四十二話:錯乱
「チョワァァァァ!」
さて、どうしようか?
…とか思ったけど翌々考えたらこいつら別に倒さなくてもいいんだよな。
ヴァニラが横から回ってローランさんをオークから回収出来たらいいんだし。
そもそもそのための注意を引くって話だったしな。
って訳で奇声に近い声を上げながら吹き飛んでいったホブゴブリンに対して、あいつがさっきやってきた感じに勢いをつけて振り下ろしをかます。
ちなみに起き上がってこっちを確認したホブゴブリンは逃げようと背中を向けてたから今度は防御も出来ずに直で入った。
…というかこれ、またやってしまったんじゃないか?
そうは思うが致命傷になった感じの音がして、直視出来ない何かがまた出来てしまった。
そのまま何事も無かったかのように地面に潰れた何かを寝かしつけたけど、オークとケントの方を見たらお互いから冷たい視線を貰った。
倒れてる相手に酷い追い打ちをかけながら奇声を上げてたら…傍から見たら完全に変質者だよな。
まぁ…敵の視線は引けたし気にしちゃいられない。
「ケント、加勢するよ。」
「お、おう!」
さっきの事は無かった事にしてこっちの戦いに参戦しよう、そうしよう。
ついでにちゃっかり感知を使ってヴァニラの居場所を確認すると…大きく時計回りに進んでいて、今はオーク達の横辺りにいる。
関係ないが俺がホブゴブリンと戦っていたのは右側でヴァニラと反対の位置だ。
多分魔封じに巻き込まれて幻影魔法が解けるのを避けたんだろう。
後…ごく僅かな霊力なら大丈夫っぽかったけど、微妙にヴァニラのいる辺りに違和感というか輪郭がうっすらと見える。
これは感知も使ったら駄目だと考えたほうがいいな。
(左にいるから気をつけろよ。)
(…分かった。)
こっそりヴァニラのいる位置をケントに耳打ちしておく。
万が一にもそっちに避けてぶつかりました!なんて事はやって欲しくない。
それで、奥に居る一体は置いておいて、三体のオークを見ると傷こそあれど、どれも浅くて急所になんて届いてない。
俺が加勢した事を理解して警戒している辺り、連携が取れているな。
恐らくこの連携のせいでケントが上手く戦えていなかったんだろう。
「そっちの手負い一匹は任せるよ。」
「えっ…!」
とりあえず一番怪我の多い一匹を指さしながら行ったのだが、なんで驚いて意外そうな声を上げるんだ?
何はともあれこいつらを引き付けなきゃいけないんだから一匹くらいは相手にしてほしんだが…
というか連携さえ取れなきゃこいつら相手に十分に戦えるだろうに。
「残りは俺が足止めしとく!」
そう言って さっき奪ったホブゴブリンの赤い棍棒を構えながらオークに突撃する。
二刀流なんて器用な事は出来ないので剣は収めている。
接近すると向こうは三匹の中で一番傷ついたオーク…ケントに任せようとした奴が棍棒を構えながら前に出てくる。
やけに傷ついてるかと思ったけどこいつが盾、というか壁の役割をしていたみたいだ。
まずは防御、で残った二体の内一体で隙を作って最後が決める、か?
わかりやすくて助かる。
「だあぁぁぁ!…てぃ!」
今度は気合十分に一撃を食らわせる!…と思わせてからのフェイントだ。
案の定壁役のオークが衝撃に備えて防御に徹して生じた隙にもう一体が仕掛けて来ようとしてくるが、壁役の脇を抜けて仕掛けようとしてきた方の足を払うように棍棒を投げる。
元々俺の持ち物じゃないし、血まみれになった以上使い捨てにするつもりだったから丁度いい。
仕掛けてこようとして呆気に取られたオークは投げた棍棒に足を取られて足をもつれさせたのでそのまま追撃の足払い、流れる様に壁役の背後に回って後ろからタックルを繰り出してやる。
「はい!パス!」
突き飛ばした勢いそのままにケントの方に飛んでったので、後はケントに任せるとしよう。
何か狼狽えているような、驚いてるような声が聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。
後はすっ転んだ奴の手を踏んで、その手に持っていた棍棒を奪い取ろうと試みたのだが…中々手放さない。
ホブゴブリンの時も思ったけど、こいつらはそれ以上に堅い。
この堅さだと急所を叩かなきゃ駄目だろうけど、俺の体術じゃあこいつら脂肪に阻まれて急所まで十分に効かないと思う。
そんな事を考えながらゲシゲシ踏んでいたらもう一匹のオークが怒り狂った様にこっちに襲いかかってきた。
まぁ仲間が足蹴にされてたらそうなるだろうなぁ。
背後でも何か声が聞こえるが、ケントが上手く引きつけてくれてるようで一安心である。
レナの方もケントの支援に時々回ってるから、ほどなくして片付けられるだろう。
で、オークの横薙ぎの棍棒を懐に潜って避けた後、胴にカウンターで一発入れてみたがやはりあまり効いているようには見えない。
完全に力不足である。
顔とかを狙おうにも俺には高さが足りない、届かない。
ジャンプすれば届くけど…二体相手にしなきゃいけない以上、迂闊に飛ぶのは得策じゃない。
となると面倒だが武器で戦わなきゃいけないんだけど…既に今日で二度も魔物の血で濡れている。
切れ味に不安もある上にオークは堅いから切れるか微妙だし…さて、どうしようか?
