庭園の少女
セイラは学園の庭園を見ていた。
『仮面の社交祭』が盛んに行われている時間だが、すべての生徒が社交祭に参加するわけではない。むしろ比率では参加しなかった人が少し多い。当然、庭園にも生徒がいた。
セイラはパメラが作ってくれた隠蔽の魔道具を使ったまま庭園を歩いた。彼女の姿も音も魔力の気配さえも完全に消える優秀な魔道具だった。魔法を使えばすぐに解除されるが、単純に歩き回る程度ならよほど感覚が敏感な人でなければ気づかない。
あえてそのようなものを使っているのは、ある人を密かに探すためだった。
「見つけた」
目的の人はすぐに見つかった。ありきたりの位置にあった……というより、セイラがその人の行動パターンを明らかに知っているからだったが。
「ふふ。いい子ね」
庭園の隅、花や茂みに隠れていてよく見えない位置だった。あえて近づかないと見つからないだろう。そこに隠れて花を撫でる少女がいた。
濃い緑色の髪を一つに編んだ少女だった。容姿は間違いなく美人だが、大きな眼鏡とカーディガンを羽織った身なりが地味な印象だった。その上、自信のない表情と陰鬱な雰囲気が暗い感じを醸し出していた。しかしその雰囲気とは異なり、彼女が撫でている白い花は生命力に満ちていた。
セイラはその花をすぐに見知った。北方の極寒の地でしか育たない花だった。その気候に適応したため、むしろ温暖なここではいくら努力しても育てることができない花だ。しかし少女が撫でているその花は本来の環境のよりも健康だった。
「きれいに育って嬉しいわ。これからもこのように生きてね」
少女の手に小さな魔法陣が現れた。魔法の力が花の生気をさらに強化した。少女は嬉しそうに微笑んだ。
憂鬱な雰囲気ではあるが、光景だけを見ると花を育てて喜ぶ少女の姿に過ぎなかった。しかし、それを見ていたセイラは怒った。少女への怒りではない。少女を今の彼女にした者への怒りだった。
ペリス・グレイニー・システル子爵令嬢。隅で一人で花を育てながら喜ぶ彼女が『カガハナ』の悪役令嬢の一人だと誰が想像できるだろうか。
セイラは姿を現して話しかけるか悩んだ。今にも声をかけて彼女の傷を癒したい気持ちは山のようだった。しかし、直接彼女に話しかけるのはためらいだ。
これまで彼女は、もしかすると世界の強制力や似たような何かがあることを恐れて、攻略対象者と接触しなかった。それでもベインはパメラの弟でもあり、『カガハナ』でも彼のルートはかなり自然な流れだったので強制力がなかったり弱いと思って親交を結ぶことができた。彼の婚約者であるレイナも悪役令嬢にもならなかったし、セイラとの接点が希薄だったのでむしろ安心できた。
しかし、ペリスは違う。彼女が悪役令嬢になるルートの攻略対象者は『カガハナ』でも何か強制力が作用したのではないかと思うほど不自然だった。そしてそれはペリスも同じだった。いや、ペリスは強制力でなくてもそれだけの要素があった。しかし、彼女と交流すれば結局彼女の婚約者と出会うことも発生するだろう。セイラが最も警戒しているのはそれだ。
セイラのためらいは結局彼女の役に立った。
「キャー! 今日も素敵ですっ!」
庭園の入り口から歓声が上がった。ペリスはびっくりした。騒がしくて何と言っているのかはよく聞こえなかったが、どうやらモテる男子生徒が現れたようだった。そして騒ぎはますますペリスの方に迫っていた。
「えっ、あ……!?」
ペリスもそれを感じて目に見えて慌てた。慌てて周辺を見回す姿が隠れる場所を探す動物のようだった。しかし、今以上隠れる場所は周辺にはなかった。ペリスの顔はますます白くなった。
だが茂みの向こうに突然現れた人を見た瞬間、ペリスの顔が明るくなった。
「ハゴール様!」
ペリスはその人に飛びついた。
活発に見える少年だった。金髪はまるで獣のたてがみのように乱れていて、紫色の瞳には活気と生命力があふれていた。落ち着きと冷静さより情熱と肯定がうかがえる印象だった。
少年は自分の胸に抱かれたペリスに向き合い、ニッコリと笑った。
「ペリス、またこんな所にいた?」
「あたしはここが楽です」
「君が好きな所にいるのはいいけど、僕もたまには僕の婚約者がこんなに可愛い子だって人に見せたいよ」
「もう、ハゴール様ってば」
少年はペリスの頭を優しく撫でた。ペリスはさっきの憂鬱な雰囲気が少しも見えない顔で笑った。ただ少年と少女が抱き合って喜ぶだけの、見ていると嬉しくなる光景だが……隠れて見守っていたセイラの眼差しは鋭かった。
ハゴール・リディム・アルニム。アルニム侯爵家の長子ではあるが、身分とは無関係の人気者だ。いつも明るくて肯定的で親和力も良い彼は身分と年齢を気にせず多くの人と親しくなっており、婚約者であるペリスとの関係は甘いことで有名だ。
ペリスの婚約者――つまり彼は『カガハナ』の攻略対象者だ。
「ハゴール様、『仮面の社交祭』に行かれたんじゃなかったんですの?」
「途中で抜け出したよ。愛しい君に一刻も早く会いたくてね」
「もう……」
ペリスは顔を赤らめながら頭を下げた。恥ずかしがってはいるが、その顔はとても嬉しそうだった。彼女に対するハゴールも明るく笑っていた。しかし、その光景を眺めるセイラはますます表情を険悪にした。
変な光景ではない。政略で定められた婚約である割には仲が良すぎるが、それは不可能なことではないから。そして二人のそのような姿はセイラにはとても慣れた姿だった。
それが問題なのだ。
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