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異能モノノケ録  作者: 長尾景虎
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第81話 二度と会いたくない悪党

 

 九良名学園生徒会、並びに風紀委員会に休みは無い。

 一般の生徒と違い、夏休みを始めとした長期休みなど名ばかりだ。授業が無い代わりに退魔師としての仕事のローテーションが多めに組まれる。

 またこの時期、学生退魔師たちとは対照的に大喜びする者たちもいる。それが正規の退魔師……一線で働く“社”の職員たちだ。

 日中にこなすパトロールや“響きの呼び符”設置地点の点検。夜間に行う街中や郊外の警備。それら多くを担ってきた“社”の退魔師は学園生の学業免除で空いた時間、人員を活用してバックアップ、サポート体制を強化、10の負担を6、7まで減らす事が出来る。

 学生たちにとっては目が回る程にこき使われるのだが、必ずしも悪い事ばかりではない。

 九良名学園の生徒会や風紀委員はエリートの部類だが、それでも見習い扱いの仮免……正式な退魔師資格というものを持っていない。

 資格は細々とした特典を含めればそれなりに有用だ。顕術に関する書物や過去の案件で制限のかかっているデータの閲覧許可などもその一つ。さらには“社”に正式に就職しなければ受けられない訓練メニューなど、本格的に退魔師の技量を磨きたい学生にとっては垂涎の報酬と言えよう。

 そして休みの期間中、学生たちにはこれらを享受するための仮免許以上、本免許未満の“準本免許”とでも呼べば良いのか……とにかく、そんな感じの立場を与えられる。

 実践の機会も増え、風紀委員でも比較的アウトドアな傾向の者は歓喜に沸くが、戦闘に重きを置かず得手としない傾向の者にとっては、休みたいゲームしたいデートしたい久し振りに横になって寝たいといった切実な悩みが噴き出す期間でもあった。

 とは言え、やるべき事はしっかりこなすのが売りでもある九良名学園第三校風紀委員会。他所と比べて若干早めの終業式を終え、始まった冬休み。

 九良名市の“社”指揮下で近隣の街へと派遣されてきた風紀委員6名プラス1が、手違いから現地の退魔師……正確には臨時雇いの退治屋たちと衝突を起こしていた。


「だから! あんたらが横槍を入れてこなければ、こちらの連携が乱れる事は無かったんだ。こっちは怪我人が出ているんだぞ!?」


 退治屋(バスター)は退魔師協会に限らず、認可を得ている組織に所属していない退魔師を総称した呼び名である。

 退治屋には組織のしがらみが面倒だという理由であえてフリーでいる者と、実力や人格面で不適格とされて協会に所属出来なかった者たち、あるいは厚待遇で取り立てられるのを待って力を示そうとする者たちがいる。希有な例として、独自の人脈やルートを持っている一匹狼が個人的な依頼で報酬を受け取り、実入りの良さからむしろ協会の介入を拒む場合もあるのだが。

 ただし、それら金銭的にも能力的にも協会のサポートを必要としない退治屋は全体で一摘まみも存在しない。おまけに超が付く確かな実力が必要とされるため、そこまで行くと組織への所属は半強制的になり、敵を増やしたくなければフリーを貫くなど不可能だった。

 今、風紀委員と言い争っている男はそんな超級の者たちとは比べるのもおこがましい三流で、条件の良い引き抜きを待つ者たち。能力を示して点数稼ぎをしようと先走った連中だ。当然、自分たちがミスしたなどと認める筈もない。

 それでも、学生よりも頭一つ抜けた実力と経験を持った者たちである。しかも臨時雇いである以上、立場としては学生たちと同じ正式なものだ。

 そうなると、どうしても実力で劣る風紀委員の方が立場も弱くなってしまう。

 風紀委員6名はそんな理不尽に精一杯抵抗していた。


「はあ? おいおい、ガキのくせに本職(・・)にケチ付けようってのか。そっちのガキが怪我したのはそいつが間抜けだったからだ。弱いくせにでしゃばるからそうなるんだよ!」


