八十五話:自称ダイヤモンド
「チ!聞いてんのか!?あぁ!?」
別に無視していた訳じゃないが…男に特に返事を返さないでいると、怒鳴るような声量でそんな言葉が聞こえてくる。
…相当に不機嫌なようだ。
下手に刺激はしない方が良いか?
サヴァトから聞いてはいたが、この時点で既に関わりたくないっていう印象が俺の中にある。
そもそも初めて言葉を交わす相手にそんな態度って…
「…そんな登場の仕方をされたら、誰だって驚くと思うけど?」
「うるせぇ!ガタガタうっせぇぞ!」
え~と…うん…?
何?この生き物?
会話になる気がしないんだけど…
返答を求めておいてうるせぇってさ…
だったら聞くなと言いたい、言わないけど。
「それでテメェ!何者だ!?」
いや~…覚えてないのかよ…
というかいきなり初対面だと思う相手への挨拶が『よぉ!』なのか…
これは常識を知らない奴なのか、はたまたこっちをナメてる奴なのか…どっちだ?
「この間会ったけど、覚えてない?」
「さっさと答えろや!」
腹の底から唸るような声を上げて凄んでくる。
…自分勝手でひたすらにメンドくさそうな相手だ。
間違っても聞きたい事は何も聞けそうにはないな…
だって、質問に答える気がないんだもの。
「先にそっちが名乗っても良いんじゃない?」
「あぁ!?上等だ!」
そう思っていたんだが、男は右手をサムズアップ…親指だけ突き出すような形に握りこんで、親指を自分の胸に突き当てる。
そういう事はしっかり返してくれるんだな。
こう…自分の事はアピールしたいみたいな奴か?
「俺様ぁこのロスクスーアァ!かのヘブドマス国に召喚されしぃ勇者が一人ぃ!
人呼んで『金剛石のパラスケヴィ』様だぁ!
神様に頼まれちょちょいと見参よぉ!
いつかぁ天に響き大地に轟く!そんな名前だ覚えとけぇ!」
「あぁ…うん、はい」
金剛石って確かダイヤモンドだよな。
恐ろしく、コイツには似合わないな。
少なくともそんな二つ名を与えた奴のセンスが知れない。
石だけでいいだろ、石頭って意味で。
…深く考えるのは可哀想…か?
というか何かもう口上の時点で色々と間違ってる様な気がしないでもないが…
ってかさっき勇者って言ったか?
…一応聞いてみるか?
「勇者?」
「あぁ!?疑ってんのか!?」
「勿論」
「テメェ喧嘩売ってんのか!?つーかテメェの名前を聞かせろぉ!」
「…テッシンだ」
とりあえず…テンションについていけそうにないな。
コイツは素でこうなんだろう。
やたら声がデカくて粗野で誰にでも喧嘩を売るようなタイプ…
サヴァトがそんな事を言ってた様な気がするが、頷ける。
ってかサヴァトの気苦労が何となく分かる気がするわ。
そりゃこんなのとずっと居たら誰だってヒステリックになるって。
それよりも勇者って事については特に聞けないか…
つーか良くも悪くも人の聞いた事に答えないな。
あくまで自分の聞きたい事優先だ。
…非常にやりづらい相手だ!
「そうかテッシン!お前だな!」
「は!?」
いきなりなんだ、今度は?
「そこの人形を操ってたのはお前だ!」
「違うけど?」
「な訳ねぇだろ!?おい!」
男はダン!と地面を足で踏み鳴らす。
ってそれだけで地面が揺れたぞ!
思わず、少しよろけてしまう。
どんだけ馬鹿力なんだよ!
ってかこれさっきから感じていた揺れの正体か?
「とにかく!覚悟しろよ!」
そう言うと拳に嵌めた小手を打ち鳴らし突っ込んできやがった!
こっちの言い分なんて聞く気も無しかよ!
「くそ!」
咄嗟にスコップで受けるが、流石に片手じゃ無理だ。
重い衝撃がスコップから手に伝わる。
「「チィ!」」
お互いに満足の行く結果にならずに、舌打ちの音が交差する。
…受けつつ後ろに飛び距離を取れたのはいいが、流石に手首が持たなかった。
スコップが明後日の方向へ吹き飛はされてしまった。
アイツ…この馬鹿力め!
「お前をやっつけりゃあ俺様の名前も鰻登りって奴になんだよ!
黙ってやられとけっつうの!」
「ふざけんな!」
どのみち話を聞かないんだ、説得は無理だ。
このまま戦闘は避けられないか?
だとしたら…せめて…
「逃げて…後で合流」
落とされないように必死にリュックの背負紐にしがみついていた土人形を引き剥がし口元に近づけてそう囁く。
それから土人形を後方に放る。
壊れないか心配だが、今はそれを気にしていられない。
後で直すから我慢してもらおう。
今は、目の前に迫ってくるコイツを何とかしないと!
分かる人は色々と分かると思いますが…
彼の名前についての細かいツッコミは無しでお願いしますm(__)m
後々になって変更とかも多分しないんじゃないかな?




