第68話 幼馴染彼女と食休み
やべぇ、そろそろ限界かも……。
食休みの真っ只中、俺の理性は崩壊の危機に瀕していた。
どうしても意識が、目の前──里桜の太ももに頭を乗せた俺の視界の中央、時折ふるりと波打つ二つの膨らみに向いてしまうのだ。その奥から里桜が俺を見下ろしているにも関わらず。
健全な男子として、これは抗いようがないと思う。すぐそこに、水着という薄布一枚だけを纏った、愛する彼女の胸があるのだから。
もちろん愛してんのは胸じゃなくて里桜本人だぞ。そりゃ、胸も好きだけどさ。
じっくり鑑賞したいし、触ったりもしてみたいさ。そこには男の夢がぎっしり詰まってるんだ。
……いや、さっき触ったよな。日焼け止めを塗った時に、直接。事故だったけど。
視界の端に捉えただけでも、あの時の感触が鮮やかに蘇ってくる。衝撃的な柔らかさだった。一度知ってしまった感触は、もう理性じゃ抑えきれない。脳がもう一度とねだってくる。
「しゅーんくんっ?」
不意に、里桜が俺を呼ぶ。ニマニマと笑みを浮かべながら。
「……なんだ?」
「んふふっ、えいっ!」
突如として俺の視界は奪われ、世界は闇に包まれた。その代わりに別の感覚が研ぎ澄まされていく。
触覚だ。
視界を奪ったのは、温かくて、とてつもない柔らかさと、ほどよい弾力を持つなにか──それが、里桜の胸だということは瞬時に悟った。
「お、おいっ、里桜っ?! なにして?!」
「んー? なんか隼くんが触りたそうにずーっと見てたから、サービス?」
……バレてる?!
そりゃそうか……俺、結構ガン見してたもんなぁ。というか、あんなん見るなってのが無理だろ。顔を横に向けようとしても、里桜に阻まれるし。むしろあれは、見ろって言われてるようなもんだよな。
「ほらほらぁ、なんにも言わないともっとしちゃうよー?」
里桜は身体を動かして、さらにむにゅむにゅと押し付けてくる。下はぷにぷに膝枕、上はふかふかアイマスク。この贅沢すぎる状況下で、身体の奥底から熱いなにかが込み上げてくる。
言葉を選ばずに言えば──とんでもなくエロい気分ってやつだ。ムラムラすると言い換えてもいい。
……だからダメなんだって。煩悩よ、頼むから欠片だけ残して引っ込んででくれ。せめて、家に帰るまでは。
「じゃあ、やめっ……!」
「えへへ、やーだっ! やめてあげませーんっ。だぁーって、隼くん嬉しそうな顔してるもんっ」
「どんな顔だよ?!」
かなり広範囲を覆われてるから、里桜から俺の表情は見えないはずだろ。
「お口がね、うにゅってなってるの」
口だけで判断できんのすげぇなっ!
うにゅってどんな口なんだ。言い方可愛いなっ!
よくわかんねぇけど正解だ。嬉しいよ、ちくしょう!
「というわけでっ、隼くんはしばらく私のおっぱいを楽しんでてねぇ。その間、私も楽しませてもらうから」
「んひっ……」
ぺたりと、里桜の指先が俺の胸辺りに触れたのを感じた。
「里桜、なにして……」
「んーとねぇ、隼くんだけ楽しんでるのは不公平でしょー? だから私も触らせてもらおうかと思って」
「それは里桜が勝手に──ふひっ……!」
つぅっと腹から胸にかけてを、たぶん里桜の指が滑っていった。
ちょい待ち……変な声出たじゃねぇか!
りおっぱいを楽しむ余裕なんて全くないんだが?
「あれれー? 隼くん、もしかして気持ちいい? それならもっとしちゃおっかなぁ。そういえばぁ、さっきこんなこともされちゃったんだよねぇ」
「もうやめっ──にょあっ!」
ヘソに指を突っ込まれた。なんだこれ、とんでもなくゾワゾワする。ヘソはたぶん、生物としての弱い部分なんだろうな。そこを里桜は優しく、執拗に攻めてくる。
「隼くんが先にしたんでしょー? 私はその仕返しをしてるだけだもーんっ」
浅瀬でくるくると遊んだかと思えば、深いところを探索し始めて。
これは、未知との遭遇だった。
里桜もこんな感じだったのか。調子に乗ってやってしまったことを今更後悔した。
ごめん、里桜。これはなんというか……シャレにならんわ。
「里桜……もう、勘弁して……」
なんだか涙が出そうだった。
くすぐったいのにどこか気持ちよくて、恥ずかしいのに嬉しくて。それが全部里桜から与えられているのかと思うとたまらなくて。これ以上されると、自分からもっととねだってしまいそうで。
「うん。じゃあもうやめるね」
あっさりと里桜は手を引いた。俺の視界にも光が戻ってくる。
「……り、お」
「はぁい?」
「……やりすぎだろ」
「えへへ、ごめーんねっ」
里桜はケロリとした顔で笑っていた。
なんだか無性に悔しい。
「……帰ったら覚えとけよ」
「やぁんっ、私なにされちゃうのかなぁ?」
こいつ……!
俺の気も知らんと嬉しそうな顔しやがって。やっぱ、たまには思い知らせてやらんといかんのかね。お仕置き、ってわけじゃねぇけどさ。
「一時間耐久ヘソいじりでもしてやろうか。里桜が泣いてもやめてやんねぇぞ」
「はうっ……それは、私もおかしくなっちゃうかもぉ……。でも、隼くんがしたいなら、してもいいよ? 隼くんのしたいことなら、私がなーんでも叶えてあげるねっ」
「やっぱやめとく……」
自分で言ったわけだが、さすがにアブノーマルがすぎるよな。きっとその後、そういう空気になるにはなるだろうが、俺の思い描くものとは遠くかけ離れていきそうだ。
俺にも俺なりの理想ってもんがあんだよ。
それにさ、
「ふふっ、別にしたいならしてもいいのにっ」
そんなに楽しそうにされたら全く効果ねぇもん。
はぁ……敵わねぇ……。
俺の彼女、最強すぎるわ。
俺は軽く頭を振り、立ち上がる。そして里桜に手を差し伸べた。
「食休みはもう終わりだ。ほれ、遊ぶぞ」
しっかり海を堪能するって決めたしな。動いてりゃ多少は気が紛れんだろ。
「もういいの?」
「……今はな」
「今は、ね?」
里桜の表情ががらりと変わる。さっきまでのからかうような挑発的な表情は鳴りを潜め、真剣な顔で俺を見てくる。里桜がなにを望んでいるのか、そんなことは俺もとっくに知っている。
だから──
「そうだ。今は、だ」
──俺はそう呟いて、強引に里桜の手を引いた。
期待、しててくれていいから。そんなことを考えながら。
「おら、行くぞっ」
「あっ、ちょっと待ってよぉ──きゃんっ」
強引にしすぎたせいか、里桜が脚をもつれさせたらしい。ぐらりと里桜の身体が傾いて、俺は瞬時に抱きとめた。
「わり、大丈夫か……?」
「なーんて、ウソだよぉ。えへへっ、だまされたね、隼くんっ。私、離れないって言ったでしょ? だからぁ、ぎゅーっ!」
「またぁっ?!」
腕に、里桜のやわやわな身体が押し付けられた。
この彼女、危険すぎる。こりゃ、気を紛らわせるどころじゃねぇなぁ……。




