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婚約破棄された地味令嬢ですが、実は王宮一の補佐でした ~捨てたのは第一王子? いいえ、私は第二王子と国を立て直します~  作者: 紅茶うさぎ


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12/21

第12話 結果が示すもの

 結論が出たのは、その三日後だった。


 差し戻された案件の再検討結果が、正式な報告書として第二王子の執務室に届いたのは、朝の業務が始まって間もない頃だ。


 エリシアは、封を切る前から内容を察していた。

 根拠は、数字と過去の事例、そして現場から上がってきた追加報告。


 ――覆らない。


 そう確信していた。


「……想定通り、ですね」


 書類に目を通したレオンハルトが、短く言う。


「補助金打ち切り案は撤回。段階的縮小と代替支援を併用する形で再構成」


 机の上に置かれた報告書には、赤字で修正案が記されていた。

 エリシアが指摘した内容と、ほぼ同じ。


 静かな安堵が、胸に広がる。


 だが、それで終わりではなかった。


 同日午後、臨時の全体会議が招集された。

 案件の修正理由と、今後の方針を共有するための場だ。


 エリシアは、いつものように後方の席に座った。

 前に出るつもりはない。

 出るよう指示もされていない。


 ――今日は、それでいい。


 そう思っていた。


「今回の件について、補足があります」


 発言したのは、第二王子ではなかった。


 中堅文官のカイル・エルドだ。


「再検討のきっかけとなったのは、補佐官の指摘です」


 一瞬、空気が止まった。


 エリシアは、思わず顔を上げる。


「将来的な破綻を見越した分析であり、結果として、再支援による追加支出を防ぐ判断につながりました」


 淡々とした説明。

 だが、その言葉には、はっきりとした主語があった。


 ――補佐官。


 名前は出ていない。

 それでも、誰のことかは明白だった。


 会議室の視線が、ゆっくりと後方へ流れる。


 エリシアは、息を呑んだ。


 誰かが、気まずそうに咳払いをする。

 別の者は、資料に目を落としたまま動かない。


 第一王子側の実務官、ユリア・フェルゼンは、わずかに表情を硬くしていた。


「以上です」


 カイルはそれだけ言い、席に戻る。


 ざわめきが、遅れて広がった。


 大きな拍手も、称賛の声もない。

 だが、確実に空気は変わっていた。


 ――名前が出た。


 それだけで、十分だった。


 会議後、廊下を歩いていると、何人かの文官が、これまでとは違う視線を向けてくる。


 値踏みではない。

 無視でもない。


 評価だ。


「……先日の件」


 すれ違いざま、若い文官が声をかけてきた。


「あの整理、助かりました」


「いえ」


 短く答えると、彼は少し戸惑ったように笑い、去っていった。


 執務室に戻ると、レオンハルトが立っていた。


「座ってください」


 珍しく、事務的ではない口調。


 エリシアは椅子に腰を下ろす。


「今日の会議について」


 彼は言った。


「あなたが前に出る必要はありませんでした。ですが――」


 一拍置く。


「結果が出た以上、評価が発生します」


 エリシアは、静かに頷いた。


「それを、どう受け止めますか」


 問いかけ。


 試すようでもあり、確認するようでもある。


 エリシアは、少しだけ考えた。


「……怖いです」


 正直な答えだった。


「でも、否定されるよりは、ずっといい」


 それが本音だ。


 レオンハルトは、わずかに口元を緩めた。


「それで十分です」


 そして、淡々と続ける。


「覚えておいてください。今回の件は、偶然ではありません」


 視線が、真っ直ぐ向けられる。


「あなたが見て、考え、判断した結果です」


 その言葉は、胸の奥に、静かに沈んでいった。


 評価とは、称賛ではない。

 結果に対して、名前が紐づくこと。


 それを、エリシアは初めて実感していた。


 夕刻、執務室を出ると、王宮の回廊にはやわらかな光が差し込んでいた。


 ほんの少し前まで、自分はここで、居場所を失った人間だった。


 それでも今は。


 誰かが、自分の判断を覚えている。

 それだけで、足元は驚くほど安定していた。


 ――まだ、足りない。


 そう思えること自体が、以前とは違う。


 エリシアは、静かに歩き出した。


 この場所で、もう一歩、前へ進むために。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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