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魔法がある異世界を魔力無しで生きるには  作者: リケル
第一章 冒険者になる勇者
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番外編その1:変わる時

今回色々なキャラの視点をできるだけ三人称視点から書いたり短編が集まったような感じになってます。


 

 ノーブル王国第二王女、ラルは多大な喪失感に見舞われながらぼんやりと…ただぼんやりと窓の外を見つめてボソリと一言。


「テッシン…」


 自分が召喚した勇者の名を呟き、あの日起こったことを再び思い出す。




 テッシンと冒険に行くと約束した次の日、お城は大変な騒ぎになっていた。

 

(一体何があったのでしょうか…?)


 近々お城の外に外出もとい冒険の旅に出られるかも知れないとちょっと浮かれ気味だったラルは好奇心から、何があったのか聞いてみるが当然、答えてくれる人など居なかった。

 と言うのもその原因は彼女が召喚した黒髪の勇者なのだから。

 そして理由が分からぬまま普段は呼び出される事など無いラルがその日玉座の間に呼び出され、国王からこう告げられた。


「昨日お前が呼び出した勇者、テッシンは城から何の前触れもなく忽然と姿を消した。」


 彼女は一瞬、何を言っているのか解らなかった。

 いや、理解したくなかったというのが正しいかも知れない。

 殆ど初対面である自分の為に怒り、誰かの為に剣を振るって戦える優しかった彼が、一緒に頑張ろうと約束したあの人が、異世界から召喚された勇者が何故人を騙し、忽然と姿を消すか理解できなかったからだ。

 真っ白になった思考に追い打ちを掛けるように、王は聞いた。


「何か心当たりはないか?昨日は何を話していたのだ?」


 勿論わかるわけが無いラルは首を横に振る。

 そして聞かれるがままに、昨日あった事を全て話してしまう。

 彼が王の事を快く思って居なかった事。

 冒険者になって旅をしようと約束した事。

 そして、彼はステータスを見た時に魔力…MPは一切無かったと話した事を。

 それらを聞くと王は未だに事態を受け止められないラルを丁重に下がらせた。

 この時、王の傍に控えていたマルクも静かに獰猛な笑みを浮かべていたのだが…ラルはそんな事には気づく余裕など無かった。

 彼は獰猛な笑みの裏で一人ほくそ笑む。

 そう遠くない未来、始まるであろうひと握りの栄光を手にするための戦いの…邪魔なライバル候補が一人減ったと。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 マルクは人一倍高いプライドと周囲からの賞賛欲求を持ち合わせ、己の野心の為なら手段を厭わないという強引さを神の一柱に見込まれてこの世界に召喚された。

