九十話:出会ったら、語り
話を聞くとは言っても、怪我の治療も忘れないけどな。
目の前の土人形の主と名乗る奴から話を聞きつつ、胸当てを外す。
肋骨なんかは…折れてこそいないだろうけど、やはり激痛が走る。
「ぐぅ」
「何を…?」
「あぁ…うん、ちょっと治療を」
そう答えてから腰ベルトからヒールジェルとポーションってか瓶類を取り出す。
あの戦いで割れてたらって思ったが、思ったより頑丈で大丈夫だったようだ。
特に今回は殆ど打撲だからどちらも使えるはずだし。
早速ポーションを呷り、ジェルを患部に当てていく。
「それ…?」
「あぁ、薬だよ」
彼女?は不思議そうに俺が薬品類を使っているのを見て、疑問符を浮かべた。
まぁこの世界で薬学の存在はほぼ絶望的なので、軽く薬とだけ言っておく。
説明も時間がかかるし、今はしないでおこう。
ちなみに今見える範囲にリュックは無い。
つまりこれが割れてたり中身がなかったら、激痛に苛まれながら探さなきゃいけなかった訳で…
本当、手元に割れずに残ってて良かった。
「うん…?」
腰のベルトから瓶類を地面へ並べていたのだが、奇妙な事が。
あの中には土人形を入れていたあの瓶もあったはずだ。
それが瓶はあるものの蓋が外れており、中身…中にいた土人形も居なかった。
少し辺りを見回しても近くで糸が切れたような体勢で動かない土人形が一つ。
しかも傷の具合から、俺が戦闘前に投げた奴で間違いないと思うんだけど…
となると、一体どこへ行ったんだ…?
そんな疑問が頭の中に浮かぶ。
「瓶にいたの、わたし」
俺の様子を見て察したのか、端的にそう呟かれる。
「じゃあ今まで俺が君を持ち歩いて…」
「あれも、わたし」
俺の言葉を遮るように動かない土人形を指差してそう言う。
「他のも、わたし」
「…そうか」
何となく言いたい事は分かるけどさ…
ちょっとばかり説明が飛んでないか?
一応…アレらは使役していた訳じゃなくて、どれにも自分そのものだったって事だろ?
ちょっと意外ではある。
だって壊れやすい体を使って、かつ自分を分散させてまで行動してたって…全滅した時のリスクが高くないか?
もう少し方法がある気がしないでもないんだけど…
…疑問ついでにちょっと聞こうか?
「そういえばパラスケヴィ、アイツは?」
「穴の下」
「…どこの?」
「ここ」
「…」
「…」
なんだこの会話。
さっきよりも口数減ってんじゃねぇか!
これならサヴァトよりやりづらい気がするぞ。
もう少し説明してくれてもいいだろう。
「…穴ってどこの?」
「ここに出来た穴」
「え~…と」
「…」
「…」
なんだろうな…これ。
本当に必要最小限でしか話さないって事か?
そんな事を考えながら彼女の目を見てみるが…特に変わった事は無い。
じぃ~っとこちらを見返してくるだけだ。
それに穴って言ったってどこの穴だよ。
そんなのこの広間で見てないぞ?
探せばあるんだろうけども…動くにはもう少し時間が欲しい。
薬品類の効果が出てないし、動くにはまだ辛いんだ。
絶賛痛みに苛まれ中だ。
それでも、頑張って土人形の主とは会話をしてみる。
最低限しか言葉を発しないが、受け答えをする気は向こうにもある。
よくよく考えたら、向こうにとってはしばらくぶりの会話になるんじゃないか?
久々の会話に戸惑ってるんだろう。
そうやって少しポジティブに考えながら体が動かせる程度に回復するまでにある程度、聞けることを聞き出そう。
そう思って会話を頑張ってみた所…
まず、パラスケヴィ…奴はどうやら下に落ちていった事が分かった。
俺が意識を失う直前に放たれたあの一撃で穴を開けてな。
そりゃあ今俺が居る地点から、穴が見えない程度に吹っ飛ばされてるんだから十分に頷ける結果だ。
ってかあの場所から割と正反対の所にまで吹っ飛ばされてるんじゃないか?
それにそこら中に地面を抉った瓦礫類が散らばっててここに訪れた当初の綺麗な光景は無い。
ここに来た当初をビフォーとして思い返し、アフターとして今の光景を見てみるとまさに悲劇的で、何という事が起きたのでしょう…って感じだ。
それから、俺が気を失っている間に瓶から抜け出した土人形が既にかなり近くにまで来ていた目的地からコイツが来たという事だ。
一応、彼らの導く終着点にこいつは居たらしい。
それも半分眠ったというか…仮死状態みたいなものだったらしいけど、土人形から力を貰い動けるようになったと。
謎原理だが…深く考えるのは野暮か?
