第67話 幼馴染彼女と浜辺の昼食タイム
まったりゴロゴロと休憩時間を過ごした後、里桜は忘れ物をしてきたと言って更衣室へと入っていった。俺は特に用事もないので、外で待機中。またぼんやりと周囲を眺めている。
ずっと、ほとんど人のいない浜辺の端の方で過ごしていたから気付かなかったが、いつの間にかこの辺りには結構人が増えていた。昼飯時なせいもあってか、海の家はかなり盛況なようだ。
そういえば昼飯をどうするのかも考えないとな、そんなことを思った時だった。
「しゅーんくーんっ!」
朗らかな里桜の声が響く。里桜は俺の側まで駆け寄ってくると、くるりと一回転した。
「じゃーんっ! ついでにお着替えしてきましたーっ!」
「なんだ、時間かかってんなと思ったらそんなことしてたのかよ」
「うんっ、いいタイミングだったしね。それでぇ、この水着はどうかなぁ?」
「んなもんめちゃくちゃ似合ってるに決まってるだろ。可愛すぎるわ。というかさ、一回海来ただけで色々見れるの、満足度激高だな」
里桜が2着目に選んできたのは、3着のうちで最も爽やかなデザインのものだった。晴れ渡る青空のような水色の水着が、弾ける里桜の笑顔とよくマッチしている。
腰回りには丈の短いパレオが巻かれていて、里桜の動きにあわせてヒラヒラと揺れるのがチャーミングだ。さっきまでの白ビキニと比較すると腰周りの露出度は控えめに見えるが、だからといって油断してはいけない。こいつはボトムスの両サイドが紐なのだ。うっかりどこかに引っ掛ければ、容易く解けてしまう。
その紐がユラユラしているのを見ると、つい引っ張ってみたい誘惑にかられるが、さすがにまだそこには至れていない。
「えへへ、私もいっぱい褒めてもらえて満足だよぉ」
「あの程度でいいのか? なんならもっと詳細に語ってやってもいいんだぞ」
2着目なせいか、俺も少し余裕が出てきたしな。今なら語れる気がする。
「うーん、それはとっても魅力的な提案ではあるんだけどぉ……今は遠慮しとこっかなぁ。隼くんに本気出されたら照れちゃうもん。そしたら、今すぐおうち帰って隅々までじっくり鑑賞してもらうことになるよ?」
おい、照れるのに隅々まで鑑賞させようとするなや……。
いいのか?
じっくり鑑賞なんてしたら俺、きっと我慢できなくなってその紐解くぞ?
いやでも、まだだよなぁ。この後に3着目の水着も控えていることだし、せっかくなら全部をしっかり、この海というロケーションの中で見ておきたい。しかも最後に残っているのは一番露出度が低いくせに、一番エロ──色っぽいやつだ。必然的に期待も高まる。
「んじゃ、褒めるのはこれくらいにしとくか。んで、忘れ物ってそれのことだよな。なにが入ってんだ?」
里桜の手には、さっきまで持っていなかったはずのバッグが握られていた。
「あぁ、これ? そろそろお腹空くころかなぁと思って、お弁当取ってきたの。ちゃーんと保冷バッグに入れてきたから、安心して食べられるよっ」
「マジか。そこまで用意してくれてたんだな。すまん……そうとは知らずに寝こけてて──いや、待て。ちょっと確認したいんだが」
「うん、なにを?」
「里桜が起きたの、確か俺が起きる30分前だって言ってたよな。あれ、ウソだろ」
どう考えても計算が合わない。俺が起きた時には、身支度を済ませて、弁当を作って、朝食の準備もあらかた終わっていた。どれだけ里桜の家事スキルが高いと言っても、いくらなんでも早すぎる。
「えへっ、バレちゃったぁ。実は、ちょこーっとだけ盛ってたかも」
「……どんだけ早起きしたんだよ。ほれ、正直に言ってみな」
「えーっとぉ、本当は1時間前に起きてましたぁ……。隼くんが気にするかなぁって思ってね、ウソついちゃった」
だよなぁ。それなら辻褄が合う。盛ったの全然ちょこっとじゃねぇじゃん。倍だぞ。
「ったく……あんま無理すんなよなぁ」
慣れない屋外で1日過ごすのに、寝不足でぶっ倒れたらどうすんだよ。
「だってぇ……隼くんには私の作ったもの、食べてほしいんだもん。ほら、いつも美味しいって言ってくれるでしょ?」
「そりゃまぁ、実際美味いし」
俺の好物はなにかと問われたら、迷わずに里桜の手料理だと答えてしまうくらいには、がっつり胃袋を掴まれているのだ。
「あっ、でもね、あんまり期待しすぎちゃダメだよ。今日のは本当にパパっと作ったから大したものじゃないの」
「そんなん普通に期待するだろ。大したもんとかそうじゃないとか関係ねぇよ。里桜が作ったもんならなんでも大ご馳走だぞ」
「うぅ……あんまりハードル上げないでよぉ」
おっと、ちょいと褒めすぎたな。茹でダコみたいになっちまったし、これくらいにしとくか。
「とにかくさ、里桜が頑張ってくれたんだ、さっきんとこ戻って飯にしようぜ」
「うん……」
すっかりしおらしくなってしまった里桜だが、俺が手を差し出すと、ちょこんと掴み、指を絡めてきた。こういうところも可愛いんだよな。結局全部可愛いんだけど。
*
