている制服にも同じ刻印がある。もっとも背もたれで見えはしないが。

「これで……報われますね」

「まだよ」

「え?」

 ハルディの右隣にいるオペレーター、笹波双葉は明るい声を漏らす。彼女はルーヴェとの通信を行っていたオペレーターだ。その声に反応したのか、ハルディは厳しい声をかけ、双葉は思わずキョトンとしてしまう。

「言ったでしょ、始まったばかりって」

「す、すみません!」

「その気持ちは分かるけど、まだとっといて欲しいの」

「「「「「「…………」」」」」」

 ハルディは双葉の気持ちが早っていることを指摘し、彼女も思わず謝罪する。その後、優しい視線を向け、双葉を宥めながらお願いする。それは自分もその気持ちであるからだろう。その言葉に、周囲にいるオペレーター、エリカ・ラブレッサ、リュン道扇タオファン、カイネ・ケイティ、グレイ・ギルシィル、クラネット・アイルズの五人も、いつの間にかハルディの言葉に耳を傾けていた。

「だからこそ、我々の力を示さなければならないのよ。もう二度と、悲劇を繰り返さないために!」

「「「「「「はい!」」」」」」

 ハルディが力強い言葉をオペレーター達にかけるとオペレーター達も気持ちを引き締めるように力強い返事で返した。彼らの心はただ一つ。

(もう二度と私たちのようなものが――"生け贄"にされる前に!)

 それは何の意味をするだろうか。それは彼らの中にあった――――。



 全世界に向けて発信された、あの"宣戦布告"から明けた日。

 街中はいつも通りに活気づいていたのだが、どこか雰囲気がやけに熱を帯びていた。それもその筈、あの宣戦布告は世界中の人々の心に衝撃をもたらした。それはテレビを見ていた若者を始め、家事を担当する主婦に仕事帰りで電車に乗り込むサラリーマンなどが、あの宣言を烏のマークを凝視しながら聞いていたため、興奮が冷めることはなかった。

 宣言が終わり、それを間近で聞いていたアナウンサーも、怪訝そうな表情で隣にいたもう一人のアナウンサーと協議していた。その討論は長く続き、市民が寝静まっているにも関わらず、それを邪魔するかのように夜中でも声が響くことは少なくなかった。

 その街中から離れた場所にある一月ひとつき学園でも一段と騒ぎが溢れていた。その内容はもちろん、レイヴンイエーガーズの台頭である。いきなり何を言っているんだという印象を持っていたのだが、聞いていくと事実を突きつけられているように言われ、心にダメージを負った生徒もいたようだ。

 確かに彼らの言い分も間違っていない。だが、自分たちも痛みを伴ってきたのだ。他者に痛みを与えるのは間違っていると言われてもどうすることもできないのだ、と言いたげな雰囲気であった。ただ、一つ気になっていることがある。それは自分たちが"カラス"として生まれ変わったという発言だ。

 カラスとは出されたゴミを荒らしたり、犬のエサを横取りする、といったイタズラ好きな印象を持つ。また、ときどき自分たちを凝視したり、フンをその場で落としたりと人間に不幸を与えてくることも、たまに聞いている。そんな嫌われ者な印象を、なぜ名乗る必要があるのか? と学生らは口に出すことはないのだが、心の中では今すぐでも聞きたい! と言いたげであった。

 学園の教室の一角にある、いつも通りのクラスの教室のドアが自然と開かれ、複数の女子生徒が顔を音がする方向へ向ける。そこに、この学園に通う少女ことエルマが入ってきた。

「おはようー」

「「「あっ、おはようー」」」

 エルマが流すかのように挨拶した後、三人の声も流して周りへ響く。その表情は快活である。

 エルマは自分が座る机がある場所へ赴き、そのまま机と一緒にある椅子へ腰をかけると三人の女子学生がわらわらとエルマの席まで行き、彼女を囲むように集まる。

「聞いた? アレ」

「アレって?」

「あの宣言よ!」

「ああ、アレね」

 エルマの視界を遮るように机の前に位置する女子学生らが彼女に質問攻めをする。正面にはイーリィ・パルシア、右側にはカーリャ・マルク、左側ではルル・ウィーダがエルマを凝視する。エルマも一瞬、何なのかと疑問を浮かべていたが、宣言という発言ですぐに解決した。

