三十九話:手掛かり
今回、戦闘シーンが有り。注意されたし。
森に入ってからおよそ一時間程度は経過しただろうか?
自分とテリア隊の五人は柔らかい草を踏みしめながら隊列を組んで歩いている。
まぁ隊列と言っても音で索敵を担当するヴァニラを前に俺とケントがその後ろ、レイモンとレナが更にその後ろって感じで歩くだけなんだけどな。
基本的に耳の良いヴァニラが周囲の音を拾いつつ、他四人は周囲を目視で確認しつつ何かしら痕跡を探すっていう形だ。
戦闘陣形はまた違う形になるのだが…まぁ自分とケントは基本的に前に出ればいいだけなので問題ない。
しかしこの森のどこに対象が居るかも分からない上に、そもそも地面には道という道も無く非常に歩きづらい。
更に木々が日光を遮るので若干薄暗いのだから探索しづらいことこの上ない。
「ヴァニラ、何か反応は?」
このセリフも既に何回か聞いた。
レナとレイモンが時々ヴァニラに聞くからな。
この森の大きさと自分たちの進む速度を考えても既に結構探索していると思うのだが…
「えと…まだ遠くですが、複数の足音が聞こえます。」
「複数…ゴブリンかしら?」
どうやら今回は違ったようだ。
この後に返ってくるセリフは決まって「いえ、何も…」であったのでこれは期待できるかも知れないとちょっと心躍る。
「えと…争っている様な感じではないです。」
「これは、当たりか?」
「どこかに真っ直ぐ進んでいるみたいですけど…」
「とりあえず向かいましょ。」
「もし魔物なら倒せばいいしな。」
魔物じゃ無ければそのまま町まで帰れば良いしな。
あわよくばこのまま見つかってくれないかな~、なんて思いつつこのまま音のする方向に向かう。
そしてそこからしばらく歩いた後、今までより懸命に動いていたヴァニラの耳が突然だら~んとたれ下がる。
何となく理由はわかるのだが、一応聞いておくか。
「どうしたの?」
「すいません、皆さん。」
「その様子じゃあ魔物だったか?」
「…はい。」
「まぁ、しょうがないわね。」
「じゃあさっさと狩ろうぜ!さっきから退屈で死にそうだ!」
若干意気消沈するメンバーを余所に一名、血が騒ぐと言わんばかりに帯びている剣を抜き放つ。
ってか退屈って…こいつは何か痕跡とか探してなかったのか?
それと急に剣を抜くなよ、危ないなぁ…
「やっぱりそうなるわよね。」
「確かに魔物を放置しても良い事はないな。」
「だろ!レイモン!ヴァニラはどうだ?」
「多分ゴブリンだと思うから大丈夫だと思うけど、無茶は駄目だよ?」
「なら楽勝だろ!なぁ…テッシン?」
思いのほか全員そこまで反対している様子はない。
何体いるのかはわからないけど、それなりの報酬にはなるだろうし、それに…
「連携の確認もしたいし、賛成だよ。」
ここまで口頭で役割分担は決めたが、実際にそれを上手く自分がこなす事が出来るか…ちょっと不安だったりする。
一回どこかで戦って、実際にどう動けばいいか確認しておきたい。
勿論、手を抜くつもりはないけど、仲間が居るなら普段より労力も減るだろうしな。
「よし!じゃあ行こうぜ!」
ケントのその言葉に全員頷いて、そのまま音のするという方向へ進む。
鬱蒼と茂った木々が邪魔で視界が無かったと思っていたが…結構近くにいたみたいですぐに見つかった。
数は…パッと見て10、一人二体の計算だ。
背後から接近しているのでまだ気づかれては居ないのは幸いなのだろうけど、ただ何かを探すようにキョロキョロと周囲を見渡しながら進んでいる辺り、あいつらも警戒している。
「よし、先制攻撃だ!」
「任せなさい!」
こんな放ってはおいたら厄介な事になる、何とか討伐しなきゃな。
三人が武器を構え、レナは意識を集中して魔法を発動させ始めるのに一拍遅れて自分も木剣を抜く。
「いくわよ!」
十数秒後、準備が終わったのかレナが手のひらをゴブリンの群れに向け、風の刃が10枚、曲線軌道を描きながら飛んでいく。
十枚中六枚が複数体のゴブリンの体を傷つけ、内一体は首を刎ね飛ばされる。
ちなみに当たらなかった三枚は軌道上の木を抉って消え、もう一枚はどこか…明後日の方向に飛んでいった。
「上々ね!」
「よし、行くぞ!」
「…了解!」
言いたいことは多々あるが、とりあえず目の前の敵に集中しよう。
ゴブリンに突撃するケントに遅れないように俺とレイモンが続く。
「「ギギ!?」」
突然の敵襲にゴブリン全員、驚いているみたいだ。
確かに背後から奇襲したけど、少しは警戒してたんじゃないのか?