 もはやチンピラにしか見えない退魔師3人はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら怪我をしてぐったりとした風紀委員を見ている。

 “響きの呼び符”が設置されている郊外の空き地に現れた一級から二級の鬼が複数。その内の一体、獣型の鬼を相手に無駄の無い連携で対応していた風紀委員たちを巻き込んで攻撃を放ったのがチンピラ退魔師たちだった。

 フレンドリーファイヤはたまにある事ではあるし、それ自体では怪我はしなかったが、それが原因で連携が崩れて後衛をしていた男子風紀委員の場所まで侵入を許してしまう。そして脇腹の肉を牙で抉られてしまったのだ。

 現在進行形で他の風紀委員が数人がかりの治癒を行っているため命に別状は無いが、下手をすれば怪我では済まなかったかもしれない。それを思うと、風紀委員が熱くなって退治屋に噛みつくのも当然だろう。


「あんたら3人の事は上に報告する。責任は取らせるからな!」


「はっ! 仮免の学生が何を言っても、重く見られるのは実績のある俺らの言葉だ。俺はお前らが先走って邪魔したあげく、言い掛かりを付けてきたって報告するぜ?」


 実際、学生の退魔師と、曲がりなりにも一線で仕事をこなしてきた退治屋の報告では、後者が重視されてしまうのは仕方のない事だった。

 こういった事態を避けるために正規の退魔師も必ず同行が義務付けられている。しかし、規則を知っている筈のチンピラ退魔師3人はその意味を理解していない。まるでこの場にそんな人間は存在していない(・・・・・・・)かのように語っていた。


「………正気か? 監督役として正規の退魔師がいるこの場で、そんな妄言を押し通すつもりなのか?」


「はっ、そんな奴が何処に居るって? ここにいるのは俺達3人の本職(・・)と、ひよっこの学生だけだ。大方、学生のお守りに飽きてサボってんだろうが、お前らにとっては運が無かったようだな」


 チンピラ退魔師の言葉に風紀委員たちは揃って顔を見合わせ、目の前で馬鹿を晒す男を不思議そうに、あるいは憐れみを込めて見ている。


「“社”から通達があった筈だが……まさか聞いてないのか?」


「あ?」


 今度はチンピラ3人が顔を見合わす。

 一様に、風紀委員の少年が何を言っているのか分かっていないようだ。


「おい、変なハッタリで煙にまこうったって――――」


「こほんっ!」


 咳払いで全員の注目を集めたのは、怪我をした風紀委員の治療に加わっていた別の少年。

 前の開いたコートの下に九良名学園第三校の制服を着ている事から同じ風紀委員だと分かる。

 男たちは変わらず見下すような視線を少年に向けていた。


「貴方たち三人、実力はそこそこなのに、素行や人格面に問題があるため退魔師としての正式採用を見送られてきたと聞いていました。何故か(・・・)監督役の退魔師についての連絡が行っていなかったようですが、それでも今回の件は目に余ります。僕の方から報告書を上げておきますので、これで貴方たち三人、めでたくブラックリスト入りでしょうね。南無南無」


「はあ? 何言ってんだガキ」


「頭沸いてんじゃねぇのか? お前の報告なんか誰も信じねえっつってんの」


「お前じゃ話にならねえ。なんならこの場に監督役の退魔師とやらを連れて来いよ。お前ら全員お尻ペンペンしてもらからよぉ」


 ギャハハハと頭の悪い笑い声を上げる男たち。

 そんな不愉快な光景に―――内心がどうかは知らないが―――穏やかな笑顔で対峙する風紀委員の少年。

 そしておもむろに、コートの内ポケットからしっかりした造りの身分証を取り出した。


 シュピッ


 男たち三人に見えるようにそれを指先に挟んで、それが意味する事実を突き付ける。

 三人はすぐには気付かず数秒の馬鹿笑いを続けたが、それに気付き始めた時、水の入った桶の底に穴が空いたように、サァーッと笑い声も血の気も引いていった。


 特一級退魔師


 退魔師協会が発行し、偽造はほぼ不可能とされる正真正銘の退魔師資格証。もし偽造するだけの腕があれば、それだけで協会幹部候補にもなれてしまうため、真贋に関わらず、男たち三人には悪夢のような光景だ。

