第187話 まだ呼べない
婚約仕立ての頃は、『ちょっと恥ずかしい』程度で呼び方はそのままにしてたんだけど。
今はもっともっと『恥ずかしくて無理!』で、呼び捨てで呼べない!!
お母様がするように、様付けも考えたけど……それは今更過ぎるし。『旦那様』はまだまだ先だから、もっと無理!!
ピクニックの準備をしながら、頭の中はめちゃくちゃ焦ってた!! なんだかんだで、セシル兄とふたりっきりってなかったから……ちょっと、この前、『キスのやり直し』をしてもらったんだけど!!
想像以上に素敵で、数年前の上書きどころですまなかったぁああ!! ちゅっとするだけだったのに、『もっといい?』ってセシル兄が言うから『ダメ』って反射で言っちゃったけど!!?
わ、私たち、まだ子ども!! 必要以上はイチャイチャはダメって教育指導のメイミーおば様には言われているから!!
我慢以上に、私が溶けちゃいそうだから……ここはダメなのぉ。
「はい、出来た!」
ままごと銀製器具の中に入れてたから、準備はすぐ終わった。終わったけど……当然のように、横に腰掛けるセシル兄からいい匂いするんだけど!?
「弁当、ありがと。疲れてないか?」
「ぜ、全然!!」
距離が……距離が、近い!?
いちゃつき、ちょっとはいいだろって雰囲気だけど……お互いに、まだ成人前よ?! 私……は女の子の例の症状出ちゃったけれど、そのせいで『可愛い』が出ているのかな??
『ちょっとの雰囲気でも、男の子は気づきやすいから……気をつけてね?』
って、お母様が前に言ってたから……今??
今がそのときなの!!?
これはいけないとお弁当で気を逸らさなくちゃ!!
「はい。今日は持ちやすいサンドイッチにしたの」
ラップを使って巻いたサンドイッチ。
うちには普通にあるラップだけど……実は開発中のものだと知ったのは最近なのよね?? お母様の異能の関係で、娘の私も普通に使ってたから。
箱を開けてくれた、セシル兄の笑顔はかっこいいもありながら……可愛いって思えるのは婚約者の特権かしら??
「美味そう! 開けた時からいい匂い!」
「たっくさん食べて! お茶もあるから」
「……至れり尽くせり、だな?」
「えへへ」
敬語はもともとないけど……ごめんなさい。呼び名だけはもうちょっと待ってね? せめて、並ぶのに相応しいレディの出立ちになってからぁあああああ!!
よく鍛錬するからか、セシル兄は私が残した分のサンドイッチまで全部食べてくれたんだけど……。
「帰るまで、ちょっといい?」
「あ、うん」
ハグはされなかったけれど、膝枕はして欲しい……と。帰りも馬だから、ゆっくり休みたいのはわかる……わかるけど!!
寝顔が可愛いから、私がキスしたくなっちゃう!!? 何この拷問タイムぅうう!!?