急に奇声を上げながらあいつが乱入してきた時は何事かと本当に焦った。
おまけにゴブリンの頭を思いっきり潰しやがるし、あれを見せられた時はちょっと胃から何かこみ上げてきそうになった。
でも本人は何でもない様子で『ケント、加勢するよ。』なんて言うもんだから返事に困ってしまう。
そして感知だったか?を使ったのかヴァニラの位置まで把握してるし、言外にそっちに行くなと伝えてきやがる。
極めつけには、だ。
オークを二体引き付けるから一匹狩れなんて言いやがった!
俺たちはまだEランクだ。
実力的にはDランクの魔物が相手だと、一人で一匹と戦うのは避けるべきって言われてるんだ。
現に冒険者になりたての時は一人でオーク退治に行こうとしてギルドからこっ酷く叱られたし、先日はやっとこのパーティーでオークを狩ったくらいなんだ。
それを万全じゃない今、俺だけで一匹狩れなんて冗談じゃないし、さっきまで戦ってたこいつが二匹相手にするなんて正直無謀だと思う。
…なんて思っていたら止める間も無く、アイツは突撃していって…見事にオーク達を分断し、こっちに一匹よこしてきた!
「はい!パス!」
「うわぁ!?」
自分でも情けない声を上げてるなぁと思いながら体勢の崩れてオークを迎撃に掛かる。
まずは斬りかかるが相手も一応は防御してきた上に、皮膚の堅さもあってあまり有効打にならない。
このままこいつと一体一でやり合わなきゃいけないのか、なんて悲観的に思っていたら…戦っているオークの後ろからブゴブゴと呻き声のような声が聞こえる。
見ればテッシンの奴、オークを足蹴にしてやがる!
いくら魔物だからといってもいたぶる行為はどうかと思うが…それをすることによってもう一体のオークは怒ってるし、俺が相手にしている方も注意が引かれている。
…そういう作戦なのか?まぁいい。
「どこ見てんだおい!」
とりあえず注意散漫な目の前のオークにしっかりと剣に武器強化を掛けてから斬りかかる。
武器強化は威力が出るけどまだまだ俺の実力じゃ制御が難しいし、何より長時間の使用は武器に大きな負担になる。
冒険者の間でも慣れたら切りつける瞬間だったり、武器を打ち合わせる時に使うようにするのが一般的だ。
ただ…冒険者の中でも有名な剛豹と呼ばれてた獣人なんかは武器強化だけでなく防具強化も常時使いっぱなしだったなんて聞いた。
実際に本人を見たことはないけど正直、憧れている人物だ。
…と思考が逸れたな。
とにかく今回は相手が目の前でよそ見なんてかましてくれてるからな、全力で斬りかかれる。
いつもなら安全の為に一旦相手と距離を取ったり、誰かに隙を作って貰って使っているけど…それでも使い始めてから斬りかかるまでに魔力が散って威力が下がるんだけど、今回はそれがない。
魔力が持っていかれる時の、力が抜けるような感覚を堪えて繰り出した俺の本来の威力の武器強化は棍棒ごとオークの片腕も切り飛ばす。
武器と腕を失ったオークなんて、すでに俺達の敵じゃない。
レナからの援護を貰いながら隙を見ては攻めていけばすぐにオークは地面に倒れてそのまま動かなくなった。
喜んだのも一瞬で、まだ戦っているであろうテッシンの事を思い出す。
倒れたオークの先を見れば…二体のオークの攻撃を余裕そうに躱し、隙あらば反撃を繰り出しているテッシンの姿があった。
…繰り出される攻撃を華麗に躱しながら剣でオークの体を切りつけて、更に追撃で腕に蹴りを加えて武器まで奪おうとしてやがる。
そしてかなりアクロバティックに動いているにも関わらず、あのフードがめくれる事はない。
それにしてもアイツは頑なにフードは取ろうとしないが…何か理由でもあるのか?
…この依頼が終わったら聞いてみるか。
何はともあれ、向こうに加勢に行かなきゃな!
さて、この二体を引きつけ始めてから結構経った。
こいつらの大ぶりに振られる棍棒を避けながら剣でチクチクと突き、隙があれば腕を叩き握力を弱める。
おかげで自慢の怪力は見る影もなく割と満身創痍だが、それでも何故か意地でも棍棒を手放しはしない。
まぁそれはどうでもいいか?
