旧縁との戦い
彼らはティステの復讐をしようとする者たち。パメラがティステの転生者であることを知れば、パメラと敵対する理由が消える。だが話すだけで信じるわけでもなく、説得するほど長い対話を容認するわけでもない。だからパメラはいったん制圧した後、ゆっくり話すことにした。
一方、マーヴィンは冷笑しながら前に一歩進んだ。
「幼いコムスメが『万能』に酔って生意気だな」
マーヴィンは剣を振り回した。軌跡に沿って空気が凍りつき、無数の氷片になってパメラに飛んできた。アレクはパメラの前で氷壁を立てて防いだが、マーヴィンの氷弾幕がアレクの氷壁を破壊した。しかし貫通だけはなんとか遮断した。
直後、前に突進したアレクがマーヴィンに向かって剣を振り回した。斬撃自体は簡単に阻止された。しかし、下側から育った氷の槍がマーヴィンを狙った。マーヴィンは魔法陣を展開した手のひらでそれを防いだ。その直後、氷の大剣がマーヴィンの側頭を狙い、マーヴィンは同じように氷の大剣を作って防いだ。
アレクは燃えるような目でマーヴィンを睨んだ。
「貴様、反逆者のくせに俺の皇女に何の戯言を言ったんだ?」
「ほう、そんなにあのコムスメが大事なのか?」
「大切とか軽いもんじゃない!」
アレクは叫び、マーヴィンを力で押した。
「ちょっ、今何言ってるの!?」
「へえ、ああ言ってますけど皇女様~? 嬉しいですよね~?」
後ろでパメラが顔を赤らめたり、そんなパメラのわき腹をセイラがつつくなどの小さな騒動があった。しかし、アレクは厳しい視線をマーヴィンに向けるだけだった。マーヴィンはそんな彼を見て笑った。
「なかなかだな。でもお前に『氷』の使い方を教えたのが俺だったのを忘れたのか?」
「守るべき者を守れなかった甘い氷が口数だけ多い」
「テメェ……」
挑発してはいるが、アレクとマーヴィンの戦力差は明らかだった。見習いの中では才能が秀でていると評されているアレクだが、それでもまだ本隊になっていない見習い。本隊でも中堅級のマーヴィンを相手に勝つほどではない。
一対一なら。
「サポートするよ」
セイラとベインはアレクに向かった。パメラは一人でカーライルに向き直った。それを見たカーライルは眉をひそめた。
「どういうつもりですか?」
「特につもりっていうものはありません。ただ適切な役割分担に過ぎません」
「一人で私たち全員を相手にするということですか?」
「問題になることはありますの? 貴方たちの中で戦闘員はジークウッド卿だけでしょう」
「……さげすまれましたね」
カーライルが何かをしている様子はなかった。しかし何の前兆もなく、異変がパメラを飲み込んだ。
……そうなるべきだったが。
「おっと」
パメラは足を上げて地面を踏みにじった。その瞬間、パメラの足元から巨大な何かが飛び出したが、パメラの足に連動した魔法の圧力がその何かをまた地面の下に引っ込めた。パメラは後ろに下がって、その何かをゆっくりと観察した。
巨大な魔獣だった。全体的な形状はゴリラと似ていたが腕が二組で、毛の代わりに金属のような甲殻が皮膚を覆った。口元には熱い炎が燃え上がった。そして大きさは討伐祭のスリーブロスより少し小さいほど巨大だった。
鎧の巨獣グリバオ。スリーブロスと同級の強力な魔物だ。
「貴方たちが切り札を隠していることは大体知っていたのですけど、これがあれだったようですわね」
「緊張する方がいいでしょう。殺すつもりはないんですが、傷一つなく連れて行くつもりはありません」
パメラは小さく鼻を鳴らした。
グリバオとカーライルをつなぐかすかな魔力の線が感じられた。おそらくカーライルが何か魔法を使って操縦しているのだろう。しかし、パメラが覚えているカーライルの適性には魔物操縦能力のようなものはない。おそらく魔道具を使ったのだろう。どんな手を使ったとしても、パメラにとっては十分予想範囲内の脅威に過ぎなかった。
グリバオが咆哮しながら飛びかかる瞬間、パメラは口を開いた。
「指揮権を発動する。我が軍勢よ、この場に降臨せよ」
それは指示ではなく呪文詠唱だった。
パメラが前世の記憶を取り戻し三年間、セイラから得た知識とベインから感じたインスピレーションなどをもとに作り出した魔法。『万能』の適性者である彼女が三年かけて最近やっと完成した魔法であり、ほとんどの魔法を無詠唱で手軽に駆使してきた彼女もまだ無詠唱では使えない魔法。その魔法の初の実戦デビューだった。
――用兵魔法〈将軍〉
長い赤い制服のようなコートがマントのようにパメラの肩にかけ、赤い軍帽が彼女の頭上に現れた。手にはまるで指揮官の剣のような魔剣が握られていた。
パメラは突撃してくるグリバオに剣を向けた。
「砲門展開」
三つの砲撃魔法陣がパメラの後ろに現れた。そこから発射された爆炎がグリバオに直撃した。グリバオの鎧は破られなかったが、奴の突進が止まった。その間、パメラはさらに百の砲撃魔法陣を展開した。
「全砲門開放。――発砲せよ」
――用兵魔法〈全弾発射〉
すべての砲門の一斉射撃がグリバオを押し出した。奴の固い甲殻が砕けて散った。壊れた大きさは小さかったが、一方的に殴られる状況になるとグリバオが怒りの咆哮を上げた。
一方、その姿を見守っていたカーライルが歯を食いしばった。
「……やっぱり貴方はティステ様とは違う」
「いきなりどういうことですの?」
「ティステ様は才能をそんな暴力的な手段の開発に使っていた御方ではありませんでした。同じ『万能』でも所有者によって方向性が違うものですね」
パメラはため息をついた。
彼女がティステの転生者であることは知らないからっても、勝手にティステがどんな人なのかを断定してそのイメージに執着するとは。呆れることを超えて怒りまで覚えた。
「貴方はティステが聖女とかだと思いますの? 処刑の瞬間まで仇敵を許したと信じますの?」
「もちろんです」
「……本気ですの?」
その瞬間、パメラは決定を下した。戦略でも何でもなく、ただ感情に基づいた決定を。
バカの目を覚まさせるには拳が薬なものだ。
「決めましたわ。とりあえず貴方はめっちゃ叩いてあげましょう」
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