 見る限り、それは本物にしか見えない。と言うか、現代の技術では不可能な謎の加工で資格証には宇宙空間のような奥行きがある。ちゃちな偽物ではあり得ない事は火を見るより明らかだ。


「黒沼公浩、本職(・・)の退魔師です」


 それは正しく、悪党が『葵の御紋』にひれ伏す瞬間だった。



             ★



 公浩が種咲から帰還した翌日の早朝。

 学園長室にて、部屋の主たる亜笠と黒沼公浩はソファに座って向かい合っていた。

 二人の前にはジェーンが淹れた茶が出されている。対面の形式からして、それなりに改まった内容の話なのだと推測できた。いつもならデスク越しにあれこれと言葉を投げるやり取りだというのに、今は対等な相手にするような対応だったのだから。

 そんな中で亜笠から齎された話は、退魔師の業界では前例の無い破格の処置に関するものだった。


「特一級? 僕がですか?」


 テーブルに置かれている特殊加工を施された黒いカードを見る。


「そうだ。いらないなら突っぱねてもいいぞ?」


「……いいえ、出世は大好きです」


 吸い込まれそうな不可思議な奥行きのあるカードを取り、ニコッと笑って見せる。

 “日計の毒”の幹部を退けた戦功により、黒沼公浩に正式な退魔師資格、それも特一級という破格の評価が与えられた。学生期間中の退魔師資格の授与など前代未聞の出来事だ。

 亜笠がこれを聞かされた時など、暫く空いた口が塞がらなかった程。持っていたコーヒーをスーツにぶちまけてもいた。ちなみに、澪が学園長室を訪れたその日を境にスーツを新調し、今ではグレーのパンツスーツになっているが、その理由はスーツを汚したのを期に気分を変えるため……と、大抵の者は信じている。決して脚周り(・・・)が気になったのではない。断じてない。


「自分で言うのもなんですが、向こうであれだけの活躍をしたのですから、当然の処置と言えるかもしれませんね。そのために身体を張ったのですし」


「相変わらずだな。つーか調子乗んなよ? 今回の特例は何と言っても五行一樹の強い推挙と、それを平のおっさんが後押ししたからだ。まったく………あいつら結託して何て無茶しやがる。普通の(・・・)退魔師資格ならいざ知らず、宙に浮いてた議題をこれ幸いと纏めあげて、あっと言う間に新しいルールが出来ちまった」


「? 普通の……ではないという事ですか?」


「……ジェーン、説明」


 亜笠が面倒臭そうにソファにもたれて天井を仰ぎ見る。資格に関する説明を秘書に丸投げして。

 ジェーンは苦笑して説明を始めた。


「黒沼君の退魔師資格は少し特別なんです。新しい試みの、所謂テストケースといった具合の」


「ふむふむ。見た感じ一般的な資格証に見えますが……やや?」


 黒いカードの端、身分を記載した部分の下辺りに小さく『特殊資格A-1適用』と書かれている。A-1と言うのは協会の規約に関する条項を表すもので、A-1ならその最初に記載されている文言ということだ。

 しかし、特殊資格と言うのは聞いた事が無い。新しい試みと言っていたから、協会が新たに施行した制度なのだろう。


「『特殊資格』は試験的な導入で、現在のところ認められているのは黒沼君を含めた二人だけです。名称も今後変わるかもしれませんし、無視できない問題点が見つかれば即時撤廃も十分にあり得ます。はしゃぎ過ぎないように注意してくださいね。この資格を持つことによる具体的な特典……恩恵は、説明しだすと長くなるので要点をまとめて言いますと、まぁそれでも少しややこしいですが、協会所属(・・・・)フリーランサー(・・・・・・・)って感じでしょうか」