まるで…予想外です、と言っているみたいだな。
「うおりゃあぁぁぁ!」
ケントが一番近くに居た傷ついたゴブリンに突っ込んで剣を払い、無理やり三体ほど吹き飛ばす。
そこに反応の素早い一体が、隙が出来たと襲いかかるが、すかさずレイモンがフォローに入る…と言うかケントの後方から飛び出て普通にゴブリンを突き刺した。
ナイスフォローだと思うけど…中衛がいなくなってしまった。
後衛と分断される可能性があるけど、まぁ後ろに敵を通すつもりはないし大丈夫だろう。
ちなみに俺は残った5体のゴブリンの前に出て牽制をしている。
奇襲のおかげで傷ついた奴もいるけどどれも深い傷は無く、戦意を失っている様子はない。
…流石に数が多いからかこいつらに近づいた辺りからこう、自分の中でピンと空気が張り詰めて感じがする。
ここで怪我をしても洒落にならないな、惜しまず感知は使おう。
範囲は狭く、その分精度はどこに何が居るか、はっきりとわかるくらいに上げてある。
…で、感知を展開して分かったのは、ケントは吹き飛ばした三体の追撃に向かっており、レイモンはケントと俺の中間くらいの位置でどちらかが包囲されない様に牽制しているという事、あとは森の魔力が町や草原よりもちょっと濃いのかヌメっとした魔力が漂っている事くらいか。
俺の中でケントのただでさえ低い評価が更に下がり、レイモンの高い評価が大きく上がっていく。
「ケント!戻ってこい!」
レイモンが指示するが、ケントが追撃から戻る気配はない。
それに気づいたのか五体のゴブリンは俺一人に狙いを定めて襲いかかって来るわけで…
「ガガ!」
手前の一体が高く飛び上がり、手に持った石の手斧を振り下ろしてくる。
更に、そいつを目で追っていると死角になるであろう下から二体、仕掛けてくるのが感知で分かる。
…俺たちより連携が上手いのは何となく悔しい。
「テッシン!」
「大丈夫!」
レイモンの警告に軽く応じつつ飛び上がったゴブリンの一撃を避けてから力を込めて蹴り飛ばし、下から突撃してきている2体の内の一体に当てて動きを止めて、残りの一体の攻撃を剣で弾きつつ拳を胸に叩き込む。
殴り飛ばしたゴブリンは他のゴブリンの近くに落ち、相変わらず胸を凹んだ形に変形させている。
ちなみに蹴った方は既に事切れていて、その下敷きになっている奴は必死にもがいている。
普通の人だったらこの連携に引っかかったかもしれないが、感知が使える相手ならご覧の通りだ。
「テッシン!レイモン!」
声と共に後方から魔力の反応…拳大の火の玉が飛んできて、今まさにこちらに突っ込んで来ようとしていた奴に着弾、そのまま黒焦げに焼きつつ近くにいたもう一体を怯ませる。
「だりゃああぁ!」
そこに先ほど吹き飛ばした三体を仕留めたのか戻ってきたケントが突撃してきて力任せに剣を振るい深々と切りつける。
次々に仲間が倒れていく光景を見て勝ち目が無いと悟ったのか、下敷きになっていた最後の一体は逃走を図ろうとするが…
「てい!」
いつの間にか戦闘中に横に回り込んでいたヴァニラが最後の一体の脳天に棍を振り下ろす。
まぁ、俺は感知で気づいてたけどさ。
しかし…メキリ、といい音を立ててゴブリンの頭部が陥没してそのまま動かなくなる光景は、ちょっとグロイな。
せめて中の物が飛び出してスプラッタな光景を見なかったのは幸いだな。と考えていたら、戦闘が終わったことを確認しに後方に居たレナが歩いてくる。
で、いつまでも感知を展開し続けるのも疲れるので、俺も感知を切る。
「さて、終わったわね。」
「討伐部位を取らなきゃな。」
「それは任せなさい!…ヴァニラに。」
「はいは~い!」
ってな感じで二つ返事で討伐部位の耳を集め始めるヴァニラ。
他人任せかよ!と突っ込みたかったけど、割とヴァニラが乗り気で集ま始めた手前、何も言えなくなってしまう。
…ヴァニラの立ち位置とキャラが良く分からないな。
「じゃあそれが終わるまでちょっと休憩しようぜ!」
そして一方でその場で腰を下ろして休み始めるケント。
なんかコイツ、プライド高いとか思ってたけどどちらかというとフリーダムなんだよなぁ。
最初絡んできた時は面倒だな~と思ってたけど、今じゃ割と普通だし。
「ケント、またアンタ怪我してるじゃない!」
「こんなのかすり傷だって!ほっときゃ治るって!」
「良くないでしょ!」
と言ってレナは治癒魔法を…いや魔力の量から手当魔法か?を使って手当を始める。
しかし思ったよりレナの魔法、威力と精度が低いな…
普通ならこんなものなのか?アンナの有能さがよく分かるな。
とケントの治療シーンを見ながら考えていたら、部位回収をしていたヴァニラが「ひっ!」と驚きの声を上げる。
振り向くと先ほどの戦闘で自分が変形させてしまったゴブリンの傍で尻餅をついていた。
「ちょ…これテッシンさんがやったんですか?」
「あれ?仕留め損なってた?」
「そうじゃなくて!これ、武器か何かで…?」
「いや、素手だけど?」
ステータスが上がったせいか、ゴブリン自体はあまり頑丈に感じないし、下手に長い物を振り回すより殴ったり蹴ったりした方が戦いやすいんだよな。
殴った感触は気持ち悪いの一言だけど。
…と言うか習い始めて数日程度の剣術なんてまともに役に立つわけが無いし。
かろうじて天閃を必死に練習して実践で使えるようにしたけど…いっその事力任せに棍棒でも振り回してたほうが強力かも知れないと思ってる。
「ひえぇ…」
「ゴブリンを殴り殺すって、オーク並みの怪力じゃないの…」
「それだけの力を出せるとは…頼もしいな。」
「昨日のあれは…加減されていたとでも言うのか…?」
ケント、酒場の殴り合いなんかで全力出したら危険だろ!死人が出るぞ?
