閑話3 セレスティア救出
その日の夕刻、
外出から戻った父、バッハヘルム辺境伯を尋ねた。
「父上、お忙しいところ火急の要件にて失礼します」
「ヴァルが仕事中に話とは。まあ座れ」
焦った様子を察した父はすぐに応接にオレを座らせた。
「父上、セレスティア嬢が狙われています。狙っているのはダストボ男爵。すぐに領地に連れていきたいのです。彼女は事故死にみせかけて殺されます。おそらく明日にも」
「落ち着け、話はわかった。事情は後から聞くが、まずは対策だ。セバン、馬の準備と令嬢が滞在できる部屋を領地の屋敷に準備させてくれ。急ぎだ」
執事のセバンに指示を出す。
「はい、旦那様」
セバンは部屋を辞した。
「父上、セレスティアはモップノ伯爵家でも継母によく思われていない様です。どのように救い出すおつもりですか」
オレは不安な思いを口にする。
「ヴァル、今からモップノ伯爵家へ正式な婚約締結とセレスティア嬢の来領を申し入れる。その代わり相場の3倍ほど準備金を渡すといえば文句はあるまい?特に継母は、な」
オレをみて諭すように言った。
「ヴァル、今から行くぞ」
「はい!」
ーーー
辺境伯と俺、少数の護衛で伯爵家へ向かう。
――その途中。
ちょうど、セレスティアの馬車が屋敷を出るところだった。
(動きが予想より早いな)
俺は一瞬だけ気配を消し、馬の死角へ滑り込む。
次の瞬間には進路の真正面に立っていた。
「止まれ」
御者が驚愕して手綱を引く。
……忍びスキル、応用は利く。
護衛が警戒する中、俺は名乗った。
「ヴァルカス・シャワードだ。話をさせてくれ」
しばしの後。
馬車の扉が開いた。
現れた少女は――
透き通るような白い肌に、淡い金色の髪を持つ少女だった。
光を受けて揺れる髪は柔らかく、瞳は静かな蒼。
どこか儚げで、それでいて芯の強さを感じさせる。
――これが、“素行不良”の令嬢だと?
噂とはまるで違う、好感の持てる令嬢だった。
「お出かけのところ申し訳ない。少し話があり参上した。時間をいただくことはできるだろうか」
オレは務めて丁寧に話しかける。
「はい、でも辺境伯様が私にご用があると聞いて今から訪問するところでした。時間を間違えて遅れてしまっていますか」
少し焦ったような動揺したような口調と態度で聞いてきた。
父バッハヘルムが答える。
「当家では呼出しはしていないのだ。おそらく罠だろう。モップノ伯爵家の屋敷に戻ろう。同行を許可いただきたい」
彼女は迷ったあと、静かにうなずいた。
こうして――
俺は、追放された令嬢を「保護」することになった。
ーーー
〜セレスティア視点〜
外出の準備で慌ただしい。
シャワード辺境伯家からの使者が来訪し、辺境伯家の王都の屋敷に呼ばれた。
辺境伯家からすれば、王家から私との婚約を“押し付けられた”のだ。
そのことで話があるのだろう。
父や母は‘あえて’呼ばれていない、私とだけ話をしたいとの要請だ。
「いくら何でも当日に呼び出すなんて。指定時間も早すぎます。さすが奔放辺境伯令息様ですね」
侍女のアンナが私のために怒ってくれている。
「何かお急ぎのご用があるのよ、きっと」
「そんなのあるわけありません!あ、はい、できましたよ。嫌ですけど参りましょう」
アンナの剣幕に思わず笑ってしまう。
「ありがとうアンナ。おかげで私の毒気が抜かれたわ」
ーーー
アンナと馬車に乗り込み門を出る。
お父様、お母様とは会えなかった。
まあ、あまり普段からお会いできないのだけれど。
門を出てすぐ、数頭の馬に乗った人たちに囲まれた。
非常に立派で目立つ若い貴族の男性がいた。
なぜか目が離せない。
あっ、馬上から姿が消えた?ように見えた。
「止まれ!」
「えっ…」
私たちの前に出て隊列を静止している。
いつの間に?
「ヴァルカス・シャワードだ。話をさせてくれ」
あれがヴァルカス様。
噂とは違いとても冷静で聡明そうな雰囲気を感じた。
そして、綺麗な瞳と髪、顔立ちも整い優しそう。
「お嬢様、あのような失礼なやつ、相手にする必要はありません。まあ、ちょっと顔はいいですが。いえ、騙されてはいけません」
私は少し苦笑いしたが表情を引き締め扉を開けヴァルカス様に軽く礼をした。
「お出かけのところ申し訳ない。少し話があり参上した。時間をいただくことはできるだろうか」
丁寧、とまではいかないが気をつかった物言いだ。
「はい、でも辺境伯様が私にご用があると聞いて今から訪問するところでした。時間を間違えて遅れてしまっていますか」
努めて冷静に話しかけたが動揺していた。
私を押し付けられたのに、時間も守れないのではもう…。
「当家では呼出しはしていないのだ。おそらく罠だろう。モップノ伯爵家の屋敷に戻ろう。同行を許可いただきたい」
別の男性が声をかけてきた。ヴァルカス様のお父様だろうか。
私は少し迷ったが、このまま辺境伯家の屋敷は目指せない。静かに頷いたのだった。
うん?アンナの様子が少しおかしい。
「何で来んのよ。もっとちゃんと掃除しておけば…。まったく…なによ」
…アンナ、顔、真っ赤よ。




