番外編その2:勇者来るシュルツ村・前編
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草原にはいつものように爽やかな風が流れている。
しかしそこに立つ者達の、いつものようになりつつあった環境は大きく変わる。
「行っちゃったわね…」
「何だか寂しくなるな…」
草原の彼方、地平線の向こうにすっかり彼の姿が消えるまで見送った後、アンナとザンギは互いに彼との別れを惜しみ、どこか寂しそうに呟く。
彼とは勿論、テッシンの事だ。
ふらっとこの村にまるで行き倒れのように流れ着いたのを見つけたのがたった数日前。
しかも正体は召喚された勇者の一人で、世界に来て間もないという年齢の割にはかなり小柄な少年。
そんな少年を気に入り、私はザンギさんと出来る限りの世界の常識を教え、また武器を取り戦った事の無い彼に戦いを見せ、剣の扱いを教えたりもした。
着実にそれらを物にする彼には…魔力が無く、誰でも使えるレベルの魔法さえ扱う事が出来なかったが、代わりにかなり珍しい能力…魔法をかき消せる力があった。
それに加えて元居た世界での知識か、野草を組み合わせた道具を扱う事で魔法が扱えないという彼自身の弱点をある程度克服してみせた。
この世界の人間なら魔法でも出来る事は大抵魔法で何とかしようとする。
着火の様な雑事から仕事、果ては魔物退治まで…とにかく何でもだ。
魔法で出来ない事は道具を使ったりもするが、それだって生活に困るレベルでしか魔法を使えない人間が人並みの生活を送れるようにする目的でしか使われないし。
また魔法には魔法で対抗できる訳で、だからこそ魔力の多く、それを使いこなせる人間が重宝される。
だからこそ、道具を使い何でもしようとする彼のその姿勢には素直に驚かされたりもした。
更に村の危機、オークファイターやランスバイソンといった魔物の襲撃の対応に巻き込んでしまった時も、この村の為に彼は協力し、今まで培ってきた力と知識を組み合わせ、勇気を持って彼らに挑み、そして討伐するに至った。
そんな彼と出会い、冗談を言ってからかい合ったり出来る程に打ち解ける中で時々彼が見せる弱さや彼自身の慎重さとまるで合わない間の抜けた所を見て、私にとって彼は、いつの間にか一緒に居て守ってあげたくなる弟分の様な存在になっていた。
しかしそのせいだろうか?戦いが終わった後の彼の様子を見て…後悔する事になったのは。
あの戦いで私に出来た事は最初に多数を殲滅した事と最後の止めを刺した事だけだ。
そんな中、苦戦していたあの戦いであの魔物だけでなく一人で凶暴な魔物に立ち向かい無事に生還はしたものの彼は糸の切れた人形の様になってしまった。
非常に短い時間だったが共に居てとても楽しかったと思える様な人がああなるのを見るのは、辛かった。
無事に意識が戻った時には思わず泣いてしまったりもしたし…
そんな彼との別れは確かに寂しかったけど、いつかまた会うときまでにもっと強くなろうという決心を私にくれた。
あの一件までは冒険に出たかったけど、今の自分では実力不足だと気づかされたし…
せめて次に彼と一緒に戦う時、隣に立てる程度にはね。
テッシンが居なくなった日の夕刻にお父様が帰ってきた。
当然城から兵士達を引き連れてきたし、その中には多分勇者も混じっているだろう。
「お父様、お帰りなさい。」
「アンナ!無事か!一体どうなっているのだ!?」
襲撃の報があったはずなのに普段と変わらない様相の村に兵士のみならずお父様も到着当初は困惑してたけど、無事に撃退出来た事を説明する。
当然テッシンの事は話さずに、魔物は私とザンギさんが撃退したって事にした。
テッシンの存在を勇者の前でいうのはやめた方がいいって言っていたし…そもそもふらっと来た旅人が魔物を倒した後すぐに旅立ったなんて言っても信じる人なんて居ないだろう。
そして私が前線に出て戦った事も説明するとやはりと言うか、お父様は怒っていた。
「何故救援を待たなかったのだ!また無茶して!」
「…ごめんなさい。」
数日前の私だったらきっと反発していた事だろう。
でも今は素直に謝罪の言葉が出てくる。
今までも心配しているっていうのは理解していたつもりだったけど…ボロボロになって帰って来るテッシンを見て、自分もその立場になって始めて気づかされた。
きっとお父様は私が思っていた以上に心配してたんだって。
「わ、分かったならいいんだ。」
素直に私が謝った事にお父様が少し狼狽えていた様子だったのにはちょっと傷ついたけど。
私ってそんなに言う事を聞かない子だって思われてたのかしら?