「ああ………なるほど」


 協会所属の退魔師はこれまで個人の利益を追求した、所謂もぐりの仕事は基本的に認められていなかった。個人的に依頼を受けて高額の報酬や利益を得る場合などがこれにあたる。

 中には黙認、容認する場合もあったが、今回の『特殊資格』はそれらを制度化し、正式な権利として一部に与えようと言うのだ。

 ジェーンが言うようにかなりややこしい話だが、要は給料を貰いながら副業で儲けても良いというお墨付きの事。例えるなら特殊な医師免許を持ったブラック・ジャックや私掠免許を持った海賊のようなもの。一学生には過ぎた特権と言えた。


「黒沼。お前なら、これがどんだけ危うい代物か理解できるだろ? 協会にとってお前は両刃の剣だ。恐らく特別な監視も付く事になる。そんな厄介な代物でも欲しいと思うのか?」


 試験的にとは言え、退魔師協会が行おうとしているのはかなりのリスクを孕んでいる。

 この『特殊資格』を持っていれば協会所属の退魔師として利権を享受しながら、同時に第三者からの仕事をして報酬を受け取る事もできるのだ。

 協会としては最悪の場合、利益相反で損害を被る事もあり得る。もちろん、あまりにも極端な行為は禁じているが、それでもいつ獅子身中の虫となるか分からないのも確か。

 そもそも、そこまでして公浩にその資格を与える意味がいまいち図りかねる。五行一樹がそれを推したと言うのなら何か理由があるのだろうが、前回の戦争で徴兵された経緯も考えると、単純に素敵な贈り物だと楽観はできない。

 何か面倒な思惑があると思われるのだが………まあ、今のところあって困る物でもなし、貰える物は貰っておく。これ(・・)の利用価値を考えるのも、今後の楽しみとしよう。


「何をしなくても出世が約束されている“六家”の姫君には、出世欲の塊である下々の者の気持ちは分からないでしょうね。『これ』は有り難く受け取らせていただきます」


「……口の減らないガキだな」


 公浩の嫌味に眉を顰め、引き攣った笑みを浮かべる亜笠。そしてジェーンは別の所がツボに入ったらしい。


「二十代後半の姫君………ぷぷ」


「おいこら。二十代後半を待たずして息の根を留めてやろうか、ああん!?」


「スミスさん、一つ言わせてください。学園長は二十代後半ではなく……二十代終盤(・・)ではないでしょうか?」


 ――――キュボンッッッ


 その日、学園長室が謎の爆発音と同時に吹き飛び、吹き抜けになった。

 キミヒロはにげた。



              ★



 北陸の田舎町、その地下空間。

 地上部分では雪が膝下まで降り積もり、雪の重さで屋根が潰れないか心配する住民が多い中、地下の住人たちは天井よりも別の心配……窮地に直面していた。


 ドゴォオオン!!


 爆音が鳴り響き、簡素だが近代的な建物の影からはわらわらと下級、中級の鬼が湧きだした。

 地下に広がるドーム状の広大な空間は『大部屋』の術式によって、実際に内包するスペースが市街規模、下手をしたら県規模となっている、一種の地下都市。とは言っても人が住むような居住的な環境ではなく、主に工場や研究所の様相だ。

 事実、そこは“白面金毛”率いる“鬼”の組織が科学的な武器弾薬、顕術の研究などを行う拠点の一つ。人間も多数存在しているが、最低限の住環境を除けば、残りは殆ど鬼の保管庫と化しているあまりにも歪な街。


 そこに攻めいるのは3人。と、地上に控えた数百体の鬼。

 “真ノ悪”の強襲チームだ。

 今のところ、実際に動いているのは幹部クラスの力を持つ3人だけ。ただ、攻め込んでいる今となっては3人でも過剰だったかとも思える。

 “円卓”と呼ばれる二人の“鬼”と、その指揮を執る加藤鵈だけで、ここまでに遭遇した特一級以上の鬼が二桁は消え去っているのだから。そこには苦戦した様子など皆無だった。