絡んで殴りかかってくるのも十分危険だけど。
それと、皆が俺を不思議な目で見てくる…なんでだ?
「さて、ここらに何か手掛かりはないかな?」
何となく四人の視線から逃れるように、周囲に手がかりになりそうな物がないか探し始めるが、戦闘もあって周囲には多少抉れた木があるくらいで、特に変わった所は見当たらない。
だが、ちょっと戦闘をした所から離れた所で、何となく違和感を感じる。
寧ろ…さっきまでいた場所に違和感があると言った方が正しいだろうか?
その直感に従い先ほど切った感知を、もう一度だけ展開してみる。
ただ、今度は範囲を出来る限り広く、その分精度は魔力の流れが分かる程度に落としてある。
「テッシン!剥ぎ取り終わりましたよ!」
ヴァニラの呼びかけにも応じず、周囲の感知に専念する。
研ぎ澄ませた意識の中で広く薄く伸ばした感知が、何となく感じていた違和感の正体を捉える。
そしてその後、しばらく感知を展開した後に一つの確信を持って四人の所に戻る。
ちょっと疲れていたのか四人とも集まって柔らかい草の上に座り、休んでいる。
「どうしたんだ?テッシン。」
そこからちょっと心配そうに声を掛けてくるレイモン。
まぁしばらく棒立ちで突っ立てたら心配くらいされるか。
特に疲れは感じてないけど俺も四人の傍に座ってから口を開く。
「あぁ、ゴブリンの進もうとしてた方向に何かあるんじゃないかなって…」
「で?感知でも使ってたって訳?」
「うん、この森の魔力と違う魔力が漂って道みたいになってる。恐らく…」
「居るかも知れないってことか?」
「う、うん。」
素早く反応したのがケントなのに一瞬驚きつつも、頷く。
これを辿っていけば保護対象を発見できるかもしれない。
まぁどういう生き物かは分からないが、何かしら魔力を垂れ流して道を作っている生き物がいるのは確かだ。
意図的に保護対象が流している物ならまだ安心だが、ゴブリンがこれを辿っていた事からちょっと怪しい。
それ以外にも自分の位置を知らせる方法はいくらでもあるだろうに…ちょっとヤバイ状況なのかもしれないと勘ぐってしまう。
「そうだとして、追えるか?」
「…大丈夫、まだ追えるよ。」
レイモンの問いに感知で確認し、少し間を開けて頷く。
戦闘したのもあってここの魔力は散っているが、感知でこれを追っていくのにまだ支障が出るほどじゃあない。
でも時間が経てばどこかで道標が辿れなくなる可能性を考えたら、あまりのんびりはしてられないな。
「じゃあ早く行こうぜ!」
「そうね、他に手掛かりもないしね。」
「引き続き私も耳で周囲の音を拾いながら進むんで、頑張りましょう!」
「テッシン、あまり休めてないかもしれないが大丈夫か?」
「そんなに疲れてないから大丈夫、…じゃあ行こう。」
立ち上がりつつ、SPの消耗を抑えるために精度はそのままで範囲をかなり狭くした感知を展開する。
それでもこのまま使い続ければ、多少休憩しても一時間が限界だろう。
集中して魔力の道を辿りつつSPを消費し続けるのだから、ぶっちゃけさっきまでよりこれからの方が疲れそうだ。
さっきまでより切実に見つかることを祈りながら、俺たちは探索を再開した。
ちなみに平均的なオークのSTRは120前後って設定です。
それだと結構テツと差がありますが、そこは肉体強化で…って事で。