どうせ魔法でうんぬんかんぬんだ。
「でも、すぐに…」
何やら意味深な事を言っていたが、そろそろ歩けるくらいに回復してきた。
ゆっくりとした動作で立ち上がる。
「さて…少し探索しない?
リュックとか無いと不便だしさ」
「…うん」
多少間があったが、返答が貰えた。
二人で辺り状態を確認して歩く。
話で聞いた通り、先程戦っていた地面にはポッカリと大穴が空いていた。
明かりを底に向けて見たが…全く下が見えない。
ってかパラスケヴィがここを登ってこない辺り、それが出来ない程度には落とされたのだろう。
あの脳筋が、だ。
…間違っても落ちたくはないな。
それからも暫らくそこら中を歩く。
そしてリュックが瓦礫やら土砂に埋もれかかっているのを何とか見つける事が出来た。
早速回収して、状態を確認する。
「お?」
割とそこまでひどくもなく、ちょっと驚きだ。
割れ物なんかはそこまで入ってないからな。
壊れても修理すればいいものが殆どだし。
ただ…瓶なんかは割れている分は後で買わないとな…
そこだけ、出費がかさむのが少し気落ちする所だけど。
「…これ」
で、横からも一声かかる。
振り返るとその手に持っているものは…折れた木剣とスコップだ。
どうやら近くにあったのを見つけてくれたらしい。
ただ、どちらもひどい有様だ。
剣は分かると思うが、スコップがどれくらいひどいかと言うと…匙部分が凹んでいて、柄にも窪みが出来ている程度だ。
直さない限り、土を掘り返す本来の用途には使えそうにない。
流石に剣は直せないからガラクタみたいなものだが…
「あぁ、ありがとう」
まぁ回収してきてくれたのはありがたいので、しっかりお礼をいって受け取る。
せっかくだしどっちも持っていこう。
最悪、剣は松明の代わりに使ってもいい。
火付がいいかは分からないけどさ…
とまぁそんな感じであっちこっちに散らかっていた荷物を回収できたので一旦そこでまた腰を下ろす。
ひとまず休憩だ。
まだ聞いてないこともあるしな。
「ねぇ…?」
「…」
返事こそ返ってこないが、向こうは何を聞いてくるのかと視線をこっちに向けている。
「まだ名前聞いてなかったからさ、教えてもらってもいい?」
そう、さっきから彼女?だのと頭の中で思っているが、まだ名前を聞いてないせいだ。
ってかそもそも性別も分からない。
実は男の可能性だってあるんだから。
…藪蛇になるから言わないけど。
それで、帰ってきたのは意外な言葉だった。
「名前……無い」
「名前が無いのか?」
「…記憶にない」
また結構な間が生まれたが、正確な答えが返ってきた。
今、目の前に居る土人形の主は名前が無い…覚えてないのかさえな。
普通なら『冗談だろ?』と言いたい所だけど…今回は普通じゃないしな…
いつからかは知らんが数十年人の居なかった土地で、更に元々人の寄り付かない魔物の巣で眠ってたって様子だし。
人が自然発生するわけないが、記憶喪失か何かなら可能性は十分にある訳で…
ってか結局名前から男女どちらか分からないじゃないか。
面倒だから見た目少女っぽいから女として考えよう。
「あなたを呼んだ理由」
「ん?」
一瞬どうでも良い考え事で話を聞いてなかったかと錯覚したけど…違うよな?
元々言葉足らずで話が飛ぶから今回も話が飛んだんだろう。
それに前の発言とくっつくものとは認めない。
人の事を呼んでおいて、ここまで色々あって忘れましたは流石に怒るぞ?
「長くなるけど聞いて、それから頼みたい」
「…何を話すんだ?」
ってか聞くことは既に決定してるんだよな。
そう思ってちらりと見る彼女の瞳は、真剣そのものだ。
…下手に突っ込むのもやめておくか。
「わたしの事」
「君の?」
俺の言葉に返答することなく、彼女は静かに語り始めた。
あ…ありのまま今起こったことを話すぜ!
『おれは短編の方を書いてると思ったらいつの間にかこっちを書いていた』
な、何を(ry
出来れば四月の第一週にでも上げたいっす(汗)
…出来ませんでしたね。




