伏兵あり
12.伏兵あり
名経営者として著名な米国GE社元会長のジャック・ウェルチの言葉がある: 大切な人材を逃すのは、ミスでは済まされない、経営者の犯罪である。「逃がさない」ように日頃から抱きしめて、熱いキッスを繰り返ししてやらなければならない。
ウチの場合で言えば、先の男Kがソレになる。私は日本人だからキスや抱き締めたりしない代わりに、営業部長に取り立てようと考えた。先々片腕として、働き振りに拠っては子会社を任せようと考えた。普段からそれとなく男にそう伝えた。
サラリーマンとして順風満帆、出世・昇進とは彼の為の言葉。成功へのキップを首尾よく手に入れたようなものだから、目出度し、目出度しーーーの筈であった。
が、物語は未だお仕舞いではない。むしろ、ここから再スタートを切る。「人生好事魔多し」と言う通り、伏兵は意外な処に潜んでいた: 男は出世への片道キップを握ったまま、迂闊にも百八十度反対方向行きの急行列車へ乗車してしまったのだ。それが地獄行きであったのは、乗車して一年程が経ってから判った。営業部長へ昇進のすぐ矢先に、男は会社を辞めた。
正しく言えば、ジャック・ウエルチの「キッスをして抱き締めてやれ」の言葉を裏切って、辞めさせたのは私であった。
神はパーフェクトな人を作らないらしい。男は、人に優れた能力と高所に立つ視野を持っていたのは確か。だが、アンバランスな事に酷い欠点も併せ持っていた:極端な「女好き」であった。いや、被害者は私の配偶者ではない。
女好きなのは私と似ているが、こっちはかろうじて踏みとどまって抑制が利く方だが、男はそうは行かなかった。出世の分かれ道がここにあった。




