「凋落」
この幕間は二話構成であり、さらに主人公は登場しません
純粋なサイドストーリーとしてお楽しみください
==============================
《ロイフ視点》
「くそっ!なぜこれほどまでに希望者が少ない!」
眼科の机上に並べられた書類のほとんどにバツ印が付けられている
諸事情によって全員とは行かないまでも、メイドのほとんどを解雇する羽目になったからだ
しかし“あれ”のせいで執事や御者が残っているだけマシだと思えてしまう...
しかしなぜこうなった、他の家から解雇されたような奴でもある程度なら許容してやった上、働き次第で給金は弾むと言ってやったというのに...
「最近は夜会の招待状も少なくなった...」
年に数回あるかどうかという高位貴族からの誘いは一度だけあったが、その時はそれどころではなかったからな...
「しかし、だれがあんなことになっていると予想できるのだ...!」
時は少し遡る
〈〜〜〜〉
「ほう、毎日これほどまでに働いてくれているとは...今月末の給金には期待してくれたまえ」
「ありがとうございます!」
臨時で雇った使用人には月ごとに自身の仕事内容を自己報告するという義務を課した
どこぞの襲撃者のせいで使用人が全滅してしまったのでな...!
だが使用人同士には互いを監視し合うように言っておいてある
雇った手合いで最も多いのが他家で問題を起こした奴らだ
まぁ度が過ぎていれば毒にしかならんが、ある程度なら安い給金で雇えるお得な者どもだ
「ふう、思えば朝からずっと仕事をしていたな」
少し体を動かすか
「セーバ...いや、あいつは王都の方に送ったのだったな...」
執事長へ無意識に命令を飛ばしそうになっていたか
あと少しはこの現状が続くのだから、ある程度は慣れておかねばな...
〈〜〜〜〉
──キャハハッ!
──あんたってやっぱ鈍臭いわねー?
「ん?何だ?」
執務室から出て散歩していると女どもの笑い声が聞こえた
なんだ?休憩か?
「す、すみませっ」
「あんたの口から出る言葉なんて聞く価値もないの!さっさとやって、私“達”の給金のためにねっ!」
なんだ、これは
とっさに柱の陰に隠れ、中庭を挟んで向かい側の様子を覗く
「...っ」
「そう、あんたはそれでいいの」
「平民上がりの成金貴族の娘が奴隷として私たち平民の言いなりなんてどんな気持ちぃ〜?」
また、キャハハ!と下品な笑い声を上げながら
なぜか中庭にある父の正妻がよく使っていたティーセットの椅子に座って、どこかからくすねた菓子を貪るメイドからさらに爆弾が落とされる
「あー、それにしてもちょろいわねあの旦那様」
「そうよねえ、ま、あんなあっさり騙されるのは状況も悪い気がするけど」
「でもそれにしても馬鹿じゃない?私たちが結託してるなんて夢にも思ってない顔よあれ」
「それは確かに!」
何が面白いのか
自身が仕事を押し付けたメイドを足蹴にし、また笑う女共を見て思い出す
『お前を産んで数年であっさり死んだ無能などさっさと忘れてしまえば良いと思うのだがな』
『あの女の子供...?ふん、どうせ使えないでしょうけど。ああ、でも“繋ぎ”にはなったわね!ま、それでしか役に立っていないということなのだけれど』
そう言って嘲笑する父と継母を
ああ、これだから
「平民は嫌いなのだ...!」
「え、?」
私の声が届いたのか間抜け面を晒して固まるメイド共に姿を見せながら告げる
「違和感はあった、一人だけ妙に仕事ができていなかったからな」
「あ、あぁ、違うんですこれは!」
メイドの一人が言い訳を試みる
「黙れ!!!」
「ヒッ」
一喝してやればすぐ黙った
最初からそうしていれば良いものを...
