第43話 新たな旅立ち
【アレン視点】
帝都の巨大な城門。
青空の下、ザックやテオたちが軽い荷物を背負って集まっていた。僕たちはこれから、かつての世界の覇者という肩書きを捨て、名もなき旅人として故郷メトリアを目指す。
「よし、全員揃ったな。気楽な旅の始まりだ」
ザックが歩き出そうとした、その瞬間だった。
「お待ちしておりましたわ、あなた様!」
城門の陰から、聞き覚えのある声が響いた。
そこに立っていたのは、身の丈ほどもある巨大なトランクを大事そうに抱えた、純白の法衣姿の少女。
『聖女』であり、僕のシステムに最も深く脳を焼かれた元特級エージェント――セリアだった。
彼女は、アイギスブローチが消滅し、システムの強制力が完全に消え去っているはずなのに、その瞳にはかつてないほどの狂信的な愛と執着が渦巻いている。
「セ、セリア……!? お前、なんでここにいるんだよ!」
ザックが顔を引きつらせる。
「当然ですわ! アレン様がすべての力を手放された今、ただの無力な人間となられたあなたをお守りし、身の回りのお世話をするのは、この私しかおりませんもの!」
セリアは頬を真っ赤に染め、恍惚とした表情で巨大な荷物を抱きしめている。
「うわぁ……」
かつて共に帝国を蹂躙した悪党幹部たちが、一斉にあからさまな拒絶の声を漏らした。
無理もない。システムという大義名分がなくなった今、彼女の行動はただのストーカーでしかないのだ。
「ちょ、ちょっとアレン! どうするんだよ、完全に目がイッちゃってるぜ!」
ザックが小声で僕に助けを求めてくる。
「システムが消えても、彼女の『極端な善意』と『歪んだ愛』は消えなかったようですね。……全く、厄介な誤作動を残してしまったものです」
僕は小さくため息をついた。
彼女の純粋な善意をシステムの歯車として利用し、完全に方向性を狂わせてしまったのは僕自身だ。その責任から逃れることはできない。
僕は、目をキラキラと輝かせながら僕を見つめる彼女へと歩み寄った。
「セリア。僕たちはこれから、過酷な瓦礫撤去と都市再建の肉体労働に向かうんです。優雅な旅ではありませんよ?」
「はいっ! アレン様の汗を拭い、泥にまみれたお姿を一番近くで拝見できるなんて、至上の喜びにございます!」
完全に話が通じない。
僕は再び深くため息をつき、呆れ半分で肩をすくめた。
「……まあ、その巨大なトランクを一人で運べる筋力があるなら、荷物持ちくらいにはなるでしょう」
「ああっ……! アレン様に必要とされるなんて……私、幸せですわぁぁっ!」
セリアは歓喜の悲鳴を上げ、僕の背中にぴったりと張り付いてきた。
「おいおい、本当に連れて行く気かよ……前途多難だな」
ザックが頭を抱え、カルメンがクスクスと笑う。
「さあ、行きましょうか」
僕は、背後にまとわりつく重い『愛の十字架』を感じながら、それでも清々しい笑顔で前を向いた。
世界中から経験値を搾取し、一歩も動かずに全人類を支配した人類史上最悪のピラミッド型システム。
その中心にいた僕の物語は、権力も魔力もすべて手放し、少し騒がしくも温かい仲間たちと共に、泥にまみれながら故郷を再建するという、極めて平凡でのんびりとした旅へと続いていく。
「アレン様、歩くペースは速すぎませんか? お疲れでしたら、私が背負って差し上げますわ!」
「セリア、僕はひ弱になりましたが、自分の足で歩くくらいの体力はあります」
「そんな、遠慮なさらずに! さあ、私の背中に!」
相変わらずのすれ違いと、奇妙な連帯感に包まれた僕たち一行は、どこまでも続く青空の下、新しい世界へと足を踏み出していった。
振り返ることはない。
ここから始まるのは、人間の「強欲」に頼らない、僕自身の足で歩く、本当の人生なのだから。
第1章 完
ここまでお読みいただきありがとうございました。
感想や評価☆いただけると執筆の励みになります。
続きを思案中です。




