番外編その3:勇者来るシュルツ村・中編
「バーナーエッジ!」
「フレイムランス!」
勇者マルクの持っている剣が紅蓮の炎でその刀身を伸ばし、周囲の魔物に向けて薙ぎ払われる。
更にクレア第一王女の生み出す幾本もの炎の槍が魔物の身体を貫くべく飛んでいく。
この辺りを集落にしていた十数匹のゴブリン、ホブゴブリン達は纏めてその業火に焼かれ炭と化した。
普通の人ならこれだけの魔法を行使すれば魔力が枯渇しそうなものだが…
「ふぅ…呆気ないな。」
「そうねマルク、でも…」
「なに、化け物相手に油断はしないさ。」
当の本人達は辺り一帯を焼け野原にして尚、余裕そうな会話をしている。
「お疲れ様です。」
「さて、早くなさい。」
「あぁ、私達が待ちくたびれる前にな。」
「はい、分かりました。」
私が声をかけるとマルクとクレアはそう言ってここまで乗ってきた馬車に戻る。
それを見届けた後、私は村の人員を使ってその辺りの調査を行うべくに指示を出す。
まぁ事前に分担もしてるし、確認程度なんだけど。
「勇者様御一行のお陰でここの調査も順調に進むわ!
皆、頑張りましょう!」
「はい!」
心にもない事をさも感動したように仰々しく、村人達のやる気を出させるために大声でそう言う。
というのは建前で、実際は遠くで聞いている王女様の耳に届かせる為だ。
こういう事をやっておけば、大抵日が落ちるまで此処にいても向こうが文句を言うこともあまり無い。
まぁ扱いやすくていいわね。
勇者マルク達のパーティーに誘われてから数日、村の外での調査…という名の時間稼ぎは順調。
先日見つけた集落みたいな所を潰したり、安全の為に周囲にいる魔物を狩ったり。
ぶっちゃけやっている事は調査でなくて狩りよね。
しかも元凶でない奴らをいくら狩ったって何の意味も無いし!
まぁそれは、あれが自然災害でない事を私とザンギさんは確信してるから言える事なんだけど。
あと、あの魔物達を裏で操るなりして私達の村を襲わせた奴が居るだろうって事も…ね。
だって…魔法印なんて私達も知らない、いかにも高度そうな代物をたまたまオークやゴブリンみたいな知能の低い魔物が自然に体に彫り込んでって事、どう考えても有り得ないし!
そういえばあの魔法印とかいう代物、あれが刻まれていたオークファイターが倒れてから暫くして…消えたのよね。
私達と直接戦っていた人達は実際見ていたわけだしあった筈なんだけど、気がついたらなくなっていたの。
証拠まで完璧に消せるなんて、まさに厄介としか言い様がない代物よね。
とまぁそういう訳で調査自体は証拠も含めゼロから何の進展もない。
「そっちは何かあった?」
「いえ、概ね順調です!」
現在、私たちは先程戦っていた辺りにあった魔物の集落を探索している。
そして今やっているのは勇者達の狩り残しの処理や、襲いかかって来なかった魔物の処理だ。
ちなみに他の村人には私やザンギさんから、先の戦いは魔物の異常繁殖による生息圏の拡大が原因ではないかと説明している。
実際にこうやって魔物が人の生息圏に侵攻してくる理由はそれくらいしかないからね。
それだから、兵士達もその大半を狩ってくれてる勇者達に感謝しつつほぼ負傷者を出すことなく、安全に残りの魔物を討伐できるのだと喜んでいる。
ついでにその中で私だけはこんな事を出来る奴が痕跡を残して無いかと探していたりもするんだけど…そっちは一切見つからない。
そりゃ村一つ襲わせる奴がそんな間抜けな奴って事…無いわよね。
「さて、いい時間だし、ここら辺はもう十分でしょう!切り上げるわよ!」
人が居る手前、素直な感情表現が出来ないのは辛いわね。
そんな事を考えながら十分に成果が有ったと浮かれている様子を取り繕いながら兵士を率いて村に帰るのが最近の日常だ。
そして今日も今日とて成果はあったけど無いっていう状況を、そのまま酒場で浮かれる様に装いつつザンギさんに報告するわけ。
「おう!アンナの嬢ちゃん!今日はどうだった?」
「えぇ、いつも通りよ。アプ酒をお願い。」
「成る程な!」
何も飲み食いせずに出るのも周囲から怪しまれるので、カウンターに座り報告がてら適当に注文する。
お酒を頼んだのは完全に私の趣味だ。
少しでも何か分かればいいのだけれど…本当に何もないからね。
それを取り繕って誤魔化さなきゃならないんだから、こうやって募るストレスを少しでも発散させないとやってられないわ!
