ブローニングのラケット
14.ブローニングのラケット
男が社内で目を付けた味の良さそうな人妻は、35~6の事務員。女の趣味はテニスだったが、夫はテニスをしなかった。夫婦で趣味が違う場合、時に重大な問題につながる。
文学部出身の男はペンより重いものを持った事がなく、ペニスならともかくテニスなどやった事がなかったし、勧めてもやるタイプではない。が、女と夫の間に横向きになれば何とか入れる隙間があると見抜いたから、そこは流石である。
隙間に滑り込むべく男は準備を開始した: 間もなく、米国ブローニング社製のテニス用高級ラケットを購入したのである。トップセールスの彼の給料からすれば何でもない。それを携えて女が所属する「同じ」テニスクラブの、初心者コースへ潜り込み、やにわに猛練習を開始した。
確かにマメではあるが、そこまでやらないと容貌の不利をカバー出来ないのだとも言えるから、何やら涙ぐましい。
練習を続けて、先に云った通り「くたびれたり諦めたり」するタイプではなかったが、何せ素質が無いから思うように上達しない。けれども、そんな事を気に病む男ではない。思うようにならなければ、違うように思えばよいのだ。
彼は自分の「下手さ加減」を売り物にした。これが中級クラスの腕の先の女の母性本能を、クスクスとくすぐったのである:
「貴方ってヘタねえ! どうにかならないの? ちょっと相手をして上
げるわ!」
女はボールの扱いと先ずドリブルの基本を教えた。日を置かず、休日に同じコートで女と一緒にテニスをするようになったのは、男にすれば予ての「計算通り」。間に滑り込むべく、女と夫の間を先ず広げたのである。