「はぁ、嫌な仕事ですね。これでは虐殺ではありませんか、加藤様。あまりにも哀しい」


 ショートカットの金髪を戦闘の余波に靡かせるままに、不満を溢しつつ二本の長剣を自在に振り回し、ジャングルの蔦や葉を退けるかのような気軽さで建物を右へ左へ粉砕していく重鎧の騎士。

 白を基調とした重鎧が存在感を倍ほどに膨れ上がらせている。中身は線の細い中性的な騎士が使うのは二本の長剣。聖剣クラスの名剣なのだが、鎧と相まってどこか頼りなく映ってしまう。

 そんな双剣は一振り毎に地下都市の中心への道を真っ直ぐに切り開いていく。建物の瓦礫は横に退けられ、山となっていた。


「ははは、これは異な事を申される。トリスタン殿、我々は“真ノ悪”でござるぞ? 悪党は黙って悪事を働いていれば良いのでござるよ」


 トリスタンと呼ばれた騎士の後ろを悠々と、そして忍装束であることを考えれば違和感を覚えるほどに堂々と歩いているのは加藤(みさご)。顔の下半分は隠れていて窺えないが、目元には上機嫌な笑みの形が浮かんでいるようであった。


「長期の潜入任務で思想がブレていないか心配でしたが、杞憂だったようですね。試そうとした事を謝罪します」


「拙者を試そうとは、トリスタン殿では数百年は早いでござるな」


 何でもない気楽さで交わされる会話の最中にも、トリスタンの通った道は一切合切が更地となっていく。いや、トリスタンが剣を振るった場所が道になっていると言うべきか。

 蹂躙とも呼べないような作業。その過程に人鬼問わず相当数の命が刈り取られているが、これこそトリスタン曰く、『正義』の行進だった。


「そろそろパーシヴァル殿の準備も終わる頃でござるな。トリスタン殿、時間切れにござる」


「……不覚です。パーシヴァルに遅れを取るとは」


 パーシヴァルは破壊工作の一環で別行動をしている。そちらの準備が終わるまでにトリスタンが街の中央まで到達出来ればトリスタンの勝ち。出来なければパーシヴァルの勝ちで、その場合は………


「此度の勝負でトリスタン殿がパーシヴァル殿に負けたら、イゾルデ嬢とパーシヴァル殿が一日デート………」


「言わないでください。パーシヴァルを殺さねばならなくなります」


「そう言えば、パーシヴァル殿が新しい首輪を買ったと聞いたような………」


「死ねパーシヴァル!!!」


 ドガァアアアンッッッ!!!


 その一撃で前方の道が一気に千メートル以上拓けた。

 鵈が「おお~~」と感嘆の声を漏らしている。

 嫉妬のエネルギーの強大さは、士緒の周りの女を見てきた鵈には良く理解できた。その使い方も、心得たものだ。


「これで一気に都市の中央まで抜けたでござるな。地下ではあれど、天晴れでござる」


「パーーーシヴァルーーー!! 私の可愛いイゾルデを鎖で引き回そうなどと! 今殺しに行くからなーーー!!」


 そのままマッハのスピードで道を駆け抜けて行ってしまった。加速時の衝撃波が鵈に直撃し、辺りの瓦礫も綺麗に掃除するオマケ付きで。


「……………やり過ぎたでござるか?」


 トリスタンは普段は冷静で頭も切れる。“円卓”でも一、二を争う強さと、武力は申し分無い。仕事は何でもこなす万能型。有能過ぎて、依存性の強さで言えば“真ノ悪”内では焔に次ぐ程だ。

 しかしながらイゾルデ……愛犬のトイプードル♀の事となるとあらゆる物を見失う。どこかで理性が働いているのか仕事に大きな支障を来した事は無いが、トリスタンの後ろでソニックブームの直撃を受けた身の鵈としては、苦笑を禁じ得ないのだが。