「それがまさか...仕事を一人に押し付けて口裏を合わせて虚偽報告をしていたとは...」
頭に手を当てる仕草をしながらメイド共をまっすぐに見つめる
「何卒ご恩赦を...!」
「解雇だ...いや、言い間違えた」
解雇と言ったところで安堵の表情を見せた
前職でも似たようなことをやらかしたが、平民の娘だったことを考慮して加担させられただけだと普通に解雇されたのだろう
だが私は決めたのだ
もう平民に対して容赦はしないと
「懲戒解雇だ。今すぐ荷物をまとめろ。二度と我が屋敷の敷居を跨ぐな」
それだけ言ったのち見かけた適当な執事を監視につけて部屋に戻した
これで明日の朝には消えているだろう
「...すまなかったな、対応が遅くなって」
その後にいじめの対象になっていたメイドを慰めてやると、
「あ、ありがとうございます...」
「よい、これが貴族としての役目だ」
平民を駆逐するという、な
「ですが私のせいでメイドが...」
「そもそも仕事をしていなかったのだろう?ならば別に良いではないか。しかしすぐ補充するつもりではあるが短い間は負担をかける。すまんな」
この娘は没落したとはいえ貴族の娘だ、平民とは違う
ならば貴族としての責務(─ 弱者に対して施しをせよ)を果たすのみ
だがあれほどまでに希望者が少ないのだ、数週間で補充できればいい方か...
「ロイフ様...!」
感極まったとでもいうような顔をした女は
「このクリデーナ・ベリーフ、ロイフ様に生涯の忠誠を誓います」
何?ベリーフ家だと?
昔から王家に忠誠を誓っておきながらいつまでも陞爵せず、上位貴族へ無礼を働いて潰された騎士爵家ではないか?
令嬢が失踪したという話は聞いていたがまさかメイドになっていたとは...
騎士の娘らしく臣下の礼を取って忠誠を誓う女を見ながらこの先を考える
どうする?
王家に差し出せばいくらかの褒賞は貰えると思うが、せいぜい騎士爵家の娘、貰えたとしても雀の涙だろう
雀の涙程度の金と忠誠心に溢れた部下のどちらを取るかと言われれば...
「ふむ、ベリーフ家の娘だったか...」
「不要だというのでしたら王家に差し出してくださって構いません。私が王子の妾にと求められたのが高位貴族の令嬢方に気に入られなかったのが没落の原因ですし、騎士の家の出として失格ですので、潔く処刑されましょう」
おお、平民とは雲泥の差の覚悟!
やはり、やはりこの世にあるべきは貴族のみだ!
「...その覚悟に免じて置いておいてやろう、よく働くといい」
「ご温情に感謝します。これからよろしく願います、主よ」
忠誠の礼を受けながら、私は決意をさらに固めた
必ず、貴族のみの世を作るのだ!
〈〜〜〜〉
《とある貴族の屋敷にて》
「では報告しろ」
「はっ、対象のメイドとして侵入後、貴方様の送り込んだ平民のメイドに適度にいじめられつつ待機していたところ、対象が通りかかりメイド達は懲戒解雇処分を受け、その後に感極まり忠誠を誓ったと装って対象に最も近いメイドとなることに成功しました」
「そうか、ではもっと重要度の高い書類に手を付けられそうか?」
「ええ、これまででさえ、ただのメイドが届いた招待状を処分できてしまうような状況だったのです。今ならばそれも容易でしょう」
「そうか...では頼んだぞ?分かっているな?」
「...ええ」
「お前の想い人はこちらが預かっている、くれぐれも変な気を起こすなよ?」
「分かっております!」
「そのような態度をとっていいのか?」
「...申し訳ありません」
「下がれ」
──キィィ、パタン
「...建て付けが悪くなってきたか?」
「まぁいい、これで社交界からパング伯爵をさらに孤立させることができるだろう」
「前はよくも踏み台にしてくれたよなぁ...!」
「だがその栄光もここまでだ」
「お前がこれ以上上に上がることはもうない」
「そうだな、お前の言葉を借りるとすると、」
「『目障りだ、堕ちろ』だったな?」
そう言って、とある貴族は愉快そうに笑った
〈〜〜〜〉
《王都の貴族》
──はははっ!パング伯爵は引きこもりになってしまわれたのでしょうかな?今回の夜会も欠席とは!
──まさかかのパング伯爵が、王都に囲っていた愛人が全員殺され、屋敷ごと焼かれたくらいで引きこもってしまうほど心が弱かったとは
──今の状態ならば、積極的に夜会に参加して協力や支援を募るべきだと思うのですがなぁ?
──全くですな!
──はっはっはっ!!
「面白い」「続きを読みたい」と少しでも思っていただけたら、高評価やブックマークをお願いします。
できるだけ高頻度な投稿をしていくのでこれからもお願いします。
獅子身中の虫
言い換えて貴族囲中の豚...