 アレとは、当然レイヴンイエーガーズのことだ。女子学生らはそれに夢中のようである。彼女たちだけでなく、周辺にいる学生達のほとんどが、昨日冷たい空気を流すことがあったが、そんなことなど忘れてしまったと言いたい程、その話題に持ちきりであった。

「本当なのかな? この世界を喰らうって」

「そんなの真に受けてどうするの? 神様じゃあるまいし」

「冗談に決まっているでしょ? このままじゃ、私たちが悪者じゃない」

 エルマの前で右側にいるイーリィからカーリャ、ルルの順に熱を上げるように議論する。そんな愚痴みたいな言葉を耳にしたくないと不満そうな表情をするエルマ。本当に耳を塞ぎたい気分であった。

「ちょっと待って。……なんか私、除け者にされてるんですけど」

「あっ……ゴメン、つい……」

「でも、あんなのを聞かされるとね……」

 エルマはヒートアップする三人に無視されていると感じ、待ったをかける。三人はそれに気づき、口を噤みつつ討論を中止した。イーリィは反省を表し、合掌のように手を合わせて謝っている。カーリャは不満の表れかと手を腰にかけて悪態をつく。そんな姿を見て、エルマは深くため息をついた。

「でも噂通りだったじゃない? あの画像は本物だった、っていう……」

「「「?」」」

 ルルは右手に自分のスマホを前に出し、画面に映る画像をエルマを含む三人に見せる。それは昨日、エルマに見せた黒い影の画像だ。三人は画面に近づくように顔を前に出す。

「でも本当かどうか、まだ分からないじゃない」

「はぁ~、相変わらず頭が固いねえ。エルマは」

「こればっかりはしょうがないよ」

「またあんたは……」

 画像を見て、未だに信じないエルマの物言いに、イーリィ達三人はそれぞれ呆れた様子を見せる。口から出た言葉は違っても、心の中では感情がシンクロしながらため息をついていた。

 科学部の実績でも、エルマは高い評価を常に出している。理系の分野が大得意なのだ。そのため、彼女の思考回路はどこか理論的であり、どこか極端であった。

 三人は彼女のことを元から知ってはいるのだが、改めて実感した。これはテコでも動かないと。

「とにかく、私は自分の目で見たものしか信じませんから!」

「「「はいはい」」」

「……今、笑ったでしょ」

 エルマは鉄のような意志を表すように三人に睨みつける。その表情はプンスカと表していて可愛いが。その三人は諦めた様子で、なぜか乾いた笑みを浮かべていた。エルマはそれを察知し、絶対零度に等しい瞳を浮かべながら釘を刺す。

 その言葉を聞いて三人は思わずビクッと反応し、体が冷えるのを感じているが額には汗が浮き出ている。そして三人は心の中でまたもやシンクロして、こう思った。

 ――――「なぜ分かるの?」と。

それは彼女達にとってほんの些細な、緩やかな日常の一部であった。



 その一方で、この騒ぎとは裏腹に冷静な感情を見せる二人の生徒が彼女たちとは違う教室の窓際にいた。日本人の赤峰 トーガと木原佳奈だ。

「…………」

「何か騒いでいるけど……」

「落ち着けって。俺達が相手する必要ないだろ」

「うん……」

 トーガは無表情かつ無言であるため、読み取れないが思考を巡っているらしい。佳奈は周りが騒いでいることに自覚してはいないが何やら挙動不審にもなっている。トーガはそれを指摘しつつ、佳奈を宥める。彼女もそれを了承する。

「ま、気持ちは分からんでもないしな……」

「もしかして、あの人達にも襲いかかるってことないよね……?」

「俺に聞くなよ」

「……ゴメン」

 トーガは自身の周囲にいる学生達の気持ちに対して少なくとも共感していた。ただ、佳奈は自分たちと協力関係にあるレジスタンスのメンバー全員の心配をしていた。トーガの返答は理解しがたいものであったが、自分でも答えづらいものだったらしく、その意図を察した佳奈は思わず謝罪してしまった。トーガも悪気は無いのだが、言いづらそうである。

 その間、エルマ達とは正反対に、何とも微妙な空気を醸し出してしまったのは言うまでもないようだ。


何だか、ロボット作品で見かける三人娘のようなものを出してしまいました。何だかテンプレみたいな感じですみません。

また来週には投稿させます。

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