「さて、では今日はもう遅いから周囲の探索や魔物の処理は明日にしよう。」
「「はい!」」
到着した時間も遅かったので、説明している間にすっかり夜になってしまっていた。
お父様の指示で率いてきた兵達は部隊毎に村の前にキャンプを設営する。
それにこのまま何もせずに兵を城に返すのはこっちも向こうも立場がないという事だろう。
村自体に被害はないが倒した魔物の処理はあまりはかどっておらず困っていたところだ。
素材の剥ぎ取りや食肉加工など、そっちの方で人手が増えるのはとても助かる。
おまけに周辺の探索にも参加してくれるのだから暫くはこの村も安全だろう。
そんな事を考えながら野営準備している兵士達を眺めていると、ひと組の男女が近づいて来た。
以前城に行った時に見た覚えのある出で立ちに振る舞い…第一王女だ。
「お元気かしら?お嬢さん。」
「クレア王女様、ご機嫌麗しゅう。」
「いいわ、かしこまらなくても。」
「分かりました。」
そうは言われてもこの口調をやめるつもりはない。
彼女は噂以上に野心家でいて、かつプライドが高い。
下手に刺激するのは得策じゃないし、とにかく自分が上に立っていることを実感しないと気が済まない人間だ。
今もああは言ったが本当に僅かでも口調を変えようものなら目の敵の様に扱うだろう。
とにかく敬っていれば勝手に満足するので、基本は放置でいいのだからやりやすいのだけど。
「それはそうと、知っていまして?」
「何をでしょうか?」
「黒髪の悪魔、ですわよ。」
そう言われて、驚きを表情に出してしまった。
黒髪…明らかにテッシンの事でしょう。
しかし悪魔とはなんなのか、というか何故こんな話題を私に振るのか。
「その表情だと、予想通りこの村に訪れていたみたいね。」
「は、はい…」
予想通りとは、成る程…カマをかけたって訳ね。
…やってくれるじゃないの。
「確かに…数日前にこの村に黒髪の旅人が一人訪れました。」
「それで?そいつはどうしたのかしら?」
「結局その日中に居なくなりましたが、そのせいか村人達も気味悪がっていて…」
「そう、分かったわ。」
本当は彼の為にも来ていない事にしたかったのだけど、こうなった以上せめて時間稼ぎくらいはしてあげなきゃね。
「原因調査に行きたいのですが私共では実力不足を痛感致しまして、是非勇者様方のご協力お願いしたいのですが。」
「しょうがないわね、協力してあげるわ。」
二つ返事で引き受ける王女と、それに頷く勇者。
こうして下手に出ると機嫌を良くして引き受けてくれるとは…些かチョロ過ぎないかしら?
これも何かの作戦じゃなきゃいいけど…
何はともあれこれで時間稼ぎは出来そうね。
「それでは明日から、頑張りましょ。」
「はい、ありがとうございます。」
そして私は次の日から、暫定的だが勇者マルクのパーティに入れて貰う事になった。
一応前編って事にしてますが暫く後編はないです。
ある程度本編が進んだら間に入れておこうかなぁ…と考えてます。
あと次から新章突入です。
やっとこの小説を書き始めてから出したかったキャラが出せる…かも。
ご期待下さい。




