傷つけた者と傷ついた者
レイナは目を閉じた。
質問したい気持ちは山々だった。そこまで言えるくせに、自分をどうしてそんな風に扱ったのかと。しかしベインは言わないと宣言したし、その決議を取り消さないと確信した。でも苦笑いが溢れるのは防げなかった。
ベインが知っているかどうか。彼は言い訳になるから言わないと言ったが、そう言って行動で証明すると堂々と言うのがレイナの心を揺さぶったということを。
もしベインがずっと昔のような態度を取っていたら、いつか婚約が破棄されただろう。レイナはそのように確信した。皇子の婚約者という立場が家にどれほど大きな力になるかはよく知っており、貴族の令嬢として政略結婚の価値を否定することはできない。しかし、そんな気持ちさえもいつかは限界を迎えたはずだ。レイナは家の立場のために自分の人生まで明け渡すほど犠牲的な性格ではないから。
そのような観点から、ベインの変化はレイナにはありがたかった。婚約破棄を打診して父親を困らせる必要もないし、いつか実現する結婚生活も絶望的ではないだろうから。
そう思ったが、レイナは当然口に出して言わなかった。その代わり、目を開けた彼女の口から出てきたのは少しの皮肉だった。
「そうおっしゃるのを見ると、私の心を戻せると確信されているようですわね?」
「そんな傲慢な考えはしなかった。俺はただ最善を尽くすだけだ。俺を見守って、それでも許せないと思うなら俺を捨ててもいい。婚約破棄であれ何であれ受け入れる。家に迷惑になると思うなら俺の過失をはっきり明らかにしてしまえばいい」
「……殿下」
レイナは重々しく言った。
「正直に申し上げますの。私はいつも殿下と会うのが怖かったでしたわ。この人がいつか私の夫になるのが怖かったし、結婚生活は絶望に満ちていると確信しましたわ。でも政略結婚に感情は関係なく、家のためにも我慢して耐えなきゃならないと思いましたわね」
「そなたは俺が犯した数多くの無礼と暴言をいつも隠してくれたな。それが婚約者としての関係を崩さないための措置だったことは知っている。そしてそれがそなたにいつも負担になっていたことも」
「……実は今でも殿下が本当に恨めしいですの。今さらこうおっしゃってくださるのなら、そんなことができる御方だったら……なぜ今まで私にそのように接していたのでしょう。そんな考えが頭の中にずっと残っていますの。しかし殿下はその理由を今は言えないとおっしゃいましたわね」
レイナは微笑んだ。しかし彼女は目を伏せた。その笑顔は空っぽいだった。ベインにはそれが本音を隠すための偽りの笑みのように見えた。
ベインはそっと手を伸ばした。だがレイナの肩がビクッと上下し、彼女の体は少し縮み上がった。それを見たベインも驚きながら手を引いた。
「す、すまん。そなたは俺に触れるのも嫌だろう。配慮が足りなかったな」
「ち、違いますの。そういうことのせいじゃありません。ただ、えっと……」
レイナは言葉を続けることができなかった。瞬間的にベインが手出しをしようとしているのではないかと思って縮み上がったし、今のベインならそれを十分に察するだろうから。だがベインが変わろうとする以上、レイナ自身も変わらなければならないと思った。
「……続けてくださいませ」
「レイナ?」
「先ほどのこと、続けてくださいませ。殿下がどんな御方になろうとしているのか私も知らなきゃなりませんから」
ベインはためらった。しかしそのためらいは長くなかった。彼はゆっくりとレイナに近づき、レイナは緊張して体を固めながらも彼の視線を避けなかった。
ベインはレイナの背中に腕を回して彼女を抱きしめた。ベインの背が低いため、彼の顔は彼女の胸に埋められてしまった。彼の手がレイナの背中を撫でた。まるで彼女を慰めようとしているかのように。
「俺にそなたを慰める資格はない。そなたが俺のせいで傷ついて俺を恐れるのは当然のことだからな。でも言わせてほしい。……すまない。そして今までそなたを傷つけるだけの俺を捨てないでくれてありがとな。そなたが俺を最後まで認められなくても、結局俺を捨てることになっても、この感謝だけは決して忘れないだろう」
「……殿下」
レイナは言葉が詰まった。何か言いたい気持ちは山々だったが、言葉が全くまとまっていなかった。そんな自分が情けないと思いながらも、どこかそれを喜ぶ気持ちがあった。レイナはわざと眉をひそめて冗談を言い出した。
「それとなく私の胸に顔をつけましたわね」
「なっ!? あ、いやこれは……」
ベインは驚いて身を引いた。発言のためか、彼の視線はすでに発育が始まったレイナの胸に向けられた。すぐ顔を赤らめて顔を逸らしたが。
レイナは爆笑した。
「あはは。冗談ですわよ」
ベインはなぜか反応がなかった。ただ口をぽかんと開けたままレイナの顔をじっと見つめるだけだった。レイナは首をかしげた。
「殿下? どうしたんですの?」
「いや……そなたは笑うと本当にきれいな人だったんだな」
レイナは目をパチパチした。
彼女はベインからそんなことを言われるとは思ってもみなかった。だがそもそも今日のこと全てが思ってもみなかったことばかりだった。今さらその程度に驚くこともないだろう。
「お褒めの言葉ありがとうございますわ。でもそれは私がこんなに笑う顔を今日初めて見たという意味でしょう?」
「……すまない」
ベインはまたしょんぼりした。それを見たレイナは決断を下した。
「いいですわよ。殿下のお望み通りに機会を差し上げますわ。これから殿下を避けず、殿下とまたきちんとした関係を築いていきますの」
「本当か!?」
ベインの顔が明るくなった。年は一しか離れていないが、彼の低い身長のせいで年の差以上に子どものように見えた。
レイナはそれを可愛いと思ったが、口にしたのは別の言葉だった。
「ええ、本気ですわ。ただし、殿下がまた過去に戻ったらその時は終わりですの。私のすべてをかけてでも殿下の名誉を傷つけて婚約を破棄します」
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