残念だ
ジリジリと砂浜を焼いていく太陽の下、二人の大男と一人の美少女は対峙していた。美少女の構えは隙だらけだが、剣を向けられている以上、男達は反射的に剣を抜く。そして男達の立場は圧倒的に優位であるにも拘わらず、頭の中は大混乱に陥っていた。
「まさか……王女……?そんな訳はねえ!!」
野太い声が砂浜に吸い込まれてゆく。
「その通りだよ。」
美少女は淡々と答え、突きつけた剣を持ち直した。そして高々と声を上げる。
「一つ聞きたい。ボウリ様とは何者だ?それに答えたら命だけは助けてやる。」
リアの問いに、野太い声の男が虚を突かれたように目を見開き、次第にクツクツと笑いながら答えた。
「クックックッ!!威勢がいいな、王女!!では、この剣を躱したら教えてやるかな!!」
野太い声の男は、いたずらにヒョイッと前方を剣で突いた。その途端、
「やめろ!!」
低い声の男が彼を制した。
「何だってんだよ!?」
「気を抜くな!!」
「はあ!?何言ってんだ!?」
野太い声の男は身体を揺らして笑い始めた。
「はっはっ!!このお美しい王女様に気を抜くなだと?お前どんだけ怖がり屋さんなんだよ!!」
低い声の男は顔を顰めながら首を振った。
「一師団を倒せるという噂を聞いたことがある。油断をするなと言っている。」
「一師団を倒せる!?そりゃ豪快だ!!そうなのかい、王女様!?」
「どうでもいい!!それより私の質問に答えていない。ボウリ様とは何者だ?」
「ヒョーッヒョッヒョッ!!」
「クソッ、時間がない!!おい、お前!!」
リアは低い声の男に剣を向けた。
「ボウリ様とは何者だ!!」
「知らぬ。」
「ふうん、あっそ。では質問を変える。お前に、今出航しようとしているあの船を止めることは出来るか?止められるのだったら命だけは助けてやる。」
「恐らく無理ですね。今から全力で走ったら……止められるか……出てしまうか……微妙なところですが無理だと思いますよ。私にその気がありませんから。」
「そうか…………。」
リアはがっくりと肩を落とした。
「残念だ……。本当に……残念だ…………。」
「はあ、残念ですか?」
「残念だよ、時間がなさすぎる。それでも一縷の希望を与えてくれたことに感謝する。」
「希望……?王女、状況分かってます?」
「分かってるよ。とにかく時間がない。でも今から全力で走れば、あの船の出航を食い止められるかもしれない!!」
「そうですね。しかしそれは不可能だ。本当に残念に思います。」
そう言いながら、低い声の男はぐっと剣に力を込めた。目の前の王女は沈鬱な様子で力なく項垂れている。そして独り言のようにブツブツと小さく呟いていた。
「時間さえあったらなあ……!!縛り付けて吊るし上げて色々出来たかもしれないのに。あ、あっちの男を切り刻んでこっちの男に吐かせるっていう手もあるか。ああ……本当に残念…………。」
「何を言って――。」
顔を上げた王女の目がキラッと光った途端、彼の視界は一瞬赤く染まった。何かを避けようと砂に滑って転倒したようで、気がついたら砂浜に横倒しになっていた。王女の姿を探そうと目を上げると、相棒の男がうつ伏せで横たわっているのが見える。そして、その下の砂地がジワリジワリと血で染まってゆく。
……やられたか!
彼を助けようと立ち上がろうとしたが、足に全く力が入らない。雄叫びを上げながら掴んだ砂は、何故か真っ赤に染まっていた。
え……?俺!?
驚愕している彼の耳元に声が聞こえた。
「本当に残念でならないよ。半金の恨みは是非ボウリ様のところへ。うちはもう定員がいっぱいなんだ。」
声の主はそう言うと、一目散にジョナサン号へと駆け出して行った。




