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魔法がある異世界を魔力無しで生きるには  作者: リケル
序章 魔法のある異世界
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二十二話:アンナの夢

  



普段は修練に使う時間いっぱいを穏やかなティーブレイクを満喫した後はちょっぴり前向きな頭でやるべき事を色々と考えた挙句、再び道具屋に訪れた。

なけなしのお金を使って新しく革袋と小瓶をいくつか補充、他にも何か使えそうな物を見つけたのでいくつか購入してお店を出た。

所持金は残り150チップ…今後は財布の紐はキツく結ばねばなるまい。


そこからはまた夕暮れに近くなるまで恒例の野草採取活動、先日取れなかった野草も採取しつつ購入したものでちょっとした性能実験も行った。

性能実験といってもいわゆる子供の悪戯道具なので周りで見ていたいい年の大人達からは何か微笑ましいと言わんばかりの笑顔で見られた。

一応は警戒態勢を敷いているのでちょっとばかり怒られるかな~とか考えていたけれどそんな事は無かった。

この村の人達って自警団の人以外はこういう事があっても、何かあったの?と言いかねないくらい穏やかなのがすごい所だと思う、穏やかじゃない部分は魔法で全て自警団に譲渡しているんじゃないか?とか疑うレベルで。


ちょっと話が逸れたが新しく購入したものも大体試し終わったので帰る…前に新しく採取したサンドリーフで今朝のゴブリンから奪った石の短剣をガリガリと削って加工し刃の部分を薄く研ぎ澄ませて小刀みたいな片刃の形状に仕上げた。

片手用で刀身の長さは20センチ程で気になって調べてみた所材質名は白尖(しろとがり)、全体的に白っぽい見た目で細い線状の模様が入ってるのが特徴だ。

特性として線の向きに沿った衝撃には滅法強いが方向に沿わない衝撃には強くない…とはいっても元々結構硬くて普通の石ころ以上の強度はある、と言う石だ。

運良くこいつは縦…刺突方向に線が入っており、上手く刀身に沿って綺麗な線模様が刻まれるように加工したのだ。

結果として強度よりも取り扱いやすさを、木剣が取り扱いづらい間合いで…超近接武器か最悪は投擲武器として活躍してくれるだろう、剣技に関しても突き技をメインで練習してきたのでそのまま流用が可能だと思うし。

持ち運ぶ場所は木剣と対になる位置の右の腰に、革袋と紐で即席で作り上げた鞘モドキの中に収めて持ち歩く事にした。


結局半ば野草園と化した修練場にて一人座って、完全に日が落ちきっても手が粉まみれになっても夢中でサンドリーフを使って白尖の石を打製石器(ゴブリン製)から磨製石器(自家製)に進化させていたため終わって気が付くと背後にいい笑顔のアンナが居た…なんて事になった。

その後は勢い溢れる一撃とお小言で反省を余儀なくされて、そこから暫く口を聞いてくれなかったのは、余談だろう。






「…今日、あいつらの住処らしき所を見つけたの、オークもいたわ。」


夜、普段より遅い時間に聞かされることになった一般教養から雑談の内容を話半分で聞き流しながらラゴラ草の使い方を模索している人の傍で誰にも聞かれないように、突然アンナが囁く様な声でそう切り出す。

さっきまでは止めなかった調合の手を止めてアンナの方を向くと人差し指を口に当てて内緒だ、と言うジェスチャーをしていた。


「今日草原を探索していた、その中でも一部の人しか知らないわ。」


何故そんな事を周囲、特にザンギさん辺りに言わないんだろう?とは聞けそうにも無かった。

アンナの目が…獲物を見つけた獣の様にギラギラしていたからだ。

これはつまりあれだ、一応伝えて自分にも来るかどうか問いかけているんだろうか?

そうだとしたら答えは決まっている、絶対に嫌だ。

まだ自分を守るのも満足にできそうにもない、そんな実力しかないのにわざわざ危険に飛び込む真似はしたくない。

そう言おうと口を開こうとした所で


「行こうって言ってもテツは一緒には来ないんでしょ?」


「…へ?」


「その顔と今までの事を考えれば分かるわよ、行きたくないってくらい。」


分かってますよ、と言わんばかりに肩をすくめるような仕草をする。

というか思いっきり顔に出ていたらしい、ポーカーフェイスは意識してるんだけどな。

アンナも無理矢理連れて行くって感じではなさそうだけど…そうなると疑問が残るよな…


「じゃあ何でその事を?」


「決まってるじゃない、明日の探索に出発してからみんなに伝えるのを頼もうと思って。」


「…?自分で伝えればいいじゃん?」


「そんな事したら絶対に引き止められるの、分からない?」


「そういえば…アンナって、一応は領主の娘だも…っ痛っ!?」


「一応、じゃないわ。」


素晴らしい微笑みを浮かべたアンナから高速のデコピンが俺の額目掛けて飛んできた。


「それに…ここで手柄を上げればきっと父様も母様も冒険者になる事、認めてくれると思うのよ。」


会心の一撃により額を抑えて悶えているのはどうやら綺麗にスルーするつもりらしい。


「いってぇ…でもなんで冒険者になろうなんて?」


「そりゃ…自由に世界を冒険して、色んな人に出会って、遺跡や迷宮に潜って、魔物と戦って、なんて素敵じゃない?

辛い事もあるでしょうけど、それを仲間と一緒に乗り越えていくなんてのもお話しになりそうでいいわよね。

とにかく!私はこの村にいつまでも拘らずにに旅に出てみたいのよ!

父様達が帰ってくれは確実に兄様が領地を引き継ぐだろうから、そしたら後は戦えるって事をアピールすれば良いって訳!」


「ふむふむ…」


そう語るアンナの目は先程より輝いていた。

きっと今までもそう思ってきて反対されてきたのだろう。

聞いた限り理由は、言い方は悪いが一つは次の領主の予備として、もう一つは単純に娘の旅を心配してのことだろう。

そして近々領主は決まるみたいだから、残るは戦える所を!って事なんだろうな。

実際の所、アンナはかなり強い。多分自警団員と比べても余裕で勝てる程だと思うレベルで。

だけれど説得するには訓練の結果じゃ足りない、だから実際に魔物を退けたっていう実績が欲しいんだろう。

それに今回は絶好のチャンスだ、なんたって現状自分を含めた少数精鋭で親玉を潰せる訳だしな。

それに雑魚中の雑魚というゴブリンと、魔法自体は肉体活性(ブースト)しか使えないっていうオークの二種だけならばそこまで危険度もないと…ロスク初心者の自分でもそう感じられる。

危険が少なくて確実性の高い策だと思う。

少なくても普段の、とりあえず力で…って精神ではない。


「色々と考えてたんだな、アンナって。」


なんとなくアンナの背景にある事情を理解して、感心してそう口にしたのだが…


「それは、どういう事かしら?」


自分の考えとは上手くは伝わらないものである。

その後アンナお得意の電撃浴びたり、そのせいで手元にあったラゴラ草の根の分泌液を腕にこぼしたり、思ったより麻痺性が強力で片腕が動かせない一夜を過ごす羽目になった。





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