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婚約破棄された地味令嬢ですが、実は王宮一の補佐でした ~捨てたのは第一王子? いいえ、私は第二王子と国を立て直します~  作者: 紅茶うさぎ


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第86話 盤面の裏

 二日目の朝。王都の市場は閉ざされたまま。港では荷が積まれず、倉庫は沈黙している。時間が、削れていく。


 王宮の一室。ルークは紺色の封筒を机に置いた。


「連盟内部へ接触します」


 第一王子が睨む。接触、という語を、彼は最も嫌う立場にいる。


「罠だぞ」


「承知の上です」


 彼の顔に、もう迷いはない。承知の上、と言えるまでに三日かかった。


「私は連盟の“第二層”と繋がっていました」


「カイウスではない」


「資金管理監査部門」


 連盟は多層構造だった。政治的表層。金融執行層。内部監査層。


「監査層は利益を守る」


「政治的賭けは好まない」


 エリシアが頷く。損得の話なら、こちらにも並べる紙がある。


「信用凍結はリスク」


「王国が破綻すれば、連盟も損をする」


「そうです」


 ルークは静かに言う。損得の話に戻せば、あの組織は必ず揺れる。


「今回の凍結は“政治的攻勢”」


「内部監査層は知らない可能性がある」


 第一王子が息を吐く。敵の内部で争わせる案は、彼の好みではない。


「内部対立を起こす気か」


「起きているはずです」


 その夜。王都外れの旧商館。ルークは一人で入る。待っていたのは、黒衣の老紳士だった。


「久しいな、ヴァルデン」


「……グレイソン」


 連盟内部監査官だった。名を呼ばれても、老紳士は席を立たなかった。


「信用凍結は想定外だ」


 ルークは単刀直入に言う。時間を使う余裕は無い。


「政治判断だ」


「連盟は“安定”を売るはずだ」


「破綻を誘発するのは理念違反」


 老紳士は静かに答える。理念違反、という語を否定しないところが答えだった。


「王は連盟を公開の場で追い詰めた」


「報復は避けられなかった」


「それで利益は出るのか」


 沈黙。ルークは資料を出す。


「王国が破綻すれば、連鎖信用不安」


「西方二国も巻き込まれる」


「東方は軍事費増大」


「市場は不安定化」


 老紳士の目が細まる。数字の並べ方は、かつて自分が教えた形だった。


「……内部でも議論はある」


「だが今は執行段階だ」


「ならば監査を動かせ」


 ルークは言い切る。数字を並べ終えたあとの一行は、短いほうがいい。


「凍結は利益を損なうと正式指摘しろ」


 老紳士は長く沈黙する。裏切り、という語を出すまでに時間をかけた。


「お前は連盟を裏切った」


「私は安定を選んだ」


 静かな応酬だった。やがて老紳士が立つ。


「一日」


「内部監査を動かす」


 それが限界だった。一日という区切りは、この組織では相当に重い。


 同時刻。エリシアは西方残存国の代表と密談していた。


「信用凍結が続けば、貴国も危険です」


「連盟の内部対立が始まっています」


 代表は揺れる。連盟の資金で回っている国が、その連盟から離れる算段を始めている。


「均衡条約に署名すれば、共同基金の枠を優先」


 現実的な提案だった。代表は言う。


「……署名する」


 包囲網に、亀裂が入る。守るものを数え直した結果の署名だった。


 一方。東方国境。イリーナのもとに報告。


「西方残存国、均衡条約署名へ」


 彼女は静かに笑う。予定していた進軍の日付を、指で消した。


「王は面白い」


「進軍は停止」


 軍は一歩引く。圧力は残すが、越えない。


 二日目が終わる。凍結はまだ解かれていない。だが、連盟内部に亀裂。西方一国が条約署名。東方が停止。盤面は動き始めた。


 残り一日。エリシアは署名を取り付けた帰り道で、王宮の窓を見上げた。執務室の灯りが、まだ消えていない。


 上がっていって、動きましたと伝えるべきかどうかで、階段の前に少し立っていた。

連盟が一枚岩ではないことが、ここで初めて分かります。


執行層と監査層。利益を守る部門は、政治的な判断で損が出ることを嫌う。組織を敵にするときは、その組織の中で誰が損をしているかを探すのが早い。


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