 鵈もすぐに後を追い、もはや周りの罠を気にせずに済むため、即座に街の中心地点に到着した。


「にんにん。この建物が本丸でござるかな?」


 ここまでの建造物もそうだったが、殆どがこれといったデザインや窓すらも無いシンプルな長方形の箱だった。

 目の前の箱は5階建てぐらいで、横に大きく広がっている。

 そもそもからして、地下であれば通路と部屋だけ用意すれば良いものを、無駄に広大な空間の中に建物を造る事自体が合理的ではない。にも関わらず、建造物は一切の無駄を排除した遊びの無い形。このちぐはぐさも、ここが“白面金毛”の領域だと考えれば納得出来てしまう。

 この都市が“白面金毛”の腹の中(・・・)だと、否応無く納得させられてしまうのだ。


「ぜぇ――――ぜぇ――――出てこいパーシヴァルぅーーー!! イゾルデは渡さんっ!! 征くぞ『友よ(パロミデス)』! 敵を滅ぼせ!!」


 トリスタンが持つ二振りの長剣が輝きを帯びる。

 朋友剣『友よ(パロミデス)』と名付けられた双剣の光がトリスタンの通力の増大と比例して膨れ上がり、そのまま双剣の延長として巨大な光の刃の形を成した。

 15階建てのビルを越える二つの破滅の光を背負い投げのように振りかぶり、足が地面に埋まる程の踏み込みと同時に叩き付けた。


 ガギィインッッッ――――――――!!!


 建物を覆うように結界が発動し、トリスタンの振り下ろした一撃を寸での所で受け止めた。


「小癪なぁあああ!!」


 ジリジリと光の大剣が結界を押し込んでいく。

 粉砕より通力を削るベクトルで能力を行使しているためか、結界はみるみる範囲を縮小していった。


「なかなかの結界でござったが、所詮はこの程度。もっとも、拙者たちが基準としているのが若殿の顕術では、些か酷でござるか」


 トリスタンなら後数秒で結界を消し去れる。恐らくこの結界は“白面金毛”本人の仕事だろう。世界でも最高クラスの結界顕術使い。橘花院士緒という存在がいなければ、間違い無く最強を狙える使い手だ。

 それほどに強力な結界であっても、トリスタンの攻撃には耐えられない。比較するなら、八重波の『雨四光』と同程度の威力。術式で対抗するのは士緒でも困難だ。

 思ったより楽な仕事になりそうだと、鵈が笑みを浮かべていると、漸く(・・)、話が出来そうな敵が現れた。


「にん?」


 鵈が視線を胸元に送ると、ナイフの柄が生えていた。

 明らかにナイフが刺さっているが、当の鵈は涼しい顔(上半分)で、しかしばつが悪そうに頭を掻いているだけだ。


「トリスタン殿ー。忍がいるでござるぞー。注意されよ」


 ドゴォオオンッッ!!


 ちょうどトリスタンの剣が結界を破り、勢いそのままに建物を吹き飛ばした所だった。


「――――ふぅ………漸くですか。ここまで丁寧に(・・・)壊して進んで来たのに誰も現れませんでしたからね。逃げられてなくて安心しました……おや? 大丈夫なのですか加藤様、それ(・・)


 鵈の胸に突き立っているナイフを指して言うトリスタン。そこには別段、鵈の身を案じるような雰囲気は感じられないが、一応の礼として状態を聞いてみたのだ。


「毒が塗られているようでござるが、これは人間用でござるな。これで拙者が“鬼”の類だとばれもうした」


 毒だとか以前に、心臓にナイフが突き立って平然としている時点で人間ではないと言い切れる。そのズレた物言いには緊張感など皆無だった。

 蝶々を摘まむような気軽さでナイフを摘まんで引き抜き、何も無い空間に向けて投擲し返した。


「忍が一と、異形が………おお、五はいるでござるなぁ。皆強そうでごさるぞ」


 鵈が投擲したナイフは中空でピタリと止まった。そこを中心に空間がブレ始める。

 澪の顕術程に高度ではないにしても、光をねじ曲げる程度の空間顕術で光学迷彩を張っていたようだ。ナイフを挟んだ指先から徐々に姿が顕になっていった。


「カトウ………トビ、カトウ」


 最初に現れたのはナイフを止めた人型。鵈は忍と称したが、格好はいかにもな特殊部隊といった風体の男だ。

 ピッチリしたスーツに頑丈そうなジャケット。ジャケットのあちこちに衣囊(いのう)が付けられ、そこには先程と同じ型のナイフや、グレネード、銃器のマガジンらしき物まで備えている。

