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婚約破棄された地味令嬢ですが、実は王宮一の補佐でした ~捨てたのは第一王子? いいえ、私は第二王子と国を立て直します~  作者: 紅茶うさぎ


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第14話 第一王子の違和感

 第一王子アルベルト・フォン・クラウゼは、机の上の書類を乱暴に閉じた。


「……遅い」


 低く呟く。


 報告の上がりが、以前より確実に遅れている。

 致命的ではない。だが、微妙に噛み合わない。


 かつては、ここまで滞ることはなかった。


「本日の案件は以上です」


 第一王子側実務官、ユリア・フェルゼンが静かに告げる。


 アルベルトは頷いたが、視線は別のところにあった。


「最近、妙だと思わないか」


 問いは曖昧だったが、ユリアはすぐに察した。


「処理速度、でしょうか」


「ああ」


 椅子にもたれかかる。


「以前は、もう少し滑らかだった」


 言葉にしてから、違和感がはっきりする。


 滑らかだったのだ。

 指示を出せば、余計な説明は不要だった。

 数字は整い、問題は事前に潰されていた。


 ――誰がやっていた?


 その疑問が、胸に浮かぶ。


「以前の担当者は」


 アルベルトは、視線を上げた。


「誰だった?」


 室内が、わずかに静まる。


 ユリアは、資料をめくりながら答える。


「形式上は、複数の文官による分担処理です。ただ……」


「ただ?」


「実務の整理に関しては、以前は補佐が入っていたと聞いています」


「補佐?」


 アルベルトの眉が動く。


「誰だ」


 一瞬の間。


「……エリシア様です」


 空気が、止まった。


 その名は、数か月前まで日常の中にあった。

 今は、意図的に思い出さない名前。


「……は?」


 低い声。


「彼女は、表には出ませんでしたが、書類整理や下準備を担当していたとのことです」


 アルベルトは、笑った。


「馬鹿な」


 否定は即座だった。


「彼女は、社交も満足にできない地味な女だ。あの程度で、私の執務が回っていたとでも言うのか」


 言葉に棘が混じる。


 だが、胸の奥に、小さなざらつきが残る。


「しかし、数字の整合性や事前整理の精度は、当時の方が高かったと」


 ユリアは淡々と続けた。


「現在、第二王子殿下の執務室で、同様の整理が行われているとの報告もあります」


 アルベルトの指先が、机を軽く叩く。


「……どういうことだ」


「具体的な証拠はありません。ただ、案件の差し戻し理由が、いずれも“将来的破綻の回避”に集中しています」


 静かな説明。


「以前、殿下の執務室でも、同様の指摘が多かった記録があります」


 沈黙。


 アルベルトは、視線を落とした。


 脳裏に、あの夜の光景がよぎる。

 婚約破棄の場で、何も言わず、ただ一礼した姿。


 泣きもせず、取り乱しもせず。


 あのとき、自分は確かに思ったのだ。


 ――不要だと。


 だが。


「……偶然だ」


 自分に言い聞かせるように呟く。


「彼女一人で、執務が回るはずがない」


「もちろん、殿下」


 ユリアは即座に同意する。


「ですが、念のため、現状の情報整理をしておくべきかと」


 アルベルトは、しばらく考え込んだ。


 不快感が、じわりと広がる。


 捨てたはずの存在が、別の場所で機能している。

 それも、自分の足りない部分を補う形で。


 それは、単なる偶然か。


 それとも。


「……調べろ」


 短い命令。


「第二王子の執務室の処理状況。特に、あの女の動きだ」


 ユリアは一礼する。


「承知しました」


 扉が閉まった後も、アルベルトは動かなかった。


 机の上の書類を、再び開く。

 数字を追う。


 だが、視界の端で、別の疑問が揺れる。


 もし、あの女が本当に機能していたのだとしたら。


 ――私は、何を切り捨てた?


 その思考を、アルベルトは即座に振り払った。


「あり得ない」


 そう言い切る。


 だが、違和感は、消えなかった。


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