西野才加
恋人同士になったからといって、何かが変わる訳ではなかった。いつもと同じように、『Blue Note』で雑談をして、お弁当を作ってもらって、バイトに行く。
変わったことといえば、以前に比べると、『Blue Note』にお客さんが増えたくらいだ。
就職活動も開始していたが、こちらの方は一向に進展がなく、お祈りメールばかりが増えていった。
このままでは、去年と同じになると気持ちばかり焦ってしまうが、具体的な対策は思いつかないでいた。
西野とは、時々、LINEで話す程度の関係だった。仕事をしてる西野の、夜のバイトの俺では、そもそも、時間が合わない。
でも、ある時、思い切って、気になっていたことを聞いてみた。
〉チアキ先輩の告白を何でオッケーしたの?
》気になるの?
〉いや、別に……
》じゃあ、いいじゃない。
〉西野って、あんな感じの告白はオッケーしないタイプだと思ってたからさ。
》並木くんが知ってるのは、高3の私。それから、5年近く経ってるのよ。
もっともだった。俺自身、この5年近くで色々あった。西野にも、色々あったはずだ。そして、人は変わっていく。良い方にも、悪い方にも。
クラス委員で、高嶺に輝く花だった西野は、鉢植えでも綺麗に咲ける花になっていたのだ。
チアキ先輩と西野は、水族館以来、まともなデートはしていないらしい。チアキ先輩の試合が近いので、ゆっくり会う時間もないみたいだ。
今度の対戦相手は、ブラジルではかなり有名な格闘家だという。「暴君」と呼ばれるファイターで、10勝2敗10KO。2つの負けもKO負けなので、倒すか倒されるかといった戦いをするようだ。
今回は、チアキ先輩から3人分のチケットをもらった。みゆきは、チケットを受け取ると、嬉しそうに飛び跳ねていた。
「今度は、差し入れは何が良いですかね?」
「差し入れは、いらないんじゃないかな?」
「そうですか?じゃあ、応援に来てくれた後輩さんたちに何か……」
遊びに行くと、いつもお菓子を用意してくれていた田舎のおばあちゃんを思い出した。
「応援に来た後輩って100人分とかだよ。破産しちゃうよ」
「うーん、そうですねぇ」
みゆきは、何か良いアイデアはないかと、頭をひねっていた。そんなみゆきを諦めさせるのは、なかなかに大変だった。最近、チアキ先輩の頑固さが、みゆきにかんせんしているんじゃないかと思うことがある。まぁ、可愛いので、許してしまうんだけど。
チアキ先輩の対戦相手は、試合前からかなりチアキ先輩を挑発していた。
「日本の有名なケンカファイターと戦えて光栄だ。俺との殴り合いから逃げるなよ」
チアキ先輩もこれに反応して、言い返していた
「ブラジルから来てもらって、申し訳ないが、1分で日本観光は終わりだ」
両陣営のヒートアップぶりは、試合前の撮影の日でも露になった。ファイティングポーズで並んで撮影するだけのはずが、胸ぐらをつかむ大乱闘に発展したのだ。関係者が割って入らなかったら、あのままゴングが鳴っていただろう。
マスコミも、煽るような記事を書くので、互いにますますヒートアップするばかり。
そして、運命の試合の日がやってきた。




