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20/29

*休憩のち再出発

闇の中、パチパチと薪の弾ける音。

時折冷たい風が吹くが、火の周辺はほんのり暖かい。


静かな森。たまに獣の遠吠えが微かに聞こえる。

だが、ここ周辺には強固な結界が張っておいた為、獣に襲われることはない。


代わり映えの無い景色。揺れる炎。どこまでも続く深い闇。


――と。

突如、目の端で何かが動き、反射的にビクリと肩が跳ねてしまった。




「……ねぇ、ここどこ?」


起き上がった彼女は僕に聞く。

寝起きの宜しいことで。



「塔の外だよ。」


チャジアの塔。昼間、僕達はそこにいた。

出口を探し求め、彷徨った。しかし塔の天辺に着き仕掛けを解いた途端、僕らの立っていた地面が崩れたのだ。

記憶が途切れる前、白い光に飲み込まれた気がするが定かではない。

僕が気が付いた時は、辺りはオレンジ色に染まる夕刻だった。



「他のみんなは?」


「僕と君だけが、みんなとはぐれて別の場所に飛ばされたんだよ。……みんな一緒に安全な所にいるから大丈夫だよ。」


「……良かった。じゃ、寝る。」



ホッとしたように呟くと同時に、まだ疲れていたのだろう。彼女は寝転がると同時に寝息を立てていた。






----------






「うーん。どこだろう?」


キョロキョロと屋台の後ろを覗いたり、地面に這いつくばったり、路地裏を覗いたりする怪しい男性。赤いマントを着て、フードを目深に被っている。


そして抱きかかえた幼女が、彼の存在をより一層怪しく見せる。




――幼女を拐った誘拐犯。


この言葉がしっくりくる。







「コラッ!」


遠巻きに怪しい人物を眺める人々の中から、一人の女性が飛び出してきた。ピンク髪のショートカットにオレンジ色の瞳、そして青い鎧を着けて腰には剣を下げている。



「ナオ君、何してんのよ!」


“ナオ君”と呼ばれた赤いマントの怪しい男――直弓(ナオユミ)は後ろを振り返と青い鎧の彼女を見た。そして一瞬だけキョトンとしたような表情を浮かべると、すぐに何かを思い出したらしく『わー!!』と慌てたように頭を抱える。



「もぅ。ナオユミさん、探しましたよー。」


パタパタと、黄土色の尻尾を揺らし彼に駆け寄る獣耳の子。白いふわっとした服を着ている。その後ろからも水色の長髪の子と黄緑色のおさげの子。白いフードの幼い女の子の手をひいた漆黒のフードの女性。

計6人の女が、彼の前に立ちはだかる。


一方彼は、そこが数々の人々が踏みつけていった地面であるのにもかかわらず、頭を地べたに擦り付け深く反省しているというポーズを取る。

いわゆる土下座。


「本当に、申し訳ありません……。」


声からは反省の色が深く滲み出ている。




「別に怒ってないわよ。いつもの事なんだから。」


「今度は何をしていたんですか~?」


腕を組んだ青い鎧の女性が呆れたように言い放ち、獣耳の子は心配そうな表情で彼に聞く。



「いや……その、この子が髪飾りを無くしたって言うもんだから……、つい……。」


彼は苦笑いしながら頭を搔いた。



「はぁ~。」


水色髪の子が盛大にため息を吐き、仕方がないとでも言う様に笑う。


「じゃ、アタシらも一緒に探しますか!」


「「「賛成(ですー)~!」」」


「悪いな。頼むわ。」


「「「「はーい!」」」」





「あ、待ってください。」


白いフードの子を抱き上げた黒いフードの女性が、一致団結した4人の女性達+彼を引き留める。


「探し物って、これじゃないですか?」



そう言って、白いフードの子が持っていた髪飾りを、彼の抱きかかえている幼女に差し出す。


「うん!そう♪」


「よかったな、見つかって。」


「うん♪ありがとー!」


彼が幼女の頭を撫でると、女の子は嬉しそうに笑う。

釣られて、彼も嬉しそうに微笑む。




「あ、ママー!」


人だかりの中、母親の姿を見つけたらしい女の子は、あっさりと彼の腕から滑り降りて母親の元へと向かった。


「まぁまぁ、こんなところにいたのね。」


「これ探してたのー。おにーちゃんが見つけてくれたんだよー!」


「良かったわねー。うちの子がご迷惑をおかけしました。」


「いえいえ。お気になさらず。」





などと、彼が幼女の母親と楽しげ喋っている後ろでは、彼に恋する女性達の真っ黒いオーラが渦巻いていた。



「全く。私が探し出してやろうと思ってたのに。」


「へぇー。自分に魅力が無いから、そうやって点を稼ごうとしてたのー。」



水色髪の女性は青い鎧の女性に見せつけるように胸を張り、その大きなふくらみを見せつける。 対して青い鎧の女性の胸元は寂しい。



「うっさいわね!そんなもの無くたって、それしか威張れる要素の無いあなたには負けないんだから!」


「ふーん。あんたには負ける気がしないから、どーでもいいけどー。」


「はぁ?……もう怒った!いつかあなたを私の前に跪かせてやるわ。どんなに許しを乞いても許してやらないんだから!」


「へー。いつになるんだろーねー。100年後かな。1000年後かな。」


「むきー!あなた、私を馬鹿にしてるでしょ!!」


「うん。」


――この二人の言い合いはいつもの事。





「ホヘー。私はナオナオと一緒にいれれば、それでいいなー。」


ボケーっとしたような黄緑髪のおさげの子は、2人の喧嘩を見ながら呟く。

呑気な彼女の胸元を見る獣耳の子。そこには、水色髪の子とは比べものにならない程の大きなメロン。そして自分の真っ平らな胸元をぺたぺたと触る。



「……わ、私にはフワフワな耳と尻尾がありますからね!ナオユミさんはいつも気持ち良いって言ってくれるんです。わ、私だって負けませんよ!」


若干涙目ながら、彼女は小さな手のひらを握り、グッと気合を入れる。



「だけど。」「でもさ。」「ですけど。」


恋の戦に燃える3名は同じ結論にたどり着く。


「「「あの女、許すまじ!」」」



嫉妬の矛先を向けられたのは黒フードの女性。

しかしそんなものなど意に介さず、彼女は白フードの女の子に微笑みかける。


「ティアがあの髪飾りを見つけてくれたおかげで、問題が早く片付きました。ありがとうございます。」


「ほんとー?ナオ様喜んでるー?」


「はい、もちろんです。」


「やたー!」


「後でいっぱい褒めてもらいましょうね。」


「うん♪」


白いフードの子は満面の笑み。

つられて、黒フードの女性の頬も緩む。




「おーい、そろそろ行くぞー。」


「「「「「「はーい」」」」」」



彼は女性6名(うち1名幼女)を(はべ)らせ、次の街へと出発した。















----------



「ねぇ。だいじょーぶ?」



コツンと頭を小突かれ、我に返る。

目の前にはぐつぐつと沸騰する鍋。そして、こっちを見ているミユちゃん。



「あぁ、ごめん。考え事してた。」


慌てて鍋を火からおろし、味見をする。


「うん、良いね。それじゃ、ご飯にしようか。」





そう、まだ始まったばかりなんだ。


――今度こそ、間違える訳にはいかない。

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