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魔法がある異世界を魔力無しで生きるには  作者: リケル
第二章 勇者と金属と大地と
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七十八話:土人形の導きその1

 


 さて、その翌日の事。

 何か、頬を叩く感触に目を覚ます。

 …どうやら、人形に頬を叩かれていたようだ。

 寝ぼけて虫か何かだと思い、叩き潰さなくてよかった。



「ふあぁ…」



 あくびを一つしながら体を起こす。

 昨日はなんやかんや言って夜遅くまで尋問されてた。

 実際に屋敷の主の部屋にまで案内させられたし…

 他にも寝る前に荷物を整理したりもしたしな。

 探険に行くならちゃんと装備を整えなきゃいけないから、一切手は抜くつもりはないが…


 何がいくつ余っているとか…きちんと勘定しておかなきゃ困る。

 それにリュックに入れっぱなしですぐに使えないって言うのも問題だ。

 万が一を考えてすぐ使うものはすぐ使える所…ベルトのポーチとかに入れておくべきだし…

 主にヒールジェルとかポーション瓶とか涼甘草の種の粉末とかだけどな。


 後は土人形を軽く整形した。

 いつまでもひしゃげているのも可哀想だしな。

 まぁそんな事をやっていたら、深夜就寝になってしまったんだが…


 今、外を見てみると随分と明るい。

 日が昇り始めている時間だ…

 これじゃあ、二度寝するわけにもいかないだろう。

 今日は探索に行かなきゃいけないんだからな。

 ってか寝てもコイツに叩き起されるだけだろうし。





 さて、目覚ましついでに屋敷を彷徨いていたら何やら厨房から何やら物音と匂いがする。

 恐る恐る入ってみると、ジーニャさんがいた。



「おはようございま~す…」


「あ、おはよう!そろそろ出来るよ!」



 …って何で料理なんかしてるんだ?

 なんて一瞬思ったが、あの保存食の硬さをふと思い出す。



「なるほど、煮炊きして柔らかくしてるのか」


「そうそう!そのまんまじゃ硬いんだよね~」



 ジーニャさんはそう言いつつ鍋をかき回している。

 その鍋の中にはドロドロに溶けた…昨日食べたあのガチガチに硬い非常食とは思えない何かが溶けている。

 更に干し肉とか乾燥野菜なんかも加わって…栄養には困らなさそうだ。

 ただ、食べやすさをとった代わりに見た目と味が悪そう…



「あ、水なら魔法で出した奴がいくつも桶に貯めてあるから好きに使ってね~」


「分かりました~」



 ぼ~…っと鍋を見ている俺を見て、ジーニャさんがそう言う。

 変な事を考えないようにしつつ、返事をしながら桶から手で水を掬って顔を洗う。

 まぁ…眠気覚ましに、だ。

 ここだと水脈が使えないから飲料水は貴重だが、魔法で出した水はMPの限界まで使い放題だ。

 昨日なんかも…全員が体を洗えるくらいの量の水を軽々と出してたしな。

 ジーニャさん一人で、だ。

 どうにもジーニャさんには水撃理解があるそうで、MPの最大値は少なめでも相当量の水を出す事が出来るみたいだ。




 そんな事を考えている内に二度三度と顔も流し終わった所で、ふと他の桶に張った水に目が行く。

 そういえばこれが飲み水に使えない理由って…魔力だったな。

 せっかくだし、一つ実験をしてみようか。

 朝一だからSPも時間で回復もするだろうし、ここは遠慮なく使おう。



 という訳で両手を水に浸して、霊力を巡らせてみる。

 案の定、魔法で作った物だから霊力の消費が激しい。

 しかも何故か体積まで減っている始末…

 最終的に残ったのは…半分より少し多いくらいか?



