噂の行方
「こんにちは。お会いできて嬉しいですわ」
パメラはロナンに話しかけた。ロナンは丁寧に彼女に挨拶した。
「初めましての御方ですね。お会いできて嬉しいです」
「僭越ながら、途中で興味深いことを伺いましたわ」
「パメラ第一皇女殿下と婚約者のことですか?」
「はい。外ではちらっと噂で聞いたくらいでしたけれども。もし失礼でなければ、詳しいことを伺ってもよろしいでしょうか?」
「詳しい……とはいえ、そんなに長い話ではありませんが」
ロナンはため息をついて話し始めた。
「入学初期にパメラ第一皇女殿下は婚約者を頻繁に訪ねてきました。ですが先日からそれが途切れました。学園の中でお二方が一緒にいる姿を見たという目撃談も消えてしまいました」
「覚えてますわ。それでお二方の仲が疎遠になったという噂がありましたわね?」
「その噂はおそらく僕が原因だったのでしょう。この前の社交祭でお二方に関する話が出たことがありましたので。その時、僕は『お二方の間に何かあったのではないか』という意味で話していました。その場にいた他の方々が婚約関係に何か問題が生じたのではないかという推測を出しました。どうやらその時のやり取りが噂になって広がったようです」
ロナンは頭を下げた。仮面のせいで表情が完全には見えなかったが、申し訳なさそうな気配があった。
パメラは仮面の中で少し眉をひそめた。
「もしあの時一緒にやり取りをしていた方々が外で話をされたんですの?」
「いいえ」
ロナンが口を開くよりも早く、彼と対話していた人々が答えた。全員ロナンと背が似ている少年だった。みんな変装のせいで誰なのかわからなかったが、身長を見ると高等部ではないようだった。ロナンド中等部でだし。
「そんな話を下手にするわけがないじゃないですか。皇女殿下に無礼になるかもしれませんよ。そしてその噂はいきなり高等部から始まりました。俺たちは高等部じゃありませんのに」
「その日、僕たちの近くにいた誰かがゴシップを聞きかじったのでしょう。とにかくそんな話をしてしまった僕のせいです」
ロナンはそう言ったが、パメラはあごに指を当てて考え込んだ。
彼らの言うことがすべて真実であるとは確信できない。しかし、ここであえて嘘をつく必要はないだろう。彼らの言う通りパメラに無礼になりうる素材ではあるが、だからといって本当に逮捕されたり指弾されたりするほどの話ではない。そんなことなるなら噂を聞いてアレクに詰め掛けた令嬢たちも処罰対象になってしまっただろう。
彼らの言うことが嘘で、彼らが噂を広めたのなら、それ以上掘り下げる余地はない。だが彼らの言うことが本当なら、誰かが彼らのやり取りを利用して噂を広めたかもしれない。そっちの方が質が悪い。人が言ったことを勝手に利用したということだから。
パメラは彼らに笑ってあげた。仮面のせいでちゃんと見えないが。
「思いがけず気苦労をされたのでしょうね。それでも皇女殿下は許してくださるでしょう。噂を聞いて婚約者を訪ねてきた令嬢たちにも何の処罰も下していなかったじゃないですか。そもそも処罰のようなことをするにも曖昧な事案ですからね」
「処罰を受けないからといって、全部いいと見過ごすわけにはいけません」
「本当にそう思うなら、後で皇女殿下に直接申し上げればいいと思いますわよ。ここでのことで顔を出すのが気まずいなら匿名の手紙でもいいでしょう」
「そんなことを皇女殿下に差し上げていいのかわかりません」
「皇女殿下はそんなことを責める御方じゃないと思いますわ。目的が謝罪なら対外的に知られても大きな問題はないでしょう」
「……考えてみます」
パメラは会心の笑みを浮かべた。
ロナンがどんな形で接触してくるのか、本当に接触してくるのかはまだわからない。だが彼が本当に手紙のような手段で来たら、パメラもそこに返事をする形で新しい窓口を作ることができるだろう。『カガハナ』の攻略対象者という点はともかく、デリメス子爵家はかなり実用的に役立つ家柄だ。長期的にはそのデリメスとのコネに発展させるとよい。
もちろん、そのような打算的な考えを表に出すつもりはない。
「ありがとうございます。助かりましたわ」
「どうしてそれを調べるのかはわかりませんが、お役に立てば嬉しいです」
パメラはその場を離れた後、アレクと合流した。『仮面の社交祭』も一種の社交界であり、そのような所に慣れていないせいか、彼は少し疲れて見えた。しかし引き受けた役割はまともに遂行したようだった。
「噂の経緯と経路について追跡してみた。最初に話が出たのは『彼』のグループだったらしいよ」
アレクが言った『彼』はロナンだ。やはり言葉が一番最初に出たのはロナンの方だったようだ。
「でも『彼』のグループではただおまッ……殿下と婚約者の関係についての簡単な雑談と推測程度の感じだったと思う。その後、他の人と話をしながらその話題が出てくることもなく、当時グループの話を聞きかじった周りの人たちもあまり気にしていなかったそうだ」
「当事者の話と似ているわね」
「ところで当時社交祭が終わってしばらくして急に高等部で噂が流れたよ。正確にどこから噂が始まったのかは誰も知らないようだが」
ということはアレクを狙ったのだろうか。
しかしそれが何の意味があるのか、パメラとしては分からなかった。政治的に大きな利益を得られるわけでもなく、パメラの行動で揉み消すことができるレベルの噂で婚約者の地位を揺るがすことにも無理がある。アレクもその部分は見当がつかないようだった。
しかし、そこに誰かの意図があるということだけは感じられた。
「ありがとう。これからはそっちのことをもっと気にしなきゃ。もし高等部で何かまた動きが見えたら言ってちょうだい」
「わかった」
今回の社交祭に出席した根本的な目的はこれで終わった。しかし、パメラは考えを止めなかった。
その挑戦がなかなか面白いと思いながら。
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