 しかし、彼が召喚に携わった神は鉄信の女神程、何かを語る事はしなかった。

 ただ機械的に御前に呼び出して力を与え、ロスクに放り出した。

 そしてマルクは何も分からぬまま世界を渡る際に力を渡され、奇しくも彼と同じく強い野心家のクレアの元に召喚されたのだ。

 その後、彼はこの世界についてとと言葉を教えられ、一般常識を学んでいった。

 そしてその中で、彼は召喚された意味を含めて理解する。

 この破滅は来る世界で、それを防ぐのはどれほどの偉業であるかを。

 歴史に語り継がれる勇者の名を見て、どれほどまで英雄は後世まで語り継いで褒め称えられるだろうかを。

 それを成した時、自分はそうされる立場になるであろうと理解した時は思わず天へと…何者かも分からない、ただちらりと一目見た神へ深く感謝の念を捧げた。

 なんて素晴らしい世界に自分を(いざな)ってくれたんだろう、と。

 また、理解したと同時に悟る。

 自分のこの心をこれ以上に満たすものは元居た世界にもこの世界にも存在しないだろうと。

 そう考えてからはやることは決まった。

 まずどんな逆境をも覆せるように己を鍛え、それと並行して知識を身に付け、更に周りからの信頼を得ることに励んだ。

 幸いな事に召喚されたノーブル王国はこの世界ではステレオタイプと呼ぶべき、強力な魔法を扱えるものが優遇される国家だ。

 彼は勇者として授けられたばかりの自身もよく知らない力を生来持ち合わせていたかのように振る舞い、魔法を容易く扱かってみせた。

 周りに改めて己が勇者であること、そしてその格を見せつけた訳である。

 そんな彼をこの国が軽視するはずもなく、彼は自己研鑽に励むには最高の環境を与えられた。

 そんな絶好調の彼だったがある日、いつもの様に鍛錬をしている時に…もう一人の勇者が召喚される事を知る。

 当然彼はそのような事をするとは聞かされてはおらず、何故自分がいるのに再び勇者を召喚するような事をするのか?と王に問い詰めた。

 それを聞いた王は悪い笑みを浮かべながら、彼にこう話した。

 「我が国の暴走姫の良い利用法だと思ってな。」と。

 納得できないながらも王の心の内をマルクは悟り、渋々頷くしか無かった。

 しかしその事が彼に大きな危機感を募らせ、また大きすぎる野心と賞賛欲求は同じ勇者を蹴落とす方向へと彼自身を導いていった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 それから幾日も無く、ノーブル王国にもう一人の勇者が召喚される日がやって来た。

 今回の主役であった第二王女は儀式本番に誰の協力も得ず、自身のその膨大な魔力をもって召喚させる事になっていた。

 召喚に誰の協力も得られなかったのは単に疎まれていたからだけでは無く、 第一王女クレアの勇者召喚の際に城の魔力ある者の多くが力を貸した為、単純に協力出来る程の人材がいなかったのだ。

 伝承の中には無いが、一度召喚の儀式に力を貸した者は別の召喚に力を貸してはいけないという掟があるからだ。

 これは過去に幾人もの勇者を召喚しようと企んだ国家があり、その時の計画の中心となっていたその国の第三王子が一回目の設備と人材を二回目の召喚の際に流用した結果、魔力の暴走が起こり儀式を行った場所から半径数十メートルに渡り人も建物も跡形もなく吹き飛ばしたという記録が残されているからだ。

今回はそれに習い、魔力が暴走しても比較的安全な以前とは別の場所で行われる事になった。

 直接召喚に携わるラルを除いて誰もが遠巻きに見守る中で行われたそれは、大方の予想を裏切る形の結果を残すことになった。

 魔法陣が前回とは異なり太陽や月の如く眩い輝きを放ったからだ。

 それには見学しに来た一端の兵士だけでなくこの国の王であったロベルトも息を飲んで成り行きを見守る事になる。

 そして魔法陣から放たれる光は次第に集まっていき大きな光球になった後、徐々に形を変えていき…

 浮かんだ光球が形を変え、その輝きがなくなるのと同時に魔法陣の上に一人の少年が横たっていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 王は既にこの国の第二王女である…ラル・ノーブルには一切の期待などして居らず、寧ろ王家の面汚しだとさえ思っていた。

 生まれた頃から魔力は凡人にはいくらレベルを積もうとも到底至れぬ量をその身に宿しているのに、その扱いは赤子の頃から一切の進歩が無く、嫁がせるにしてもそのような相手を引き取る相手などどこにも居ない。

 むしろ何故彼女が出生からもうすぐ十五年、重犯罪者に魔法を使わせない様にその身に着けさせる金属の腕輪を嵌めて尚、魔力が暴走するにも関わらず今日に至るまで自身の暴走する魔力で命を落とさなかったのか不思議でならなかった。

 そんな折、待望の勇者召喚を第一王女クレア・ノーブルが成功させた。

 伝承通りに、昼と夜が交差する逢魔ヶ刻、城の一角にそびえる天高き塔の上で広大な魔法陣を特殊な塗料で描き、召喚主であるクレアと召喚の儀式に参加させた城の兵士達を魔力枯渇状態に陥らせる程多大な魔力とを支払って…だ。

 王は大いに喜び、その娘を褒め称えた。

 肝心の勇者の方もその力を遺憾無く発揮し、順調に育っていた。

 しかしある日、とある噂が王の耳に入る。

 それは多数の国で行われてきたこの勇者召喚の伝承に付け加えられた新たな噂。

 曰く、魔法陣と時刻等、手順さえ間違ってさえいなければおおよそ召喚は成功し、勇者の質は注ぐ魔力の大小で決まる、と。

 ここで王はもう一人の娘ラルの事を思い出し、稲妻が走るような衝撃と共にある事を思いついた。

 『噂の真偽を確かめるという名目で彼女にもこの儀式をさせればいいのではないか?』と。

 成功させればそのまま勇者と共に旅にでも出してやれば良い。

 失敗したとしても元々、政略結婚にさえ使えないのだから痛手にはならない。

 むしろ王にとって彼女が命を落とすような事態になれば御の字だと言う程に彼女の評価は低かった。

 これが厄介払いのいい機会になるのではないか…そのくらいの感覚であった。

 そうして進めていた計画だったが、勇者召喚に成功をした直後から音を立てて崩れ去る事になる。

 見た目は髪も目も、服さえも黒、更には服装に金属と思われる装飾をあしらっているというおおよそ伝承とかけ離れた勇者らしからぬ勇者、テッシンはその見た目に反して謁見の際にその異質な力を見せつけた。