「お~い、そろそろいいか?」



 そうこうしている内にいつの間にかダダンさんが来ていた。



「あ、はい」


「…というか何をやってたんだ?」


「これが飲み水にならないかなぁ…と」


「そういう事か…で、結果は?」


「微妙ですね…」



 飲めるのかさえ分からないし、何より量が減るんじゃなぁ…

 しかも依然として飲料に使えるのか分からないし…

 その後は色々と話して戻ると、丁度朝食が出来ていたので三人で食べた。

 随分と味覚毎に尖った主張をする味わいだったが、食えないことは無かった。

 好んで食べたいとは思わないけど。






 さて、昨日の内に準備を済ませて置いたので朝食後は速やかに村から出ることが出来た。

 現在は肩に土人形を乗せて探索中だ。

 地面に歩かせてもと思ったが…それだと進むのが遅くなる。

 ちょっと早歩きすれば人形の全力よりもはるかに早いし。

 重さも気にならないしな。

 そんなこんなで進んでいく。


 ちなみに俺一人だ。

 二人は村の方に残って、後続の人達の為の用意をしているらしい。

 あの屋敷も広いが、何人も来るとなると流石に手狭だし。

 それに下手に動かれないように何処か待機できる場所も必要だ。

 探索の邪魔をされても困るしな。


 というか今来る時点で探索の邪魔だ。

 来ないのであれば、村の探索だって出来ただろうに…

 …って愚痴っていても何も始まらないな。

 今は探索に専念しよう。




 さて、人形を羅針盤代わりに進んでいたら眼前に何か見えてきた。 

 人形はそれに反応して俺の被っているフードを引いて、更にその方向に向かって指を指し始めた。

 これは…行けって事だろうな。

 となると…あれは…



「やっぱりか…」



 進んでみると、そこには土人形がいた。

 しかも三体。

 まぁ…土人形だろうってのは予想の範囲内だ。

 それ以外に心当たりも無かったしな。



「彼等も…君が?」



 そう俺の肩に乗っている土人形に聞いてみた所、肯定の返事が返ってくる。

 となると一度に複数体、操れるんだな…

 ちょっとそこら辺、興味があるな。

 一体どういったかんじなのだろう?

 並列思考とか…そういうアビリティを持ってるんだろうか?

 会う事になったら聞いてみるのも悪くないかもしれない。


 で、その彼等だが…三体とも同じような感じで皆、腕先をこちらに向けてくる。

 丁度昨日、霊力鑑定を使った時と同じ感じにだ。

 視線を横にずらすと…肩の奴も同じ動きをしてるし…

 試しにしゃがんで指を突き出すと、三体ともピタリ、と腕先をくっつけてくる。

 これはつまり、霊力鑑定をしろと?

 いや、昨日みたいに霊力を纏わせればいいのか?

 とにかく、やってみるしかないか…

 そういう訳で意識を集中し、霊力を送りこんでいく。






[分体の土人形]

 土と僅かの水とを混ぜて無理やり形作った人形。

 デザインは気に入ったが、性能が満足のいくものでは無かったようだ。

 今は鑑定に使った後の霊力を分けてもらおうとしている。

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[分体の土人形]

 土と粘土を混ぜた物を捏ねて形作った人形。

 デザインも性能も気に入らなかったようだ。

 特に理由無く他の土人形と一緒にここにいる。

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[分体の土人形]

 土と水とを混ぜて人型に形作った人形。

 可もなく、かと言って不可もないデザインと性能に仕上がっている。

 今は鑑定に使った後の霊力を受け取る量に違いがないか検証しようとしている。

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「ぐぅ…」



 鑑定を行っての負担と霊力を消耗しすぎた際の副作用が体を襲う。

 流石に三体同時に行うのは消費が洒落にならないな。

 サァ…っと血の気が引く様に、五感が薄くなるような感覚のせいで立っているのが辛くなってくる。

 その場に膝をついて、何とか堪えてるけど…

 で…ステータスを見るとSPが四割ちょっとまで減っていた。

 これは一気に減らしすぎだな。

 だが、その甲斐あってか三体とも何処か調子が良さそうな雰囲気だ。



「後は…」



 そう呟くのと同時に、土人形と触れ合っている指先から僅かに光が生じる。

 その後、昨日と同じように別の何かが送られてくるような感覚…

 いや、三体だけあって昨日よりも強いな…

 送られてくるそれは…何もない、真っ黒な感覚で俺の心に触れる。

 その様子は空虚というか…感情が薄まった心の様子そのまんまだ。

 今…俺がその状態に陥ってるから分かる。


 でも、俺の状態とは違う。

 俺のは平常心がそのまま薄くなっただけだからな。

 強く憎むって事も、死に追い込まれてなお生きたいっていう様な状況ではない。

 で、これから感じられるのはぼんやりとした憎しみと、それよりも霞んでいる…生きるって意志だ。

 殆ど空虚で何もないけど…この二つは何とか感じ取れるほどには残っている。


 それも終わり、自由に動けるようになるとすぐにその場にへたり込む。

 それをみて、大丈夫か?と言わんばかりに肩に乗せてる人形がくいくいと髪を引っ張ってくる。



「大丈夫、休憩だっ…ってうお!」



 そう言うと他の三体は近寄ってきて…俺の体を登ってくる。

 別に驚く事でもないが…注意が散慢だったからか思わず驚いてしまった。

 で、合計四体の土人形は俺の肩やら頭やらに乗っかり、おとなしくなった。

 こう、垂れ下がるというかぶら下がるというか…そんな感じでだ。

 どうやらその体制でくつろぐつもりらしい。

 …休めるんだろうか?

 そう思っていたんだが結局、休憩が終わるまで彼らはそうやってじっとぶら下がっていた。




 で、その後もこの様な事が何度もあり、帰る頃には合計で17体もの土人形を連れ歩く事になっていたのだが…大丈夫だろうか?



 


 いつもご愛読ありがとうございます。

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