九十一話:語り、沈黙
ひっさびさの投稿なんでちょい短めです。
投稿が遅れて大変申し訳ありませんでした。
「私は、自分が分からない」
「…哲学か?」
それを言うならむしろ自分が分かる人間の方が少ないだろうし、俺だって分からない。
…って違うか。
流石にいきなりここで哲学を語り始める様な奴では無いだろう。
「生まれも、名前も、種族さえ…」
「あぁうん、なるほど…」
記憶喪失で色々と思い出せないって訳か?
さっき名前はは記憶にないって言ってたし…そういう事なんだろうな。
ってか…人間じゃないのだろうか?
生まれも名前も思い出せないのは流石にお手上げだけど、見た目で言えば獣人特有の獣的なパーツが無いしな…
まずはその可能性を考えると思うんだが…
「…人間じゃないのか?」
とにかく、聞いてみるしかないか。
少し雑だが、いい聞き方が思いつかなかったのでストレートに質問をぶつける。
これで気を悪くしたら面倒だな…なんて思ったが、特に気にした様子もなく少女は口を動かす。
「最初は、そう思った」
口ぶりからすると、今は違うみたいだ。
…まぁ、あれだ。
とにかく話を聞いて判断するしかないな。
「…と言うと?」
「この体は乾きも飢えも疲労も…まるで感じない。
幾日、幾ヶ月、幾年も」
「…幽霊か?」
「減ったらその分すぐに満たされる。
痛みは感じるけど…慣れた」
「それはアドレナリンのせいじゃ…?」
「それで果たして、人間?」
「…返答に困るなぁ」
全く俺の質問を無視して話が進む。
確かに、いつまでも腹も減らない疲れないって…人か怪しいな。
それでも今の俺には…これに上手く返答出来る為の言葉が無い。
俺の持っている常識からは、聞いた限り明らかに人じゃないんだけど…
なにせここは異世界で、知識もそこそこ、それに俺自身魔法なんて使えない人間だ。
何らかの魔法でそうなっているって可能性も否定が出来ない。
ここまでではっきりと何か、そう言える証拠がないからな。
…まぁその証拠を作ることは出来るんだけどな。
「そこで、お願い」
間髪入れずに言葉を続けつつ、指をこちらに向ける。
その動きには何処か見覚えがある。
霊力鑑定を使った時の、土人形の動きそのものだ。
やはり彼女も同じことを考えていたようだ。
「霊力鑑定だろ?」
「あれで分かる?」
「やってみないと分からない、けど…」
「じゃあやって」
消耗が酷いから今は無理…
そう言おうと思ったんだが彼女の方が早かったな。
それに…少しばかり彼女の無表情が崩れてもいる。
真剣さを帯びながらも、微かに希望を見つけたって感じの顔だ。
「待って、消耗が激しいから」
「使って」
「すぐにはキツイ」
「使って」
一応説明はしたが聞いちゃいないな。
あくまで結果を急ごうとしている。
まぁ目の前にずっと自分の欲している情報を知ることが出来る人間が居たらこうなるか。
だけど、俺も嘘を言った訳じゃない。
実際の所、ステータスを確認するとこうだ。
Nameテッシン・ニジ(男)
Lv2
EXP579/5790
HP260/977
MP0/0
SP312/1055
STR:158(166-8)
VIT:186(201ー15)
AGI:148(166-18)
DEX:101(138ー37)
SEN:102(184-82)
WIL:270
アビリティ
・異世界人の成長ⅩⅩ
・文字言語理解
・真理理解Ⅱ
・女神の加護
・ステータス霊法(霊力鑑定)
・根性Ⅲ
・狂化耐性Ⅱ
数値だけ見ればいつぞやよりはマシだけどな…
SPは3割を切っている状況だし、HPはかなりの速度で回復してるが今は殆どない現状…
霊力鑑定なんて使える余裕は…ない。
仮に使ったとしたら枯渇するのは目に見えてるし…
使うなら確実に回復してからじゃなきゃ無理だ。
つーか…それにしてもSP減りすぎじゃね?
最後のあの短剣での一撃にどれだけ注ぎ込んだんだ?
それに…ステータスも下がってる。
WILが特に変動してない辺り、全身打撲のせいか?
何はともあれ、満身創痍っぷりが如実に表れているステータスだ。
あと、どうでもいいが…WILの成長が留まる事を知らない件。
それに根性と狂化耐性がそれぞれ成長しているし…
俺自身はそこまでメンタルがタフでは無いと思うんだけどな。
と、話がそれたな。
どこか期待した様子の土人形の主に霊力鑑定を拒否するのは気が引けるが、それでも命には変えられない。
せっかく繋がった命をここで捨てる気も無いしな。
指を突き出した状態で静止する彼女の方を見て一つため息を吐き、告げる。
「回復しないうちは出来ないし、やらない」
「使って」
彼女が引く様子はないのは分かっている。
だからと言ってそれに流されて『はいそうですか』と霊力を使う訳にはいかないんだ。
「それにパラスケヴィから逃げるのが優先だ」
元々こうして土人形に誘われてきたのは、その主なり何なりと接触する為だ。
それで敵意が無いならここに残るかもしくは連れて行くか、あるなら対処するか逃げるか…くらいしか考えていなかった。
そこにアイツの登場だ。
ぶっちゃけこの可能性は、考えてすらいなかった。
だってサヴァトと一緒に中央へ行ったはずだろ?
なんでこんな所に…
って今は置いておこう。
とにかく、今も奴はこの洞窟を探し回っているだろうし決断は早いほうがいい。
ここに居たら見つかるのも時間の問題だしな。
とにかく体力が回復したら一刻も早く逃げるべきだ。
ついでに彼女も連れていければいいが…
「使って…?」
「逃げて回復した後でならいいぞ?」
「今…使って…くれないの?」
「…身の安全も確保出来ない内は、ね」
「・・・」
「・・・」
二人の間に沈黙が流れる。
お互いに自身の主張は伝えた。
…が、そこで互いに一歩も引かなかった。
まぁ俺には命の危険があるって状況があるからだけどな。
しかし…なんでこんなに頑ななんだ?
一緒に安全な所に逃げれば使ってくれるのか?とかも聞きやしない。
今使え、使って欲しいの一点張りだ。
幾ら自分を知りたいだの言ってても、そこまで急ぐか?
ぐぅ~…
なんて考えている最中、不意に腹の虫が自己主張を始めた。
そして、再び両者に沈黙が訪れる。
今度の沈黙は、妙に小っ恥ずかしかった。




