*慎重に繰り返す
相変わらずの部屋。
血に染まった家具や壁までそのままだ。
さすがに遺体は処分したようだけれど、防具や刀は前と同じく棚に綺麗に並べられたまま残っている。
後始末をしてくれた彼女には感謝しないといけないな。
長剣と短剣を手に取る。
防具は必要ない。愛剣だけ拝借する。
これがないと駄目なんだ。確実に失敗してしまう。
必要な物を手に入れた僕は空間を開くと、ミユちゃんのいる一時拠点へと戻る。
彼女はまだ帰ってきていないようで安心した。
泥棒と同等の行いをしてきた事がバレれば何を言われるか……。いや、何を言われるかなんて分かりきっている。以前バレた時なんて、とてつもなく面倒だった。主に説教が。
「ただいまー。」
噂をすれば何とやら。
ミユちゃんが帰ってきた。
「うん、おかえり。街はどうだった?」
「んー普通。」
「良い事もあったし、悪い事もあった。プラスマイナス0って事かい?」
「……まぁね。塔から出て以来、力の調節が出来るようになったみたいで、人混みでもあんま煩くないかも。」
ミユちゃんは“人の心が読める”という<呪い>を持っている。
<呪い>は所謂『加護』の事だが、“人が持つべき力ではない”として昔から<呪い>と呼ばれている。
そして今まで彼女はその<呪い>をコントロールできず、人混みでは特に苦しんできたらしい。
「それで悪い事は、男共には絡まれた、と?」
「そそ。チラッと心覗いたら、下心満載で引いたゎ。」
ミユちゃんのスタイルは割りと良い。スラッとした体型、それなりに大きい胸。
一人でこの街を歩けば、男共の餌食になるのは確実。
だが、今こうして彼女が無事ということは、言い寄ってしまった奴等が無事ではないということだろう。
自業自得。
「ま、それがこの国……バードリ?の特徴なんでしょう?」
「うん。実力主義、武力国家。強い者が上へ立ち、弱い者は従え。それが嫌なら嫌なら強くなれ。それがバードリ国。」
「そして変態も多い。」
「まぁね。」
苦笑いの僕と、爆笑のミユちゃん。
「でもなんか嫌かな、そういうの。『力が全て』ってさ。……偽善かもしれないケド。」
しばらく笑い転げた後、照れたように呟くミユちゃん。
はにかむミユちゃんにつられて、僕も目尻が下がる。
「でも、こういうのもあるんだよ。『強き者は弱き者を守るべし。弱き者を傷付ける事は禁ず。』」
「へぇ、そうなんだ。意外ー。強ければ威張って良い、みたいな感じたと思ってた。」
「ハハハ。僕も最初来た頃は“強いが偉い”な国だと思ってたなー。」
遠い昔の話。
思い出せば、チクリと心が痛む。
キラキラと楽しかった時はもう過去の話。
もう元には戻れない。
「あ、ねぇねぇ。これからどうするの?」
暗く沈みかけた僕の心とは対照的に、ミユちゃんは輝くような笑顔で聞いてくる。
「そうだな……。」
タイムリミットまでは後3ヶ月半。
すべての原因が分かっている訳じゃない。
それでもとりあえず、今出来ることは……っと。
「まずは冒険者登録でもしようか。」
キョトンとはてなマークを浮かべるミユちゃんに、僕は微笑んだ。




