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しびれる女心

5.しびれる女心


 ストーカーだなんて、本当だろうか? 自分の歳から言っても、自信の無い容貌から考えても、更には配偶者が直ぐ隣に同伴して居たのだからーーー。他の女から体を寄せられる程、自分が「持てる」訳が無い。若い時分から冴えない男で、哀しい事に、それが自分で断言出来るのだ。

 それが、六十七になってから突如「持てる」のを開始するなんてーーー、あり得ようか!?


 私くらいの年齢になれば、なってみて初めて分るが、脳が成長期に入るのだ。脳の思春期と言っても良い。これを誇大妄想狂と呼ぶ心無い学者も居るが、自分の勘違いを本気と信じ込むほど脳が異常に進化する、のは本当だ。


 だから自分が「持てる」のを、最初は「まさか」と思ったものの、直ぐに脳の進化で「ことによると」と思い直した。証拠に、現実がそれを裏付けている。人は自分の美を謙遜しすぎてはいけない:

 城内のような薄暗い処でよく吟味して、斜め三十五度辺りから眺めれば、私の男性美は自ずとしたたる。彫刻したように繊細で端正な横顔と、水際立った立ち姿が、女心をしびれさせていたのだ! ああ、なんて事だ。


 城内でそんな女心をくみ取れなかった鈍感振りに、私は内心地団太を踏んだ。が、既に遅過ぎた。

 そんな目で改めて辺りを伺うと、周りの女達が皆こっちを見ている気がした。私のそぞろ歩きの姿は、花の下で弁当を遣っている家族ずれの奥さん達のあこがれを集めているに相違ない。桜の花びらが私の顔に落ち掛かる風情なんて、どの女でも震い付きたくなる筈。


 素直にそう申し出てくれれば、こっちは直ちに許可をする積りなのだが、困った事に日本の女性は恥ずかしがり屋が多い。



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