 王の目から見ても、魔力こそ扱いに慣れていないものの彼の魔法を打ち消す魔法は厄介払いをするのにとても魅力的だった。

 しかしその夜には一人のメイドが聞いたという、(テッシン)にはMPが無いという話が耳に入り、王は困惑することになる。

 ではあれは一体何であったのか?

 その疑問を解決すべく、同じくその噂を聞きつけ王の元へ真偽を確認し駆けつけたマルクにこれ幸いにとテッシンを連れてくるように命じた。

 しかしその数分後に新たな勇者テッシンが何故か忽然と姿を消していたことを知り、あまりに唐突な事もあって王はしばしの間唖然とする。

 結局その後、王は一夜中テッシンを探させたが彼が見つかることはなかった。

 仕方なくあくる日、ラルを謁見の間に呼び出して事情を聞いたが彼女も思い当たる節はないという。

 何か手掛かりは無いかと根掘り葉掘り聞いた所で彼女の口から昨日聞いた事が真実であると裏付ける内容が出てきた。


『やはり出来損ないは出来損ないであったか。』


 あらかた聞き終えた後、テッシンが居なくなった事を知ってから表面上では平静は保っているものの激しく動揺しているラルを下がらせてから深いため息と共に独り言が口から漏れる。

 未だ彼についての疑問は解けないが、それでも魔力が無いというのなら彼に勇者としての価値など見出すことが王には出来なかった。

 勇者が無事に召喚された瞬間はどうにかして厄介払いが出来ると思っていたのだが、その勇者が露と消え、加えてもう一度儀式を行い別の勇者を呼び出す事が出来ない以上、彼女はいつ魔力の暴走をするか分からない爆弾のような存在に戻ってしまう。

 それから城下町に兵を出して目撃者が居ないか探していたが、依然として彼らしき人物を見たという者は見つかって居らず、どうにかして彼女を追い出す口実が見つからないまま時間だけが漠然と過ぎていく。

 彼女の扱いに困り果て、いっそ城から追い出した方がいいのでは?などという考えがチラツキ始めたロベルト王であったが、唐突にその心配をする必要が無くなる事になった。

 他ならぬもう一人の勇者の手によって。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 何が起こったのかを受け止める事ができた頃には、彼女の心には大きな喪失感が漂い始めていた。

 ただ『裏切られた』事が彼女の心を針で刺すように痛め続ける。

 何故彼はあの日、約束を破り黙っていなくなってしまったのか…その理由をひたすらに求め続ける。

 自分はこのまま城に軟禁され続けるのだろうか?

 あの日から既に三週間近くが経っているが、相変わらず何もする気が起きずただ自室の窓からボンヤリと外を眺めていた。

 しかし、そんな日常にも変化があった。

 こちらが呼ばない限り誰も訪れない自身の部屋にメイドがやってくる。


「ラル…様、王がお呼びです。」


「…はい。」


 彼女は外の景色を眺めるのを止めて、そのままメイドに謁見の間まで連れて行かれる。

 そしてその日からいつもの日常が終わりを告げ、彼女の生活は大きく変わることになる。

 姉の召喚した、他ならぬもう一人の勇者の手によって。




ちょっとだけ書いてて気になったんで補足。


魔法印→事前に魔力を溜め込んでおき、使いたい時にその魔力を開放して特定の効果を得るもの。使うのに特に制約はかからない。


魔法陣→あらかじめ紋様を描いておくだけで、使う時にその都度魔力を流し込んで特定の効果を得るもの。ただし使用する際に何かしら条件があるものも存在する。


前者は百均の乾電池で動くモーターの扇風機、後者は市販の首振り扇風機とか考えたらいいんじゃないかな?


番外編にしてますが、これも本編になるかも。

時系列がずれてたり、テツがあまり関わらない所は一応番外編って事で。

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