表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/73

第66話 幼馴染彼女と海辺の戯れ

 里桜からの攻撃が止んで、俺はレジャーシートの上に仰向けに崩れ落ちた。肺が酸素を求めてひくついて、苦しい。


「はっ、ひっ、ひぃ……し、死ぬ……」


 あと数分続けられてたら、本当に天に召されてたかもしれん。俺もやりすぎた自覚はあるけど、それにしても手痛い反撃を食らってしまった。


「隼くん、お疲れ様っ。全身くまなく塗れたから、これで日焼けの心配せずに遊べるね?」


「里桜……足の裏は、日焼けしねぇんだよ……」


 里桜は俺のくすぐったいポイントを執拗に狙ってきたんだ。マウントポジションを取られて抜け出すこともできず、里桜にされるがままだった。じたばたするだけの俺は、さぞ無様だったことだろうな。


 抵抗する気力と体力が尽き果てた頃、トドメとばかりに足の裏をくすぐられ、もとい日焼け止めを塗られて──


 危うく新たな扉が開くところだったぞ……。


「えへへ、念の為だよっ。さーてっ、これで準備万端だよね。早速海、入っちゃう?」


「ちょい待ち。俺、すでにぐったりなんだが……?」


 なんとか起き上がってはみたものの、疲労感が半端ない。しこたまくすぐられて暴れたからな。


「もーっ、情けないなぁ。じゃあ、そんな隼くんには私が元気を分けてあげるねっ」


「いや、少し休めばへい──んむっ」


 ちゅっと、軽くキスされた。


 おい……もしかしてこれで俺を黙らせるのにハマってんのか? 朝も同じことしてきたよな。


「えへへ、どうかな。これで遊べそう?」


「あのなぁ……こんな場所ですんなよ」


「さっき、もーっとすごいことしたのは誰だったかなぁ?」


「あれはっ……事故、だろ」


「んふふっ、どっちでもいーよっ。それよりも、ほーらっ、立って?」


「ったくもう……わかったよ」


 俺と里桜は手を取り合い、立ち上がる。そして、パラソルの影を飛び出して、海に向かって駆け出すのだった。


 どうやら、里桜からのキスには俺を回復させる特殊効果があったらしい。里桜のせいでぐったりさせられて、里桜に回復される。その循環で俺はまた里桜に夢中になる。


 ……マッチポンプか?


 *


「わーっ! 冷たくて気持ちいいねっ、隼くんっ!」


 里桜は俺の手を離れ、ザブザブと海に入っていく。俺の足元にも波が押し寄せてきて、ヒンヤリとした海水が熱を攫っていく。


「そうだな。でもあんまり深いところには行くなよ?」


「わかってるもーんっ。そーれぇっ!」


 里桜は水をすくい上げると、空に向かってばら撒いた。その雫達がキラキラと輝いて、里桜の笑顔を彩っていた。まるで自然のフォトフレームのようで、この瞬間の里桜が俺の目に焼き付いた。


「はぁ……すっごい楽しーっ!」


 ようやく海に入ったばっかなのに、もう満足してんのかねぇ、里桜は。お楽しみはこれからだってのにな。


「りーおっ」


 里桜の視線が俺から外れた不意をついて、パシャリと身体に水をかけてやる。


「あー、やったなぁ。私だってぇっ!」


「わっぷ! おいっ、顔はやめろよなっ」


「ふふーん、悔しかったら隼くんもしたらいいんだよー」


「言ったな? 里桜がその気なら容赦はしねぇぞ」


「望むところ──んにゃっ!」


 今度は、俺が放った水が里桜の顔面を捉えた。さっきはちょいと遠慮して身体にしておいたが、やられたらやり返す、これが基本だ。


 うんうん。海と言えばこういうのだよな、やっぱり。でも、なにより大切なのは里桜が一緒だってことだ。


 里桜がいるから俺も笑える。こんなふうにはしゃいで、心から楽しいと思える。俺には、里桜じゃないとダメなんだと改めて実感させられる。


 幼少期には大の仲良しだった俺達だ。六年も離れてはいたけれど、仲直りをして、恋人同士になった今、遊びの波長が合わないわけがない。ただ水を掛け合っているだけなのに、心がふわふわするほど楽しいのがその証拠だな。