 極めつけに頭部を覆う暗視スコープ付きのヘルメットが、その怪しさを限界まで引き上げていた。


「ほう、“飛び加藤”か。“日計の毒”は先日の退魔師の攻勢で壊滅したと聞いたが、敗残の兵が何故、我等を襲う?」


 続いて姿が見えたのは体長3メートルはある蜘蛛だ。

 形こそ蜘蛛だが、表皮は生物的質感ではなく金属のような鈍い光を反射する硬質感があった。金属の肌には所々から鋭い刃が出張っていて、その一つ一つから名刀に匹敵する切れ味が感じられる。

 さらに言うと、異形の姿でありながら前者の人型よりも流暢な言葉の印象を受ける。

 他に4体の異形……金属蜘蛛の背中と背後に鳥獣形が1体ずつと海棲型(金属蜘蛛より一回り大きい亀)が2体ずついるが、いずれも会話可能な知性があるようには見えない。恐らく場を仕切っているのはこの蜘蛛で、話をするとしたらこいつだろう。

 しかしながら………


「ああ………そういうのは結構でござるよ」


 鵈がスッと手を挙げ、それを敵勢に向けて下ろした。


「ん? なにを――――――っ!?」


 その瞬間、津波の如く押し寄せた『飛閃の太刀』が異形の鬼たちを容赦無く呑み込んだ。

 金属蜘蛛の体表は一瞬の内にズタズタに削げ、その背中に乗っていた鳥獣型と両側に控えていた海棲型が粉々に消し飛んでいく。


「ばかなっ――――何だこれは!?」


 脚を半ばで折られ立つこともままならない状態に陥り、半狂乱で叫ぶ金属蜘蛛。

 蜘蛛の後方にいた鳥獣型は辛うじて攻撃を逃れており、その場から飛び立って地下に広がる暗い空へと昇っていた。


見敵必殺(サーチアンドデストロイ)。今の我等に殲滅以外の意思疏通は不可能と心得られよ」


「加藤様、一方通行では意思を疎通(・・)しているとは言えないのでは?」


「言葉遊びにござる」


 シュンッ


 トリスタンが上空に向けて先程と同じ『飛閃の太刀』を複数、無造作に放つ。

 数秒後、空から大型の鳥の残骸が降り注いだ。それはすぐに塵となって積もり、小さな山を作った。


「忍は先に潰しておきたかったでござるが、どさくさで隠れられてしまっては仕方なし。トリスタン殿」


「承知しました。てい」


「ま、まて――――」


 ガキンッ


 トリスタンの双剣が、気配を眩ました人型の代わりとばかりに金属蜘蛛の頭部に突き立てられる。自らの名前も、命乞いの言葉を言う時間さえ与えられなかった蜘蛛は、サラサラの砂粒と消えていった。


「にんにん、それでは………忍の者に告げる。これよりの言葉は“山本五郎左衛門”の言葉と心得よ。これを持ち帰り、よく伝えるのだ。これは“白面金毛”……玉藻の前への警告である」


 鵈のよく通る声が一帯に響く。

 人型が近くに隠れているのは分かっていた。殺そうと思えば苦も無く殺せるだろう。

 しかし、最低一人は“白面金毛”へのメッセンジャーとして残すつもりだったため、あえて生かしているのだ。

 それ以外はここに辿り着くまでに潰してきた。言葉を伝えられる者が現れるのを待っていたためにゆっくりではあったが、その気になればこの地下都市を更地に変える事など、トリスタンがいれば容易い。