というか如何に突き刺したら折れそうな剣で倒すかって事ばかり考えてたけど、さっき出発前に貰った白尖の短剣を使えばいいって事に遅まきながら気づいた。
それこそどうでもいい事だな。
で、戦いながらちょっと余裕があったのでここに来るまで辿ってきた魔力の事について考えていた。
そもそもローランさんを見つけられたのは感知で魔力の道を辿ってきたからだけど、感知してきた魔力の道には魔物が群がっているような状況だった。
しかも俺たちと同じく道を辿ってきた感じでだ。
今は感知が使えないから分からないが…これがローランさんが原因だとしたら連れて帰るのも一苦労しそうである。
なんたって逃げてもこっちの居場所がバレるって事なんだから。
何とかしてローランさんとあの魔力の関係を明かさなきゃいけない。
まぁそういう事を考えてる内に当初の予定通りヴァニラがオークの背後をとったみたいだ。
脳天にスカッと一発いい当たりが決まり、オークがぶっ倒れる。
ただ、頭部が変形してないから倒したのかよく分からない。
いや、ああなるのは俺が毎回力を込めすぎるだけで…普通はこうなるよな、うん。
そして肩から担がれてたローランさんが滑り落ちたのをヴァニラが受け止める。
そのまま肩を貸して運ぼうとしてるんだけど…何故かヴァニラから逃げるようにジタバタと暴れている。
「い…いや…ぁ…いや……」
「ちょっと!暴れないで下さい!」
あ、なんか錯乱してるっぽいな。
なんとか説得しようとしてるみたいだけど、抵抗が強いのか上手くいってないみたいだ。
しかもモタモタしてる間にこっちで引きつけていたオーク達の注意が向き始めてる。
更にさっき倒れたオークはただ気絶してただけみたいで、頭を抱えながら普通に起き上がってきた。
…こりゃちょっとまずいかも知れない。
「テッシン!大丈夫か!」
そこにちょうど良くオークを片付けたケントがやって来た。
本当にすごくいいタイミングでの登場…こいつ本当は勇者かなんかじゃないだろうか?
…何はともあれ今のケントでもこんだけ弱らせたオーク二匹なら楽勝だろう。
「ケント!任せた!」
それだけ言うとオーク達は引きつけているのを止めて全力で走り出す。
また後ろで何か言ってた気がするけど今はそれどころじゃない!
急いで駆け出しながら前を見れば、オークが二人を追っていて…ヴァニラの方もローランさんを連れてもなんとか隠れて進んだ方から逃げようとしてるけど、ローランさんが抵抗して暴れたのに足をもつれさせて二人共転んでしまった。
「痛っ!」
「うぅ……や………いやぁ…」
何とか二人共起き上がろうとしてるけど、そこに先にオークが追いつく。
で…そのまま動けない二人の内、ヴァニラの方に棍棒を振りかぶり…
「させるかぁ!」
振り下ろされないように、気合と共に走った分の勢いを付けたタックルをかます。
ぶつかった瞬間に重たい衝撃が身体に伝わってきて逆に吹き飛ばされそうになるが…何とか踏ん張り、勢いよくオークを弾き飛ばす。
体は痛むし衝撃で何だか頭もクラクラするが、何とか間に合ってよかった。
もし間に合わなかったらと思うと…ちょっとゾッとするな。
昨日今日の付き合いだけど、それでも人死には見たくないもんだ。
「ヴァニラ、大丈夫?」
「…え、あぁはい!」
転んでいたヴァニラに手を取り立ち上がらせる。
普段なら立ち上がれると思ってやらないけど、つい手を差し出してしまった。
頭に衝撃がきたせいかちょっと判断力が低下してるような気がしないでもない。
何だか頭も軽いしな。
「にげ…なきゃ……」
隣を見ると呻くような声でそう言いながら…地面を這うようにして逃げようとしているローランさんの姿が映る。
よく見れば体中土で汚れてるし、枝に引っ掛けたり魔物に襲われた時に破けたのだろう…ドレスは何とか形は保っているが袖や端々はボロ布みたいになってる。
こうなるまで必死に魔物から逃げおおせたってのは月並みな感想だが…本当にすごいと思うし、生きてくれていて本当に良かったとも思う。
ただ、今はその執念は邪魔なんだよな。
…十分に落ち着かせる時間もないし、しょうがない。
「よいしょ…っと。」
ローランさんを抱き抱え、オークがやっていたように肩に担ぐ。
これなら片手も空くし、俺のSTRなら人一人なら余裕で運べる上に暴れられても問題ないはずだ。
非常事態なのでローランさんにも我慢してもらおう。
「それじゃ撤退しよう!」
「テッシンさん、あの…」
「今は逃げよう!早く!」
「あ、はい!」
何か言いたげなヴァニラだが…今は後回しだ。
俺たちはケント達の方向に走っていった。
~おまけ~
一方その頃…
剛豹と呼ばれてた獣人「ヘックシ!」
緑の髪の少女「なによ、風邪?」
剛豹と呼ばれてた獣人「誰かが噂してるんじゃねぇか?ガハハ!」
緑の髪の少女「相変わらずね、全く。」
…一体彼は何ギなのか?