「おぉ……めっちゃ美味そう」
里桜が保冷バッグから取り出した大きめのタッパーの蓋を開けると、ぎっしりと彩り豊かなサンドイッチが詰まっていた。
「そう言ってもらえると作った甲斐があるよ。サンドイッチなら作るのも簡単だし、食べやすいかなってね」
「いやいや、これで簡単とか冗談だろ。4種類もあんじゃん」
玉子サンドからレタスハムチーズサンド、ツナマヨサンドにポテサラサンドと種類豊富に取り揃えられていた。
「もーっ、それ以上褒めるの禁止っ。もういいから、食べて食べてっ」
「わかったって。んじゃ、いただきます」
これまた里桜が用意してきてくれた除菌用のウェットティッシュで手を清めて、サンドイッチに手を伸ばす。まずは玉子からかな。
「んっ、美味っ……!」
かぶりついた瞬間、声が漏れた。口にモノを入れながら喋るのは行儀が悪いが、これは仕方ない。ほぼ条件反射だからな。
口に広がる玉子の甘味、そこに辛子マヨネーズの程よい辛味が良いアクセントになり、見事な調和を生み出していた。こういうシンプルな料理ほど腕前の違いが出るんだろうな。
料理上手な彼女がいて、俺はなんて幸せ者なんだ。
「サンドイッチくらいで大袈裟だなぁ。でも私、隼くんが食べてくれてるところ見るの好きっ」
「いや、マジだって。里桜も俺のこと眺めてないで食えよ」
「うんっ、いただきまーす」
里桜もサンドイッチをパクつき始める。なんだかんだで里桜も美味そうに食うんじゃん。それならあんなに謙遜することねぇのにな。
俺も、また一つ、もう一つと食べ進める。4種類ともが絶品で、あっという間に二人で完食してしまった。
「ふぅー……腹いっぱいだ。ごちそうさん」
「えへへ、お粗末様でした」
「んで、この後はどうする? また海入るか?」
「だーめっ! 食べてすぐ動くとお腹痛くなっちゃうんだから。ここからしばらくは食休みのお時間ですっ」
「さっきも休憩してたじゃん……」
たぶんだけど、1時間くらいはゴロゴロしてたはずだぞ。ずっとお互いの顔を見つめたままでな。キスしたすぎて我慢するのがしんどかったわ。
……軽いのなら何回もしたけど。
この気持ちが消えちまうのはイヤだけど、バランス取るのが大変なんだ。
「別にいーんじゃないかなぁ。海に来たからって、ずっと動き回ってなきゃいけないわけじゃないんだしさぁ」
「それもそうか。ならもう少しのんびりすっかぁ」
「うんっ。というわけで、隼くん」
「ん?」
「こーこっ、おーいで?」
里桜は横座りにした脚の、太ももをポンポンと叩いていた。
これはあれか?
膝枕してくれるってことか?
ダイレクト膝枕なんだが?
里桜の太ももは、パレオがあるといっても、ほぼむき出しだった。
「えっと……里桜?」
「さっき腕枕してもらっちゃったもん、そのお礼してあげなきゃね。ほらほらぁ、先着1名様限定、隼くん専用だよぉ。早くしないと誰かに取られて埋まっちゃうかもしれないよぉ?」
そりゃ急がないとマズイな。魅力しかない里桜の太ももを俺以外に奪われちゃたまらん。
俺は慌てて横になり、誘われるままに頭を乗せた。一応、里桜の身体とは反対を向いて。
……って、俺専用なら急ぐことなかったんじゃ?
まんまと里桜の口車に乗せられちまったな。
「ふふっ、しゅーんくんっ。こっち向いてー?」
「ん、こうか?」
顔を上に向けると、絶景が広がっていた。美しい曲線を描く大きな峰が2つ、そしてその向こう側では俺の天使が微笑みをくれる。その笑顔は、まさに山間から姿を表した太陽のごとく俺を照らす。
「寝心地はどうかなぁ?」
「極上すぎる……」
極上なのは、もちろん景色だけじゃない。俺の頭をしっかりと包み込む柔らかさ、直接伝わってくる体温、どれをとっても完璧だった。
やべぇな、これ。天国かもしれん。
いや、もしかすると地獄なのか?
心臓は悲鳴上げてるし、理性はすごい勢いで削られてくしな。
興奮と癒しを同時に与えてくるとは、里桜はとんでもないやつだ。さすがと言わざるを得ない。
……うん。まぁなんでもいいけど、里桜の生太ももが気持ちよすぎる。最終的に色々と考えることを放棄してここに落ち着いた。
「里桜……俺、ここから動けなくなりそう」
「いいよ、動かなくて。しばらくこうしててあげるから」
頭に手が添えられて、ゆったりと撫でられる。
「それじゃ、里桜が退屈だろ……?」
わざわざ海まできたってのに、俺の枕にされてるだけなんてさ。
「そんなことないよ。私ね、幸せすぎて溶けちゃいそうだもん。これで充分すぎるほど満喫させてもらってるよ」
「そうか、なら……」
「うんっ。私のお膝、隼くんの気が済むまで使ってね?」
そんなこと言われたら、しっかり堪能させてもらうしかねぇよなぁ。
「あぁ……これはダメになる……」
「ふふっ。よしよーし。隼くんがダメダメになっちゃったら、私がちゃーんとお世話してあげるから安心してね」
とりあえず、もう一回言いたい。
海、最高すぎかっ!
いや、違うな。最高なのは里桜だった。