「あいよ!」
「ありがと、ザンギさん。」
そう言って渡されたグラスに一口。
アプルという、テツ曰くリンゴと言う果実に味がそっくりな果実の風味が口に広がる。
「こっちは悪い知らせだ。」
「…ん?」
今日の疲れをこの一杯で流そうとしてたけど…どうやらまだ厄介事は終わらないみたい。
グラスをカウンターに置き、耳を寄せる。
「あの勇者共が居なくなるまで隠しておきたかったが…」
「まさか…?」
「ウェンの旦那にテッシンが居たって事がバレた。」
「はぁ…」
まさかと思ったけど、これはこれで酷い状況ね…
勇者達にバレてないってだけでまだ良いけど、これじゃ私もお父様から色々と聞かれるじゃない!
そうやるせない気持ちになりながら、グラスに口を付ける。
「幸いにしてすぐに俺が呼ばれたんで事情は説明出来たんだが…」
「どこまで説明したの?」
「アンナ嬢ちゃんのお気に入りで、剣の振り方も知らなかった子供で、此処の住民にも概ね好印象で、村の皆と一緒に魔物を撃退…というか矢面に立って戦ってくれて、本人曰く黒髪ってだけで城から追い出された勇者で…」
「もういいわ、大体全部じゃない。」
「まぁそうなんだがな。」
ザンギさんの元々渋い顔が更に渋くなる。
「どうも旦那に根掘り葉掘り聞かれると、な。」
「そりゃそうかも知れないけど…」
一応ザンギさんはお父様が命を救ってというか助けてあげてる立場だしね。
今はこうして村の一員ではあるけど、恩があるから強くは出られない。
「でも最後は確実に余計よ。」
「うっ…!でもそりゃあ…」
「黒髪の悪魔だって言うのが気に入らないんでしょ?」
どうにもあの城から来た兵士含めて連中、一々悪魔だの化け物だのと五月蝿いのよね。
元々人種も何も気にしない人が集まった村なので、こうして騒ぐ連中には良い印象を抱かない。
というか黒髪は魔法が使えない象徴だってのに悪魔ってなによ、って話でもあるんだけど。
「一応俺達しか知らないアレの事は話してないから。」
「当然じゃない。」
そんな事をしたらいくらお父様でもテッシンを疑うと思うわ。
そもそもあの、テツの使う鑑定が名前からなんだかおかしいし…。
「俺の話だけじゃ納得出来てないと思うから、嬢ちゃんからも何か言ってやってくれ。」
「そうね、そうしておくわ。」
「あぁ、すまねぇな。」
お父様の事だからきっとその辺りは理解して、対策を考えているんでしょうけど…悪い予感しかしないわ。
そんな予感を押し殺す様に残りのアプ酒を流し込む。
「ふぅ、それじゃそろそろ行くわ。」
そう言って小銭をカウンターの上に置く。
「あぁ、気を付けてな!」
「言われなくても分かってるわよ!」
如何にも明るい感じの演技をしながら酒場から出て行く。
今の状況で、気が許せるのはザンギさんと会話している時だけだもの。
それもまぁ…あと一週間もあれば終わるかしら?
少しお酒で浮かれた気分を楽しみながら、軽い足取りで屋敷まで帰るのだった。
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