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いいきれない
「―― おれは通いだから、暮れ六つにはあがるんだけど、旦那様が、六つ過ぎたら部屋に来いっていいなさる。 ―― おそるおそる声をかけてふすまを開けたら、煙管を吸いながら、開け放した障子のむこうの、庭を見ていなさってよ。 はいれ、ってだけ言われたから、その背中をみながら、黙ったまま隅にかしこまってたのさ」
呼んでおきながら、旦那はチョウスケを振り返ることも話しかけることもしなかった。
ただ、時間だけがすぎてゆき、向こうの洋間にかけられた柱時計が、きれまなく音を響かせるのを、しびれをがまんして聞いていた。
と。
「―― ほら、よくいう、幽霊がでる時刻ってのは、丑三つ時とか、もっと夜中だろ?」
「・・・そうか?」
ヒコイチには、そういいきれない。
チョウスケは、そういうもんなんだよ、といいおいて続けた。
「ところがよ、時計の音が八つして、それからしばらくしたら、旦那様が ―――」
旦那が急にふりむいて、 ―― チョウスケ、あれがオタマだよ、 と庭をゆびさす。
庭の真ん中に、地味な着物を着た線のほそい女が立ち、眼のあったチョウスケに、にこりと微笑んだ。




