四十六話:国を越えて
広報紙に書かれていた事で勇者に関する物を纏めると大体こんな感じだ。
一つ、勇者が大量召喚された事へのこの世界危機への懸念。
二つ、近年増えつつある魔物被害を受けての勇者の他国遠征・交流の本格化。
三つ、また一部の問題のある勇者の行動による勇者全体の高い評価への疑問視。
四つ、勇者同士で殺し合うと勝った方は負けた方の力を奪うことが出来るという事が発見された。
五つ、勇者の活躍を否定する組織による勇者狩り…不意打ち騙し討ち何でも有りの大勢で勇者を襲い暴行を加えようとする行為が頻発。
なお名目は『世界を救うための試練』だそうだ。
…とまぁこんな感じに自分とは関係ない所で色々な事が有ったみたいだ。
俺の口から言わない限り勇者であることはバレないとは思うが、勇者であることがバレても碌な事にならない事が分かった。
他に書いて有った事は、まぁただの世界情勢だったので割愛する。
南方での食料事情改善だの通貨がどうだの新製品の宣伝だの…重要そうなものが無かったっていうのもあるけど。
さて、話は変わるが今自分は国境の町に来ている。
正確にはたった今町の馬車乗り場まで着いた所だ。
「やっと着いたぁ…っと。」
ここ数日、トーワの町から乗ってきた馬車から降りて今まで窮屈だった体を目一杯伸ばす。
馬車で移動している数日は、本当に何も無かった。
日中は馬車で移動して夜は宿で眠るだけだったからな。
早く着いたり、道中の休憩で馬車が止まった時は積極的に野草採取なんかもしたが、基本は手持ちの本や広報紙を何度も読み返しているくらいしかやる事が無かったからな。
おかげで本の知識と野草に至っては種も入手と潤沢に確保出来たけど。
これで長期滞在する場所で栽培も視野に入れられる。
「さて、行くか。」
国境こそあるものの来る人などそう居ない所なので乗り場も伽藍堂だ。
馬車も俺と積み荷が降りたらさっさと行ってしまう辺り、乗り場というより降り場が正しいかもな。
さっさと馬車乗り場から出て、国境を越えることにする。
幸いにまだ昼なので国境を越えて向こうで宿は取っても十分に間に合うだろうし。
歩きながら見る町並みは…メタリオルとは交流もないせいか非常に閑散とした雰囲気だ。
寂れてると言ってもいいかもしれない。
町を進んでいると道具屋を見つけたので一応雑貨と非常食の補充をしてリュックを肥やしておく。
ちょっと物価は高かったけど念の為にここで補充することにする。
それから暫く進むとあっという間に国境の検問所に着いた。
山を貫くトンネルの出口塞ぐように付近を木の門と柵で囲っており、そこに兵士が配置されている。
近くには詰所も一応あるみたいだが…一応出国手続きなんかもあるんだろうか?
「おい!そこの奴!何用だ!」
とか考えて近づいていたら、その兵士の一人に呼び止められた。
まぁフードで顔を隠してたら怪しまれるか?
そうは言ってもなぁ…どうしようか?
いい案は無いかと距離を開けたまま立ち止まり暫く考えた後、懐から冒険者ギルドのカードを取り出して見せる。
「冒険者だ。メタリオルに行きたい。」
「理由は何だ?」
「いい稼ぎになる話があると聞いたからだ。」
そう言うと門番をしていた兵士から失笑を貰う。
まぁ…それもそうだろう。
特産品が金属な国にこの世界の人間は魅力を感じないだろうし。
そもそもいい話なんてそうそう無いだろ。
あの兵士の目には騙されて向こうに行こうとしている馬鹿な冒険者なんだろう。
「まぁいいだろう、開けてやる。」
それでも毅然とした態度を取っていると、兵士が仲間に指示を出し木の門を開けさせる。
向こう側にはぼんやりとした光も見えないトンネルが続いていた。
長いトンネルだとは思っていたが、予想よりもはるかに長いな。
「後、ここは通すがこっちに戻って来ることは出来ないからな。」
「一方通行か?」
「この道は向こうからは商人以外は通行禁止だ。
ノーブル王国に戻ってくるには他国から迂回するくらいしか無いが、本当にいいのか?」
「あぁ、構わない。」
元より国外脱出と金属を手に入れることが目的だからな。
こっちに戻って来る事は考えなくていいだろ。
ぶっちゃけようやくスタート地点に立てるかなって感じだ。
俺が即答した事にちょっと訝しむ顔をしながらも納得したような様子は見せてくれた。
「…分かった、洞窟は暗いからこれを持っていくといい。」
そう言って差し出してきたのは一本の棒、火の点いていない松明だ。
なけなしの選別だがありがたく受け取っておこう。
…ぶっちゃけ買い忘れてたし。
「感謝する。」
そう言って受け取ると門を抜けてトンネルへと入っていく。
トンネルに入った頃合でギギギと大きな音が聞こえたので振り返ると、既に門が閉まっていた。
気を取り直して、さっき貰った松明に火を…点けずに真っ暗闇の中を進んでいく。
代わりに感知を使って地形は把握してるからつまづく心配もないしSPも枯渇する程消費もしないレベルなのでいいから問題も無い。
別に周囲の地形を確認する手段に明かりを使わなくてもいいだろ。
目を使わず、感知だけで進む気分はさながらコウモリにでもなったかのようだ。
たまにつまづきそうな出っ張りや凹みを避けて進んでいると、気が付けばゴールである出口の光が見え始める。
勿論一本道をちゃんと真っ直ぐ進んで来たので間違っても途中で引き返した、なんて事は無い。
浮かれているからってそんなポカをやらかすほど間抜けじゃないしな。
そしてそのまま感知を頼りにトンネルを抜けたのだが…
「おぉ…?」
そこに広がる光景に目を疑ってしまう。
だってそこには先程の国境の町なんて目じゃないほど寂れている町が映し出されていたのだから。
ノーブル王国は自然豊かな草原だったが山を一つ隔ててメタリオルはまるで荒野といった様相だ。
雨風を凌げる程度の家屋、かろうじて使えそうな井戸、剥き出しの地面、そこらを転がる草なんかはウエスタンな廃墟っていうか…ほぼ世紀末って感じだ。
そして、驚く程に周囲には人の気配がしない。
これがメタリオル、通称捨てられた大地なんかと言われる国を目の当たりにした瞬間だった。
松明「私の出番はもう少し後のようだな!」