 最悪皆殺しでも構わなかったのだが、パーシヴァルの仕込みを使う前に話の出来る相手に会えて幸いだった。

 鵈は隠れた相手に向け、けっして大きくはないが、それでも確実に届くだろう声量で言葉を紡ぐ。


「変革を行うのはお前たちではない。お前たちの正義も受け入れない。新世界は()の物。大人しく引っ込んでいろ阿婆擦れが」


 鵈が言葉を切り、後ろ手にトリスタンに向けて合図を送る。トリスタンは一つ頷くと、『大部屋』の術式からくるくると巻かれていた紙を取り出し、絨毯程の大きさのそれを地面に広げた。

 それは『駿空結界 サン式』。転移元の術式が使用後に自動で消滅する使い捨てだ。これにより術式などを残さず、緊急で退避する場合や痕跡を残したくない場合に役に立つ。

 今、鵈たちが攻め入っている場所は“白面金毛”の分け身とも言える空間……“白面金毛”の正しく体内だった。万が一にも転移という優位性を奪われないためにも、証拠の隠滅は徹底的に行う。ただし、メッセンジャーを通じて転移の存在くらいは教えても構わない。それが伝われば仁科黎明への牽制にもなる。焦って例の爆弾(・・・・)をせっせと呑み込んでくれれば御の字だ。


「挨拶代わりにお前の()を一本貰っていく。精々残りの尾を大事にすることだ」


 鵈とトリスタンが術式の中に入り、『駿空結界』によって包まれる。鵈は御機嫌な笑みを浮かべ、トリスタンはかなり大きな仕事をした直後だと言うのに感慨など無い落ち着いた表情で、鵈の言葉を聞いていた。


Hasta(アスタ) la() vista(ビスタ)………でござる」


――――――ッッッゴォオオオオン!!!


 それは山本五郎左衛門からの強烈極まる意趣返し。

 直後、地下都市の中心に天井を破って突き立てられた巨大な槍。いや、トリスタンの『友よ(パロミデス)』の光を軽く越える大きさとすれば、それは『光の塔』と言えるだろう。

 地上からパーシヴァルが打ち込んだその塔を中心に地下の空間は凄まじい勢いで歪み、崩れ、溶け落ちていく。

 そんな光景を尻目に、鵈とトリスタンは音もなくその場から消えた。

『大部屋』の術式や“白面金毛”の力で維持されていた空間は完全に破壊され、空間の収縮により中心に向けて迫る壁に呑まれた物体は漏れなく土の中。唯一生き残る事を許された“鬼”……強襲部隊仕様のシノビ(もど)きはどう切り抜けたのか定かではないが、鵈の言葉は一言一句漏らさず伝わった。

 その後、ブチキレた“白面金毛”の八つ当たりという名の介入により、赤坂村正率いる退魔師数十人の戦いは熾烈を極める事となるのだが、村正の手腕で何とか痛み分けに持ち込んだ。

 その後、温厚な村正が溢した恨み言は五郎左を震え上がらせたという。



円卓というワードに気分が上がったアナタ……


アナタは厨二病を患っている可能性があります。一度検査をしてみましょう。


検査方法の一例:

鳳凰院凶真の言動と自分の言動を比べてみて三つ以上の共通点があった場合。精密検査の必要があるかもしれません。


また、以下の項目で四つ以上該当した場合も、注意が必要です。

・眼帯を着けた事がある(未使用品の所持も含む)

・本を読む時はページをめくる時以外、片手しか使わない

・好きな色が闇色、クリムゾンレッド、白銀

・衝動的に右腕を押さえる、または「くっ」て言う

・ニヒルにワラう

・設定を持っている(自分だけのルール含む)

・語尾が『~ぜよ』

・風が騒がしい

・よく前世が冥王だったことを思い出す

・実はダークフレイムマスターだ


最後に、大量の型月作品(ディスクやグッズ、書籍等々)を用意し、どっぷり浸かってみましょう。二週間後、覚えの無い令呪が手の甲に現れていたら………末期です。レッツカウンセリング!

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