「もーっ、隼くん避けちゃダメだよぉっ!」


「いや、普通に避けるだろ。おっと隙ありっ」


「やんっ! うー……またやられたぁ。私だってぇっ! えいっ、えいっ!」


「んなもん当たるかよっ。ほれ、もういっちょ」


 俺達はひたすら水を跳ね上げてじゃれていた。顔めがけて飛んでくる水を避けながら、時折反撃して。そんな時、波に足を取られて里桜がバランスを崩した。


「きゃっ……!」


「っと、大丈夫か?」


 腕を掴んで支えると、里桜はそのままぎゅうっと抱きついてくる。


「えへへ、隼くん捕まえたっ!」


「……今のはわざとか?」


「んーん、たまたまだよ。でも助けてもらったら嬉しくなっちゃって。ありがとぉ、隼くん」


「ん、怪我しねぇように気を付けろよ」


「はぁいっ」


 返事はしたものの、里桜が俺から離れない。俺の胸にすりすりしてきて、少し照れくさくなる。


「あー、その……里桜?」


「やーだぁ。離れないもんっ」


「まだなんも言ってねぇだろ……。もう水遊びはいいのかって聞こうとしたんだよ」


「んー……ちょっと休憩? 隼くんが格好よかったから、甘えたくなっちゃったのっ。隼くんのせいだもんっ」


「なんだそりゃ……まぁいいけど。んじゃ、ちょうどいいから一回上がろうぜ。喉乾いてきたし、水分補給はこまめにしといた方がいいだろ」


 結構長いこと水を掛け合ってたからな。これだけ暑い炎天下にいるのだし、熱中症には気を付けたいところだ。


「そうだね。一旦荷物のところに戻ろっか。飲み物もちゃんと持ってきてるんだよ」


「おっ、さすが里桜。用意がいいな」


「でしょー? これはもっと好きになっちゃったんじゃなぁい?」


「んなもん常に更新し続けてるっての」


「あぅ……もうバカぁ」


 自分から言いだしたくせに……里桜の照れポイントがいまだによくわからんな。ま、俺としては里桜が可愛いからなにも文句ねぇけど。


 再びパラソルの下に戻ってきた俺達は、里桜が水筒で持ってきた冷たいお茶で喉の渇きを潤した。


「ふぅ……生き返るなぁ」


「そうだねぇ。思ったより汗かいてたのかもね」


「なんだかんだで結構動いたしな」


 ほどよい疲労感が心地よくて、俺はシートの上で大の字にごろりと寝転がった。日陰にいると、穏やかな海風が濡れた身体から熱を奪って、結構涼しい。


「あれ、隼くん疲れちゃった?」


「あぁいや、なんかこうすると気持ちいいかなって思ってさ」


「ふぅん。なら私もしてみよーっと」


 里桜も俺の隣で横になる。俺の腕を枕にして、ピタッとくっついてきた。


「あー、本当だぁ。いいねぇ、これ。最高かも」


「それは……どっちがだ?」


「もちろん、隼くんの腕枕が、だよ? そういえば、最近はずっと一緒に寝てるのに、こうしてもらうのは初めてだね」


「そういやそうだな」


 途端に、腕にかかる重みがとてつもなく尊いものに思えてきた。もちろん、里桜自体が俺にとってはかけがえのない存在なのだけど。


「里桜」


 小さく名を呼んで、横を見る。


「うん、なぁに隼くん?」


 里桜もまた、俺を見ていた。


 視線がぶつかると、下っ腹の辺りがきゅうっと締め付けられる。そこに意識を向けると、日焼け止めを塗っていた時の残り火が、小さく、でも確かに揺れていた。


 それが消えてしまうのがもったいなく感じて、俺は里桜に顔を寄せる。そして、静かに唇を重ねた。


「んっ……」


 甘く喉を鳴らす里桜。気が付けば俺は、里桜の唇を割り開いていた。深く深く口付けて、でもやりすぎは厳禁だ。里桜にこんなところでするなと言ったのは俺だし、理性ぷっつんしても困るもんな。もう少ししていたいな、そう思うくらいで切り上げた。


 家に帰り着くまで、この火を絶やしたくない。たぶん、俺はそんなことを考えていたんだと思う。


「んっ、はぁ……隼、くぅん」


「……ごめんな、急にして」


「ううん、隼くんからしてもらうの好きだもん。すっごく嬉しかったよ。でも、なんかちょっとしょっぱいね?」


「まぁ……海、だもんな」


「うん。海、だもんねぇ」


 塩味がアクセントになったせいなのか、前にした時よりもちょっとだけ甘く感じるキスだった。


 そして俺達は海を言い訳に、もう一度、微かに唇を触れ合わせる。


 やばいな。海、最高かもしれん。


 それからしばらく、俺達は波の音を枕に浜辺に寝そべり、寄り添って静かに過ごすのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