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22/29

*入り組んだ道

肌色のでこぼこした床。同様の壁。

気味の悪い形のオブジェと、広い廊下の両脇に並べられた気味の悪い上木鉢。


悪趣味な館。用事がなければ絶対に入りたくない。

俺はその廊下を、案内をしてくれている使用人の背を追いながら歩いていく。


ミユちゃんはお留守番。こんな気味の悪い場所に、連れてくるわけがない。









入り組んだ廊下を右へ左へ曲がり、着いた所は見慣れた部屋。

用があるのは、その部屋で作業をしている茶髪の男性。



「初めまして。ギルドからの依頼で、人探しをしています。ユアンス・パスカルです。」


「あぁ、どうも。バナン・カリュウです。」



帽子を取り、ペコリと頭を下げる彼。



「早速なんですが、アシーリさんと言う方をご存じですか?」


「えぇと……。すいません、わからないです。」



彼は申し訳なさそうな表情になる。




「いえいえ。こちらこそすいません。カリュウさんという方を探しているのですが……人違いの様ですね。 では僕は、これで失礼します。お仕事の邪魔して申し訳ないですね。」


「今は割と暇な時間なので大丈夫ですよ。そちらも人探し、頑張ってくださいね。」



笑顔で僕を見送る彼。

僕は彼に背を向け、一つ目の課題が成功したことに安堵する。


ギルドの依頼など嘘っぱち。アシーリなんてのは、僕が適当に作った名前だ。

ただ、彼の行動時間を少し送らせるだけでいい。

それだけで、彼はこの件に干渉しなくなる。









館から出た俺は、その足でとある街道へと向かう。

そしてフラリと街道を逸れて森へと入った。


辿り着いた先は何の変哲もない1本の木。

そこに凭れ、待ち伏せる。



――何の変哲もない木。この表現は嘘になるかもしれない。

なぜならこの木は凭れた時、いい感じに体にフィットするのだ。

掛けている力は分散し、長時間凭れていても疲れない。


つまり、待つ時間が苦にならない!






穏やかに時間は流れ、遂に“その時”は来る。



荷馬車の行き交う街道。

そこへ一つの荷馬車が、緩やかに速度を落として止まった。


泣き叫ぶ少女の声と、怒鳴り散らす男の声。

しばらくして、荷馬車から人が転げ落ちてくる。


それはみすぼらしい格好の少女。

そして投げ出された少女はそのままに、荷馬車は去っていく。


捨てられた少女は、その場で踞り泣いている。



そこで俺の出番。



泣き止まない少女を回収し、最寄りの孤児院へと届けた。

たったそれだけ。



何せ、あのまま放っておくと彼女は死ぬ。

俺が先程の館で働く男“バナン・カリュウ”に会って仕込みをしなければ、この少女は彼が拾って育てただろう。しかし二人が出会い一緒に暮らす事は、俺にとって後に厄介の種となる。

それを妨害するのは、酷く当然の事。



小さな種は芽を吹き、やがては『災厄』という名の大きな花を咲かせる。

しかしそれは、数ある花の一つでしかない。

他にも沢山の『災厄』の花が咲き乱れる世の中。その全てを摘み取ることは、神でも不可能だろう。




しかし“あの花”だけは、何としてでも摘み取らねばならない。


――――それこそ、“どんな事をしてでも”。








蛇足だが、もし少女が孤児院で生きていようがここで魔物に食われて野垂れ死のうが、そこは俺に関係ない。



しかし一つ言えること。



彼女の人生で、最後の一つであったハズの『災厄の花』を俺は摘み取ってしまったということ。

この場合の『災厄』は、勿論“死”。


死を回避することは、良い事だろうか?



これから先彼女が生きている限り、沢山の『災厄の花(ふこう)』が彼女の為に咲き続けていくだろうに。

死を回避しなければ――俺が助けなければ、彼女にはこの先『災厄の花』は咲かない。








それでも、人生は『災厄(ふこう)』ばかりでは無いハズだから。


『幸せの花』も咲くハズなんだ。




だから、助けられるものは助けたい。


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