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父親と娘

6.父親と娘


 間違いなくそうだとしても、恋心の為とは言え、城内の女の行為は大胆過ぎたと思う。人目もあったし、横に配偶者も連れ添って居たのだからーーー。


「ふーん、彼女は僕が独り者と勘違いしたのかな?」と配偶者の顔色を伺いつつ、自分の「地団太」を隠して、用心しいしい探りを入れてみた。

「いいえ、それは絶対にあり得ないわ。私が始終貴方の直ぐそばに居たんだから。私に飼われているのを、彼女は知っていた筈よ」

 私は飼い犬のランクで、他人にさらわれたらエライ事になると思っているのかーーー?


「君は髪が黒くて歳よりずっと若く見えるから、ひょっとすると、僕ら二人 が「父親と娘」と勘違いしたんじゃなかろうか?」と、今度は配偶者のポイントをくすぐって見た。

 「まさかーーー!」と、女は語尾に余韻を残しつつ否定はしたものの、きっと内心では頷いているに相違ない。娘といわれて本気で否定する女なんて、世界中に居るもんじゃない。


 やや間を置いてから、「アノ女は、男が欲しかったのよ!」と、まるで飢えた危険な野生動物であるかのように、配偶者は見下した:

「ストーカーをするなんて、アノ女は独身で、しかも異常に「男好き」なのに違いない。ひょっとしたら、男に一度も持てたことがなくて、過去にも出会いがなかったのだと思う。「男日照り」の職場で働いているのかも知れないわ。貴方に限らず、相手は男なら誰でも良かったのよ」 配偶者は競争相手に対して容赦がない。


「50を過ぎて生理も終わりかけて、人生のフィナーレの最終ランナーになって初めて、「ああ、自分は生涯男に縁が薄かった!」と、惨めな自分に気が付いたのよ。丁度そんな時に勘違いとは言え、男から、つまり貴方から親しげに声を掛けられた。過去に未経験な事態だから、まるで若い処女のように舞い上がってしまい、ついあんなストーカーまがいになった。まあ言えば、盛りの付いた下司女よ!」と、ついにトドメを刺した。


 けれどもこんな時、夫は決して反対意見を述べてはいけない。それは間接的にアノ女を擁護する事になり、言い換えれば「好意を持った」事になり、結果として「愛してる→不倫→ラブホ」というのと同じ意味になってしまうからだ。

 そうなれば、事態は極めて激しいひと悶着に発展し、どんなとばっちりが返って来るかも知れない。そこで、「ふうーん」と私は無難にやり過ごした。

 

「世の中にはヘンな女が居るから、貴方も気をつけなさいよ!」

「うん、気を付けるよーーー」と、しおらしく応えた。


 配偶者の内心を探れば、夫をたしなめる積りだったろうか:

 「自分は未だ女にもてる」と万が一でもバカな夫が誤解して、将来「色ボケ老人」になっては大事( おおごと)と警戒したのかも知れない。そんな妄想に陥らせない為に、敢えて必要以上にアノ女を貶めたとも考えられる。


 仮にそうだとするなら、私の為に濡れ衣を着せられたアノ女が、尚の事可哀想に感じる。「男好きで盛りの付いたストーカー」だなんてーーー、少し酷い言い方ではないか! 概して女は同性に対して残酷である。どうも意地が悪いように思えてならない。流石に私は彼女へ同情を寄せた。


 可哀想なアノ女の為に、もっと労わりのある解釈は無いものだろうか? 配偶者に話を合わて相槌を打ちながら、城から駐車場への道を戻りつつ、別の脳で考えてみた。そして、ついに最も合理的な弁明を発見したのである:

 それはストーカーなどと混同される低劣な種類のものではなく、彼女の尊厳をも傷つけない。しかも大抵の心優しい男たちなら、賛同してくれる以下のものである。




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